第119話 クランハウス⑯ 閑話 ミックスジュース事件
腹立たしげに、キヨシの秘密基地に目を遣った。まぁ、視線の先にはただの布があるだけなのだが……。
怒りがおさまらない私は、クラチャでキヨシに対しミックスジュースの件を問いただす事にする。
[[ren] キヨシいる?]
[[大次郎先生] そうそう。うまいよゼン!]
[[黒龍] そこだと、ヒガキ位置取りが悪いからこっちなw]
[[キヨシ] どうしたー?]
[[ゼン] やったーw]
[[ヒガキ] はい]
[[ren] ミックスジュース。美味しく無いってミツルギさんが言ってた。
キヨシ騙した?]
[[ティタ] ww]
[[さゆたん] ヤバいでしゅw
renちゃんの呼び出しの理由が可愛いでしゅww]
[[キヨシ] ん~? ミックスジュースなんて俺教えたっけ?]
[[白聖] もしかして、ミツルギ飲んだの?w]
[[ren] 言った! 三カ月ぐらい前に、アップルとオレンジを
混ぜてミックスにすると美味いんだぜ! って言った!]
[[ミツルギ] うっす。クソマズイっすw]
[[キヨシ] ごめん~。覚えてないぜw]
[[宗乃助] ミツルギ……どんまいでござるよw]
[[ren] キヨシ。今どこ?]
[[宮様] まー。ren落ち付きなさい。ね?]
[[キヨシ] 今は、沼でゼンと狩りしてるぜーw]
覚えてない……だ、と……。殺す。マジで今すぐ殺してやる。鼻息荒くキヨシの居所を聞くベくクラチャで問えば、沼にいるらしい。
無言で立ちあがり、執事へと向かい装備の耐久と補充を済ませ【 ヘラ 】の街中へと飛ぶ。
そのまま【 ナイアス 】へとポータルで移動した。
ポータルでバフを入れ、トランスパレンシーを入れる。周囲から姿が見えなくなったところで、全速力で沼目掛け走り始める。
キヨシに制裁を与える為に!
ゼンさんと狩りをしているらしいキヨシ。多分だが、先生もいるのだろう。他のメンバーを殺さずキヨシだけを殺す。
クラマスがクラメンをPKするなど外道と呼ばれそうだが、今回ばかりは許せなかった。
ドヤ顔で進めた癖に……謝るどころかそれすらも忘れてるなんて……ありえない!
全速力で走ること五分。漸く見えた沼の洞窟内部を手当たり次第にマップにプレイヤーのマーカーがあれば見ていく。
最奥一つ手前の部屋で、漸くモブを引くティタの姿を見つけニヤっと口角を上げた私は、無言を貫きトランスパレンシーを使ったまま、ティタがモブを引くのに合わせ中へと入った。
PTチャットで会話をしているらしい、ティタたちがモブの処理を終えるのに合わせ、一人少し離れた場所で佇む、キヨシにアマギリからの一閃を発動させた。
「え?」
「ちょっぅおw れん~~~!」
「シネ」
スキルエフェクトが上がり、キヨシを無数の刃が襲いその後、刀が横一文字に紫のエフェクトを残す。一気に減ったキヨシのHPに驚いたらしいチカがヒールを飛ばし、バリアを張る。
「チッ」
ギリギリ生き残ってしまったキヨシを見降ろし、舌打ちして悔しがる私にティタとチカ、ゼンさんが両手を掴みスキルを使わせないよう羽交締めにすると冷静になれと訴えた。
「ちょっと待ってよw renどうしたの?」
「ミックスジュース……」
「は?w」
「だから、ミックスジュースでキヨシに騙されてむかついたから殺しに来た!」
「ぷっ」
「うははははははwww」
「ちょっと、その理由はダメだって! 草生えるからwww」
理由を話した途端、噴き出すティタ、チカ。その笑いが余計にムカつきを増幅させた。もういっその事全部纏めて殺してやりたい。
[[ren] 殺す]
[[大次郎先生] とりあえず、落ち着いてren
キヨシにはしっかり謝らせるからな?]
刀を自身の身体に引きつけ、重心を下げる姿勢をとりながらクラチャで怒りを爆発させてはっきりとPK宣言した。
慌てて、私とキヨシの間に入り込んだ先生が、両手を前に着きだし落ち着くように訴えるも、私の留意は下がらない。
[[さゆたん] どうしたでしゅか?]
[[白聖] 殺すつってるってことはPKか?]
[[宮様] まさか……さっきの本気で?]
[[鉄男] あー。キヨシの奴?]
[[ゼン] えっと、そうです。ミックスジュースデス]
[[黒龍] ミックスジュースかw]
[[ミツルギ] え……あ、あのま、まずくなかったすよ!]
[[ヒガキ] ミックスジュース……]
[[ティタ] ちょっとw ミックスジュースの連呼止めてw
息が息が出来なくて俺、強制落ちさせられるから~!]
[[ren] マジ、ムカツク!]
