第200話 最強はアップデートを楽しむ㉓

 ティタと風牙の暴走で、予想外の緊急事態に陥った。

 このまま二人を犠牲に自分も含めたクラメン達を無事帰還させたいと言う思いと、この状況をかなり楽しいと感じる思いとで私は葛藤していた。とりあえず、帰還したい人もいるだろうから、帰還の護符が使える陣までの道を確保したい。

 入り口へは……あぁ、ティタ達が引いたモブでもっさりか……。なんとかアレを抜けきるまで、タゲ持たせて走らせておきたいけど、これだけいると無理だよね。


[[大次郎先生] ど、どうする?]

[[†元親†] いりゅーじょん発動?]

[[黒龍] それだ! ren。バリア入れてからのドラゴン召喚で!]


 テンパっている様子の先生、チカ、黒によってイリュージョンを発動させることが確定しかけた。仕方なく発動するかと思いかけたその時――

 マップに表示された入り口に私達以外のプレイヤーを示す

 あぁ、これでもう逃げる選択しすらなくなった。これだけのモブを放置して、陣まで逃走すればあの人達へMPKする事になってしまう。かといって、彼らに逃げろと伝えてその時間を稼ぐとなれば、確実にこちらが全滅するだろう。

 諦めの気持ちを全面に出しながら、クラチャでプレイヤーの存在を伝える。


[[ren] 無理。入り口にプレイヤー居るから巻き込む。死ぬ気で狩ろう]

[[白聖] 詰ンダナ]

[[ベルゼ] 死に戻り覚悟で、やるしかないってことだぁ~(涙]

[[ミツルギ] クラハンに来ると毎回死にそうになってる気がするっす。

       なんでっすか?]

[[大和] とりあえず、風牙かティタ、どっちかだけこっちに来て。

     両方同時にこられると詰むから!]

[[鉄男] ミツルギ、それは考えるな?

    このクランのクラハンが、毎回こうなるのはいつもの事だ!]

[[ティタ] 俺まだしばらく持つから、風牙先に~w]

[[ヒガキ] 頑張って倒しましょう!]

[[さゆたん] ティタ、嫌な誤字でしゅw]

[[ティタ] 誤字ジャナイケドネ?]


 クラチャに詰んだ事実を流し、各々の反応を見れば白は呆然と呟き、ベルゼがどこぞの漫画よろしく熊の耳を付けた顔で上唇を噛み男泣きする。泣いていは居ないようだが……。

 ミツルギさんは、素朴な疑問っぽい感じでぶっちゃけトークをかまし、大和は冷静にこの状況に対応しようとしていた。鉄男の言い分にモノ申したい気分になるが、ティタの誤字で一気にヘイトがそちらに向く。さゆたんが、本気で嫌そうに突っ込みを入れれば、否定したティタがニヤっと笑った。

 確実にこいつは敵だ! 白チャでクラメンの誰かがそう叫び、乱戦へと突入した。


「構っていられないからこっちで、チカ。フウ戻ると同時に、バリア発動。大和と黒はレンジヘイトで取れるだけのタゲ取って! 宮はフウに回復集中。さゆ、キヨシ、ゼン初っ端からメテオで飛ばして、鉄男以外の近接ははゲッターサークルよろ」


 早口で捲し立てるように指示を出した先生の声に、全員の顔が引き締まる。黒達まで後二十メートルと言う所で、一緒に走っていた引き役のティタと風牙が、左と直進で別れた。別れた途端、ティタに引かれているモブがごそっと左に折れて行く。


[[村雨] ティタ! イキロヨ!]

[[キヨシ] グットラアアアアアアアアク!]


 見事な敬礼を決めてティタを見送る村雨とキヨシ。そんな二人にティタは振り返る事無く、片手を振り走り去った。あぁ言う姿みるとイケメンなのになんでだろう……凄く残念な奴にみえるのは……。


[[風牙] 行くぜ。よろしくな!]

[[黒龍] よし、腹は括ったどんと来い!]

