第127話 最強は夢想する⑦

 クエストの骨を獲得した帰り道、相変わらずサスペンスドラマの曲が頭から離れず、骨の鑑定をしてくれる集落の長老の元に辿り着くまで、鼻歌を歌い続けた。

 

 これが何の骨か教えてくれるのは、集落の長老で最年長のキーリンググさんだ。宿屋から反時計まわりに四軒目の家。少しだけ他の家より作りが大きい家にいる。

 家と言っていいのかは甚だ(はなはだ)疑問ではあるけれど……。


 扉も無いので、そのまま素通りで室内に入り正面に座るキーリンググさんに話しかけた。ドワーフの時と同じように、また何かを渡さなければならないと思い込んでいた私は、選択項目にあるヤシの実ジュースを近くのNPC露店で購入して渡し、骨を見せるをタップした。


 骨を見た彼は、それを手に取ると懐かしいと言い眼を眇め笑うと元は何だったのかを教えてくれる。


【 これは懐かしいものだな……。この島にワシらが住み着いて直、荒ぶるケンタウロスを倒すためポセイドーンがワシらに与えてくださった。竜宮からの御使い様の骨じゃ 】


 大切にその骨を撫でたキーリンググさんが、そう言うとポーンと聞いた事無い音が鳴り××の骨と言う表示にリュウグウノツカイの骨。と表示された。

 なるほど、竜宮からの御使い様の骨じゃなくて、リュウグウノツカイの骨ね。


 クエストを終えたところで、時計を見ればまだ1時間弱時間が余った。未だ定期船で移動中らしいクラチャをBGMに代行をしようと考え、宿屋に戻った。


[[ティタ] ちょ! チカ落ちるってw]

[[黒龍] 釣りいいよなー。

     釣れなくても竿握ってるだけで落ち着くわ~]

[[白聖] ティタもう、ほっとけw

     落ちたら自力で泳いで戻ってくんだろw]

[[宮様] 子供じゃないんだからほっときなさいw]

[[ren] 宿屋に居るから、ついたら鳴らして]

[[ヒガキ] 本当に落ちそうで、俺の心臓が痛いです!]

[[さゆたん] 黒は本当に、釣りが好きでしゅねw]

[[宗乃助] あ! ヤバい気がするでござる……]

[[大次郎先生] 宗?]

[[キヨシ] どうしたのー?]

[[ミツルギ] ん?]

[[宗乃助] 戦闘準備するでござるよ!]

[[ゼン] えっ?!]

[[鉄男] ちょっ! なんか来たぁ~w]


 宗乃助の言葉に一瞬だけ沈黙したクラチャ。その後キヨシ、チカ、鉄男の悲鳴が上がりそのチャット内容から、定期船がクラーケンに襲われたらしい事が分かった。

 クラメンならば、クラーケンぐらいなら余裕だろうと思い。そのまま製本に入り気付いた時には皆が島に到着していた。


[[宮様] ren。クエスト終わったのよね?]

[[さゆたん] 長かったでしゅw]

[[キヨシ] 後で、このたこ足でタコ焼き

      作って貰おうぜ~w]

[[ren] y]

[[黒龍] んじゃま、クラハン行くかw]


 黒の声を合図に、PTに誘われ承諾をタップする。他の皆はと思い宿屋を出れば集落で売っているヤシの実ジュースを買って飲んでいた。どこかの観光地の様なその光景に、何故か再びあの曲が脳内に流れる。


 どこで狩りをするかと言う話し合いを行い。東には胡蝶達がいたよ? と伝えた刹那、島の北側で狩りをする。と即決したのは先生だった。

 集落の入り口で、バフとトランスパレンシーを入れてから北側に向かい移動を開始する。


 この島の恐竜は、東西南北で出現するモブの強さが変わる。

 その中でも北はHPの多い肉食竜のティラノザウルスが闊歩する狩り場ではあるが、その他の恐竜も多く範囲狩りに向いている狩り場だ。


 集落からは一番遠いとされる東よりは近いものの、ケンタウロスを避けて狩り場に向かう事になり移動にはそれなりの時間がかかった。

 漸く到着した狩り場で、まずやる事は闊歩するティラノザウルスを狩る。


 ティラノザウルスはHPの多さとその硬さのせいか一度狩れば、20分は湧かない仕様になっている。

 あくまで憶測だけど、ケンタウロス以下その他の恐竜以上の地位を与えられたボスのようなモブ的扱いなのではないかと思う。


 なので、北ではティラノザウルスを20分おきに狩り、狩り場の安全を確保しながら範囲狩りをする。


[[黒龍] ここにするか。ここなら1匹だけだし]

[[大次郎先生] わかった]

[[ren] バフ]


 ティラノザウルスを狩るためのバフをかけ終わり、黒が慎重にティラノザウルスだけを釣り待機場所に連れて戻って来る。それを待ち受けたように、前衛組が取り囲み黒がタゲを固定するのを待って攻撃を開始した。


 ティラノザウルスの攻撃は、噛みつき前足での殴りつけ、尻尾を振る事で弾き飛ばす振り払いぐらいで、他に攻撃は無いはずだが……その一撃一撃が非常に痛い。

 チカの場合一度の攻撃で、HPが半分減ってしまうほどに……。


[[黒龍] 行けると思うわ]

[[宗乃助] チカ。ここでは下がるでござるよ]

[[†元親†] 殴りたいぃ!]

