第174話 最強は幻想を堪能する②

 ミツルギさんたちの取得経験値倍増POTの効果が終わり、それに合わせ狩りを終わらせた。

 話し合いの結果、一度ハウスに戻り休憩を入れる事を決め、ハウスに帰還する。

 その後、トイレ休憩などのもろもろを済ませ全員が居る事を確認して、転移させてくれるNPCの元へ移動した。


 NPCの居場所は、デメテル。

 大神殿の裏にある湖の畔にその人は一人佇んでいる。

 片翼の天使の見た目をしたその人は、男か女か? 酷く中世的な面立ちをしていた。

 憂いに満ちた表情で湖の湖面を見つめいるようなそんな雰囲気だった。


 見る人がみれば、どうしたんですか? 大丈夫ですか? なんて声をかけるのだろう。

 けれど、そんな感傷に浸っている天使とは真逆に、うちのクラメンたちは異常に胸をときめかせ超いい笑顔でその天使の側に立っていた。


 理由は簡単……。

 宝箱から獲得した例のアレを使い”クエストアイテム一人につき百万個集めるまで帰れまてん”を、やる気満々だからだ。

 廃人集団だからこそ、楽しいやワクワクすると思えるのだろう。なんてことは私を含め誰も考えない! ヤル一択しかない。


[[大次郎先生] 全員いるな?]

[[宮様] 大丈夫よ]

[[大次郎先生] じゃぁ、皆この天使に話しかけて移動~]


 答えるように手を上げる。

 先陣を切ったのは、黒と大和、そしてティタと次々クラメン達が消えて行った。最後に残った、私と鉄男が頷き合い天使にはなしかける。


【 オリンポス・幻想峡のチケットを使用しますか? Yes ・ No 】


 Yesをタップすると同時に視界が暗転し転移した。



 暗かった視界に急にネオンの明かりがともる。

 それは転移したばかりの私の目には、酷く、眩しくよろしくない。

 

[[村雨] よし、狩り行くか―w]

[[さゆたん] そうでしゅねw]

[[鉄男] 俺、カジノ行って来るw

    ゼル無くなったら合流するわ~w]

[[大次郎先生] ここは、各自自由行動でw]

[[キヨシ] いやっほぉ~! カジノだー!]

[[宮様] はい、あんたはこっちで狩りね]


 先生の声に反応したキヨシは、宮ネェに首根っこを掴まれ強制的に狩りに参加させられる事が決定した。

 その一方で、鉄男・大和・シロ・風牙・先生はカジノへ向かうようだ。


 鉄男も出来れば捕まえておいた方がいい気がする。

 が流石に、装備を売り払ってまでカジノで遊んだりはしないだろうと思いなおし放っておいた。


 狩り組であるメンバーと連れ立って歩き、南にあるカジノとは真逆である北の平原へ向かう。

 平原への出入り口は北にひとつあるだけで、他は全て城壁? のような高めの壁に囲まれている。

 そのためそちらに向かいつつ、クエストNPCであるジャリコの店を探した。


 ジャリコと名のついたニンフの店に辿り着き、皆でクエストを受ける。


[[ゼン] クエストアイテムって1個

    どれ位の経験になるんですか?]

[[宮様] @300ゼル。

    %表示で、二次だと平均0.010%~ぐらいかしら?

    Lvに応じで1.6倍だから詳しく計算してないけどw]

[[白聖] 一次で1.64%ぐらいだから、0.010~0.008か?]


 正確な数字は計算機を使わないと分からない。

 簡易的な計算になるけれど一次と二次だと0.8の100倍で、Lvに応じて経験に必要な数値が上がる。

 二次から三次で2倍になっていたはず。

 なので1.64%÷160で大体、宮ネェやシロの言うぐらいの数字になるはずだ。

 と言っても、二次のLvにより必要な数字が変わるので正確では無いのだが……。


[[ヒガキ] じゃぁ、自分は後……165400個?]

[[ミツルギ] 三次だと、0.005ぐらいっすか?]


 実際の数字を知ってしまった三人が顔を引き攣らせる。

 個数だけを表示させればそうなってしまう気持ちも分からなくはない。

 

[[村雨] 裏技使えば、そうでもない

    数字だから心配要らないw]

[[黒龍] だなw]

[[ゼン] 裏技ですか?]


