第153話 閑話 雪継の災難②

 それは、久しぶりのクラハンでモブを引いていた時に起こった――。


”白聖” いるか?

”雪継” はい……。


”白聖” 雪、お前んとこクランハウス持ってたよな?

”雪継” はい。


”白聖” じゃぁ、貸せ!

”雪継” は?


”白聖” 会議室貸せw

”雪継” え? うちの?


”白聖” それ以外に何があんの?

”雪継” ナイデス


”白聖” じゃぁ、よろしく!

”雪継” ちょw いつ??


”白聖” 今日! つーか今から! それとお前と千桜も参加なw

”雪継” ……ハイ


 BFこと、Bloodthirsty Fairyの大先輩であるシロから密談が届く。

 一方的にクランハウスの会議室を今から貸せ。そう言われ、俺は酷く戸惑った。

 けれど、色々教えて貰った手前……現BFのメンバーにだけは、逆らえない。その上で、何かに参加させられるらしい。


 つーか、俺の都合聞かないあたり、もう本当にあいつら自由すぎだろ! この間のアレといい……いつもの事ではあるけど、好き勝手し過ぎだ! 

 そう本人達に言えれば、どんなにスッキリするだろう?

 そんな事を考えたところで、ヘタレの俺には言えないんだけどね。


 って、タソガレテル暇なかった! 急いでクラメンに言わないと!


[[さつきちゃん] ちょっと、水無月! そこダメだって!]

[[ぶる~む] あ~。死んだw]

[[水無月] ……]

[[雪継] えっと、今からちょっと会議室使うから皆、立ち入り禁止で]

[[獅子王] これは、ちょっと一回立てなおさないとダメだなw]

[[雪継] 用事で、クラハン抜けるねw]

[[千桜] 雪どうしたわいね??]

[[無慈悲] え? マスター抜けたらどうにもできなくなる!]

[[むー姫] なに? どうかしたの?]

[[雪継] 千桜。シロからの呼び出し。一緒に来いってw]

[[ぷる~む] じゃぁ、場所変えたようが良いかな?]

[[千桜] それは、断れないわいねw 私も抜けておくよw]

[[む~姫] ん? まぁ、とりあえず分からないけど、場所は変えよう

     マスターと千さん居ないならココは無理]

[[さつきちゃん] 了解]


 とりあえず、BFのメンバーとは会わせない方が良いだろう。

 そう考えてクラチャで、会議室の立ち入りを禁止する。

 そして、クラハンを抜ける事を伝える。突然の俺の行動に、首を傾げた千桜。そんな彼に、シロと言う単語を言えば、納得してくれたらしい。


  千桜も俺も、あそこのメンバーには逆らえない! 大事な事だから二度、思ってみるが虚しいだけ……。

 PTを抜けクランハウスに帰還すると既に、BFのメンバーたちとシルバーガーデンのロセ、白影。そして新宿二丁目の小春ちゃんやソロ中の元・殲滅者たちが門の所でたむろっていた。


[[千桜] こうやってみると、借金の取り立てにきた893だわいねw]

[[む~姫] 沼に移動しましょうか~?]

[[無慈悲] 千様、何言ってるの?]

[[雪継] ガラの悪い。チンピラだな……]

[[千桜] 身内だった時は可愛く見えたのに……。

    今、見ると本当に恐ろしい集団だわいねw]

[[獅子王] 二人共どうしたんだよ?]

[[さつきちゃん] さぁ?]


 遠い目をした千桜が扉を開け、会議室へ案内する。


「わりーな生ジルw」

「邪魔するわw」

「お邪魔するわねんw」

「元気そうでしゅね。生ジル君」

「よっ雪、じゃなかった生ジル!」

「ちょw そのネタ辞めて!」

「何の事だ?」

「邪魔するなw」


 悪意しかない挨拶を受けた俺は、辞めろと訴える。

 まぁ、この人達が俺の言葉なんかを聞くはずもなく……。

 気にするのを放棄した。


 突然の話にその詳細を知っていそうな、先生を見れば周囲を見回し現在ログインできる元クラメン全員が要るかを確認していた。

 