[[ティタ] 死にたいならそのままでいいよ?]


 黒の攻撃許可が下りた所で、バインド(+18)を設置詠唱し発動する。

 ティラノザウルスにさえレジられるバインド……仕方なくアーマーブレイク(+25)に切り替え詠唱し発動させた。


 アーマーブレイクのエフェクトがティラノザウルスの頭上に上がり、近接である、宗乃助、ミツルギ、ティタ、鉄男、先生がその巨体を取り囲み、攻撃を開始した。


 その中に紛れ込むように入っていたチカに対し、危ないから離れろと宗乃助は優しく、ティタは冷たく言った。

 ティタの声音が本当に冷たいと思えるほど尖っていたことから、何かを察したチカが離れ、宮ネェの横に立つと仕方なく武器を杖に変える。

 そんなチカの肩を、無言でキヨシが叩き慰めつつアイス ランスを詠唱しティラノザウルスに叩き込んだ。


[[黒龍] 宗、ミツルギ!]


 黒の声に、宗乃助とミツルギさんが即座にバックステップを踏み後方へ下がると同時に、ティラノザウルスが尻尾を振り、二人が居た辺りに叩きつけると言う攻撃をする。

 それが不発に終わると同時に、ティラノザウルスは近くにいた鉄男に対し噛みつき攻撃を繰り出した。


[[鉄男] こええw]

[[ミツルギ] 危ないっすねw]

[[白聖] ren。スロー入れて]

[[ren] k]


 シロの声に答え、ティラノザウルスにスロー(+20)を詠唱し発動させながら、再度バインド(+18)を設置して詠唱発動させた。スローはレジられたものの、無事バインドが入る。


[[†元親†] 俺の時代がきたあああああ!]

[[さゆたん] バカでしゅw]

[[ティタ] 時代ってww]

[[黒龍] まー。固まったしいいんじゃね?w]

[[大次郎先生] なんで回復選んだんだろうね?w]

[[鉄男] まー。チカだし?w]

[[宗乃助] ゼンとヒガキも殴るでござるよw]

[[ゼン] はい]

[[ヒガキ] はい!]


 黒く変色し固まったティラノザウルスに向け、待ってましたとばかりにチカが嬉々として武器を持ち替え切りつけに走った。

 ティラノザウルスは経験値的に美味しいと知っている宗乃助が、ゼンさんとヒガキさんを呼ぶ。

 

 そこからは、早かった。攻撃を避けるという手間がなくなった上にスキル打ち放題なティラノザウルスに対し全員がフルで攻撃をしかけ一分も掛らず、黄色い粒子になり消えた。


 休むことなく黒とティタが走り、モブを釣りに行く。

 それを見送り二人が入る予定の場所に設置型のバインド(+18)、ショック ボルト(+19)、スロー レンジ(+5)を置き、バフの時間をずらすため宮ネェ、さゆたん、キヨシに対し個別のバフを入れる。


[[ティタ] ごめん。引きすぎたかも@15]

[[黒龍] すまん。大群が居た!]


 引く分量を間違えたらしいティタと黒の声に、宮ネェがそちらを凝視し顔を引き攣らせた。

 それを見ていた私も同じ方向を見れば、走り戻って来るティタの後ろに大量の小型の恐竜がものすごい勢いでついてきていた。


[[キヨシ] 全滅か?w]

[[さゆたん] 死んだかもでしゅね……]

[[鉄男] アレはやべー]

[[大次郎先生] 宮、バリア準備。チカ、宮の後繋いで!

       状況見てren繋ぎでプロテク]

[[宮様] k]

[[†元親†] 任せろ~!]

[[ren] k。ヒガキさんゼンさん離れておいて]

[[ゼン] はい]

[[ヒガキ] はい]


 流石にマズイと思ったらしい先生がバリアの指示を出す。

 死を覚悟するほどの量を引いて走るティタの横に現れた黒が、ティタの倍は釣ったんじゃないかと思われる量を引き攣れこちらに走って来る。


 ”こいつら絶対殺す気だ!” と、その時私の頭に待機所にいる全員の声が聞こえた気がした。

 そんな私はただただ、死を覚悟した――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る