原因がミックスジュースだと知ったミツルギさんが、必死にどもりながらまずく無かったと言い始め、ティタが顔を真っ赤にして必死に酸素を求め手を上げる仕草をみせた。
その行為が余計にイラつかせると何故理解しないのか……。
[[黒龍] 分かった。ren殺していいぞ許す!]
[[白聖] 俺も賛成する~w]
[[宗乃助] 拙者も……]
[[宮様] 私も~♪]
[[さゆたん] あたくちもw]
[[キヨシ] ちょっと、まってぇぇぇぇ! 殺されるの俺じゃぁぁぁん]
[[大次郎先生] 諦めろキヨシ。
どうせ、ティタとチカも巻き込まれてEndだから]
[[†元親†] ちょぉぉぉぉ。俺そんな酷く笑ってない!]
[[鉄男] 諦めろ。renが切れたら誰かが死ぬのはいつもの事だw]
「もう、いいかな?」
何を言ってもキレる私に対し、被害を被る事がない黒、シロ、宗乃助、さゆたん、宮ネェ、鉄男、先生が一気に許可を出す。クラチャで殺す許可は得た私は、キヨシ、ティタ、チカに対して再度問いかける。
「死ぬ準備できた?」
「ひでぇぇぇぇぇぇよおおおおおお!」
「renごめん。マジで悪かった。もう笑わないから――」
土下座して謝るチカと顔を引き攣らせたキヨシに対し、もう遅いと言う意味を込めてサイレンス(+25)を詠唱し発動させつつ、足元に設置したバインド(+18)を詠唱発動させる。
バインドにかかったチカが土下座の状態で黒ずんだまま固まるのを見やり、未だ息の荒いティタへと視線を移した。
ティタの足元にまず、スロー レンジ(+5)とショックボルト(+19)を設置し、どちらかが効けばいいと思いつつ発動させる。
[[大次郎先生] 本気だねぇ~]
[[宗乃助] renも鬱憤がたまってたでござるなw]
[[黒龍] これでまた半年位は持つだろ?w]
[[さゆたん] 最近、本当にキヨシとチカは調子に乗ってたでしゅw]
[[宮様] これ、もう半年に1回ぐらいの恒例行事よね~w]
ティタの足元に置いた設置型のデバフのうちショックボルトが効果を表し、ティタが痺れたように動かなくなったところで、バインド(+18)を詠唱発動させる。
6回目の詠唱で漸くバインドにかかったティタ、キヨシ、チカをその場に放置して、まずは先生、ゼンさんに私がモブを引いている間に抜けて欲しいと伝えた。
頷いた二人にバフをかけ、モブを引きに走る。追従する形で先生とゼンさんが通路に出たのをみたところで、三人の元へ戻る。
モブのダメージを受けないよう気を付けながら「イリュージョン カリエンテ」と詠唱した。
巨大な赤いドラゴンが渦巻く雷雲より現れると同時に、周囲のモブを踏みつぶすよう私の頭上へと舞い降りる。
間をおかず大きな口から煉獄の炎を吐きだし、周囲のモブとバインドで固められた三人を巻き込み殲滅した。
カリエンテが消えると、そこには灰色のなったティタ、チカ、キヨシの死骸が転がっていた。
[[ren] 反省した?]
[[ティタ] ごめんなさい]
[[キヨシ] 本当にすみませんでした……]
[[†元親†] 二度と、二度と笑わないから、許してTT]
[[ren] 今回までだからね?]
死んだ三人を見降ろし反省を促す。
今回レッドネームで死んだティタやチカがいるので、課金アイテムである煌めく蘇りのダイアを使う。
この課金アイテムは初回ガチャの時のみ出ていたアイテムで、今ではもう手に入れることはできない。
数年前取引所で一個150M売られていたもので、多分誰かが破産した際に泣く泣く売りに出した物をたまたま見つけて、購入しておいたものだ。
煌めくと付くだけあって、経験値ロスは通常の十分の一。三次職カンストであれば通常7%のロスだが、このダイアを使って起こせば0.7%で済む。
それと同時に、死んだ際のアイテム消失も防いでくれるので一個150Mでも買う価値はある。
[[ren] 起こすから、素直に起きてね? じゃないと知らないよ]
[[宮様] そこは起こしてあげるのねw]
[[白聖] 優しいんだか厳しいんだかわかんねーなw]
アイテムバックから、煌めく蘇りのダイアをタップし、ティタを指定する。無事ティタが起き上がったのを確認して、チカ、キヨシと使った。
[[ティタ] もしかして、これ煌めく?]
[[ren] レッドだと装備消失しやすいから使った]
[[黒龍] 勿体ない!]
[[宗乃助] 勿体ないでござる!]
[[さゆたん] なんで殺したんでしゅかあああああ!]
絶叫するさゆたん。他のメンバーにも散々勿体ないと連呼された。
今回はレッド居たし特別だったから、と言い訳しつつ確かにこれ使ったらPKした意味が無いなと反省した。
それでも、気分は大分晴れたのでいいかと思いなおし、先生とゼンさんを呼び寄せバフを入れる。
一緒に狩ろうと言うティタたちに、キヨシのメテオまだ書きかけだからと断りを入れ、ポータルまで移動した。
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