[[大和] 任せて~!]


 残り五メートルで風牙が、盾二人に顔を向ける。そんな風牙に、胸を叩く黒と頷く大和。頼りになる盾二人が同時に、レンジヘイトを発動させ迫りくるモブの手前の方から、自分へと呼び寄せる。複数回のエフェクトがあがり、宗乃助をはじめとした近接組が、ここぞとばかりにゲッターサークルスクを使いモブを二人の方へと更に寄せた。

 壁際に立つ黒大和に挟まれ、風牙のHPの減りがヤバイ。宮ネェの必死の回復を嘲笑うかのように、ガツガツ削れる風牙のHP。

 マズイ! そう思った時だった。


[[大次郎先生] チカ]

[[†元親†] リョッ!]


 返事をするが早いかのタイミングで、チカがバリアを発動させる。


[[風牙] やべぇ! 怖! あの減り方、マジで恐怖!]

[[宮様] 怖い。回復する方も怖いわ!]

[[キヨシ] チビリソウw]


 確かにあのバーの増減を間近でみれば、怖いと思うだろう。私だったら、いっそ見殺しにしてくれ! と叫んでいるかもしれない。死ぬ時に最悪でも、元凶は巻き込んで死ぬけど……。

 自分ならどうするか考えながら、現実逃避をしてみるものの……目の前で、ブラックジャガーの尻尾が揺れて、現実逃避どころでは無くなった。

 ブラックジャガーの尻尾を追って視線が、死戦場へと向く。


 降り注ぐ炎を纏った岩。押しつぶされ、飛ばされ無残な状態で血反吐を吐く動物達。キヨシ、ゼンさん、さゆたんが三角になるような形で黒、大和、風牙を囲み、その中心部へ向けてメテオを打ち続けている。中心部では黒、大和がレンジヘイトを飛ばしモブのタゲと取りつつ、近接組がゲッターサークルで纏めあげ、唯一の槍である鉄男が無双状態でスキルを使ってた。

 漸く半分捌いたところで、キヨシたちのMPが切れたと言う報告が上がる。時間にして約五分だろうか?

 その声を聞いた黒と大和がすかさず走り出し、モブのタゲを引いたままグルグルと室内を回り始める。


[[大次郎先生] MP回復して]

[[ren] ソウル変更]

[[村雨] ティタ生きてるか~?]

[[黒龍] 俺と大和とティタに、移動速度くれ]

[[ティタ] 生きてるけど、増えてる~((]


 先んず、宮ネェ、チカ、キヨシ、ゼンさん、さゆたんの五人と鉄男にMP回復が優先される聖のソウルを入れた。黒と大和が同時に走り私の側へと寄って来るタイミングを計り、水のフルークトゥスを入れた。

 ティタはどこだろうか? 着て貰うより探した方が早いだろう。そう思った矢先、ティタの背後に、さっきよりさらに増えたらしいモブの大群が見え頭痛を覚えた。


「ren~」


 なんでそんな元気なの? そう突っ込みを入れたいけれど、突っ込むより先にバフを優先させる。戦闘中に更新した黒たちよりも、走りまわり更新バフを受けていないティタのバフが多分もう長くは持たない。ここで、是が非でも更新しておく必要がある。


[[ren] 鉄男、並走よろしく。タゲ来たらヘイトで取って]

[[鉄男] りょーかい]


 見えたティタの姿に並走するように走り寄り、走りながらバフを更新する。バフをする度に、何匹か流れて来るモブのタゲを器用に鉄男がヘイトでとってくれた。何とか無事に更新を終えて、ティタを見送る。

 入れ違いで呼び戻された黒と大和が、ジグザグに走りながら壁際に戻ると同時に殲滅が再び始まった。


[[宮様] 増えてるわよね?]

[[宗乃助] 増量でござる]

[[†元親†] エンドレスゾーン?]

[[キヨシ] うがあああああああああ、いつおわんだこれぇぇぇぇ]


 やっぱり、見捨てて帰るべきだったかもしれない。

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