「それでは会議を――」そう言って話しを始めた先生が、俺を生ジルと呼び説明を求めるも俺は何も聞いていない……。

 ふっと密談を寄こした白を見れば、ツイーっと視線を逸らされた。

 おい。お前が説明はしょったんかい!! そう毒を吐きながら、生ジルと言う言葉に反応し、先生の方へ突っ込みを入れた。

 すると、ロゼ、源次、風牙、村雨、小春ちゃんそして、黒が次々発言する。


 結局人選ミスと言うか、なんの事情も知らない俺が発言する事は無く白にその役目がまわされた。


 こうして元クラメンが集まるのは、renがクランを解散させた後に卑弥子ねーさんとキヅナの兄貴が元クラメンを集めたあの日以来だ。

 あの事件は俺や千桜にとっても、物凄く衝撃的な事だった。

 

 理由を聞いてクランがもし復活するなら……そう思っていたけど、結局renはクランを作らず。俺は、他のクラメンを誘い別のクランを作ることにしたんだけど……。来たのは千桜だけだった。

 

 それも懐かしい思い出ではあるが、黒や白の反応を見る限り未だrenはミッシェルの事を忘れていないのだろう。

 俺たちに何かできる事があれば……そうは思っていても、クランが違う今出来る事は少ない。


 そんな事を考えている間に、宗乃助からドッペルについての情報が欲しい。そう言われた。


 実際俺がその試合を見ていれば良かったのだろうが、生憎自分自身もトーナメント戦に出ていた為見ていない。

 クラメン達に問い合わせるも、曖昧な答えしか帰って来なかった事を考えると、試合を見ていた奴はいないのかもしれない。そう思えた。


「励ましか……ん~。そうだ! なぁ、皆でrenの気晴らしにパーティーでもしない? ほら、昔やったじゃん。闇鍋とかさ~。あぁ言うのやろうぜw」

「うっ! 今のrenに食いものはダメだ!」

「食べ物は止めとけ! renにぶっ殺されるw」

「あぁ、キヨシとティタとチカ殺されたしな?w」

「――え?」

「何やったのよw」

「原因はミックスジュース。

 けど、ティタとチカは笑い過ぎて……巻き込まれて、殺されたw」

「その後、煌めく使って起こしてたけどw」

「「「「勿体ない!」」」」」

「なんで殺したのよ!」

「なんでそんな無駄な事すんだよー」

「renの価値観がわからないわいねw」

「同意であるw」


 風牙の励ましパーティー企画に、食べ物はマズイと現BFクラメンたちが口ぐちに止める。

 理由を聞けば、キヨシがミックスジュースを勧めた。それを出したrenに新しく、クランに入ったミツルギって奴がまずいと言ったらしい。

 その事をクラチャでrenが問い詰めた時に、キヨシはその会話自体を忘れ、ティタとチカは爆笑。そのせいで、三人とも殺されたと言う。

 その後の、煌めく復活は本当に勿体ないとしか言えない。


 相変わらずの様子に、微笑ましさと言うか懐かしさを感じながら再び何かイベントは出来ないか考えたが思いつかず、結局各自の宿題のような感じで会議は終わる。

 最後の方は、雑談だったけど……。


[[むー姫] マスターいる?]

[[獅子王] 二人共戻って来ない?]

[[雪継] ごめん。ちょっと今、会議中?]

[[千桜] 申し訳ない。元クラメンが集まって話し合いだわいねw]

[[さつきちゃん] 元クラメン?]

[[水無月] それって、殲滅の破壊者の?]

[[雪継] うん。そだよw]

[[松本kinght] 本物? マジもんが来てるの? みたい!]

[[燵魅] よっすー]

[[むー姫] 戻ろうかw]

[[千桜] 本物? って聞かれると、本物しかいないわいねw]

[[水無月] 戻る! みたい!]


 クラチャで、会議をしている事を話すと狩りを止めて戻ってくると言う話になった。

 戻る前に、早く解散させよう!

 千桜に目で訴え彼が頷いたのを確認して「そろそろ解散にしようか?」そう声をかけた。


「そうだね。とりあえず情報よろしく!

 手間かけさせるとは思うけど、もうあんなことにはしたくないんだ。頼むわ」


 そう言うと珍しく黒たちが、俺たちに頭を下げた。

 いつもなら絶対そんな事はしない奴らが……だ。それだけ思い入れが強いのかもしれない。

 いつか、いつか俺もあんな風にクラメンに思われるマスターになれるだろうか?

 少しだけ、renが羨ましい。そう思った――。



――後日談。


 あの日会議室から出る元メンバーたちを見送るため会議室の扉を開けた俺は、自分のとこのクラメンが目を輝かせ中を覗き込む姿を目撃する。

 なんであんなに目を輝かせているんだろう? 同じプレイヤーだぞ?

 ていうか、こいつらの大半はチンピラだぞ? そう思ったのは内緒の話だ。


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