 そうだよ――と言ったティタが裏技についての説明を始める。

 以前イベントに参加していたクラメンたちならば当然知っている。

 あるプレイヤーが発見した事で、それをどこからか知ったプレイヤーが広めたものだ。


 クエストアイテムは、クエストを受けなければどれだけモブを狩ろうともドロップしない。しかもトレード不可だ。

 

 そこで、経験値が欲しいヒガキさん、ゼンさん、ミツルギさんの三人にだけクエストを受けて貰う。

 そして、PTを組み全員が見える範囲に散らばりモブを狩る。

 すると、クエストアイテムが三人に集まるのだ。


 それら全てを三人に納品して貰えば経験値が三人に入るし、ゼルは纏めて均等分配にすればいいだけになるので揉めない。


[[ティタ] ってな感じになるんだよ~]

[[ヒガキ] そうなんですね!]

[[さゆたん] 帰れまてんやるでしゅよw]

[[宗乃助] その前に、寝袋買うでござるよw]

[[聖劉] そうだね。寝袋必要だね!]

[[ミツルギ] 寝袋?]


 そう言えばそんなものもあったな……。

 宗乃助の言葉に、寝袋の存在を思い出した。


 寝袋は、このオリンポス・幻想峡でしか使えないアイテムだ。

 一つ1Mと高いものではあるが、ログアウトすると街に戻されてしまうここでは必ず一つは持っておく必要がある。

 あくまでもここはゲームで現実世界では無い以上、トイレ休憩や食事休憩などの休憩をする際どうしてもログアウトするしかない。

 そこで、20分だけ現実世界に戻れるようにするアイテムが寝袋なのだ。


 注意点としては、使用開始から20分を経過しても本人が居ない場合、自動で街に戻りログアウト状態になってしまう事ぐらいだろう。


 宗乃助が私の代わりに説明していたので、補足程度に注意点だけを三人に伝えておいた。

 クエストを三人が受け終わり、寝袋を購入し終えると早速狩り場に向かう。


 イベント当初はゴミゴミしていた狩り場だが、今ではこのチケットが無い限り入れなくなったおかげで狩り場には私たちだけしかいなかった。

 見渡す限りの平原に、動き回るモブの気配を感じる。


[[宮様] じゃぁ、時間無制限。

    三人が三次カンストするまで帰れまテン!

    始めるわよ~!]


 宮ネェの声に合わせ、バフを入れる。

 個別バフを入れ終わった所で、カウントが始まり帰れまテンが開始された。


 GoGoの合図と同時に、私を含めたクラメンたちが一斉に飛び出す。

 まずは近場に見えた、長く鋭い角を持つフワフワしてそうな白い毛長兎――ウーニコネル ラビットに向け、ブレス オブ アローを一発叩き込んだ。

 魔法を受けた兎が、灰色になり倒れ黄色のエフェクトに変わる。


 それを確かめる事も無く、右前方に見えたウニコルノ ホーンに向け走りよると左手の刀を差し込んだ。

 そのまま、首と胴を切り離すように斬り付けた所で、雷を纏ったオリハルコン アローが黒毛和牛に一本の角が付いた牛を貫いた。


「チッ」

[[白聖] わりーなw]

[[ティタ] クソっ!]

[[さゆたん] 遠距離有利でしゅw]

[[キヨシ] いくぜー!]

[[黒龍] だー! くそっ!]

[[宮様] ごめんね?w]

[[ミツルギ] あぁ~。獲物がぁ~!]

[[村雨] 遅い!]

[[ゼン] モブがw]


 やっぱりこう言う時は飛道具か! そう思いつつも、ついついモブを奪われた事に舌打ちしてしまう。


 悪いなと言いながらも、私の周囲に居るモブを倒していくシロ。

 漸くモブに攻撃を加えられる位置まで移動したにも関わらず、さゆたんにモブを倒されたティタ。

 ヘイトを入れたそばから、宮ネェの二次魔法でモブを狩られていく黒。

 気合十分、固定砲台とかしたキヨシにモブを奪われるミツルギさん。

 移動速度が遅いせいで、次々モブを村雨により目の前で倒されるゼンさん。


 それぞれが、クラチャで思いのたけを叫ぶ。

 それでも、たった数分で既に100を超えるモブを倒していた。


[[ren] 近接は動き回らないで近くに居るのだけで

    後半どうせダレルから]

[[鉄男] 来たああああああああ!]

[[宗乃助] そうでござるなw]

[[ティタ] そう言えば、宗何してるの?w]

[[大和] あ……。鉄男そこ?w]

[[宗乃助] クナイ作ってるでござるよw]

[[大次郎先生] 詰んだなw]

[[白聖] さゆたん。中央任せたw]


 序盤は、MPや消耗品が十分にあるためこうなる事はなんとなく予想がついていた。だからこそ、近接である私たちが自由にできるのは後半だ。

 それを踏まえて皆に伝える。

 と、カジノ組が何かしらあったらしい発言をするが、その詳細はわからなかった。


 とりあえず皆がダレルまで、気長にモブを探し倒そう。

 気持ちを切り替え近くに沸いたユニコーンを斬り付けた――。

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