第116話 クランハウス⑬

 クランハウスへ戻り、リビングで加入後の規約などを説明する先生。その説明を聞いているミツルギさんと鉄男の姿に後は任せて良さそうだと判断して、自室に戻ろうとした私を宗乃助が玄関ホールで呼びとめた。


「ren。頼みがあるでござるよ」

「ん?」

「代行で忙しいのは承知してるでござるが、少し付き合って欲しいでござる」

「急ぎじゃないしいいよ」

「ありでござる」


 感謝しながら宗乃助に連れられ、再び戻った闘技場。

 ミツルギさんたちの加入テストやる時には既に沢山の見物がいたのだが、今は閑散としている。


「それで?」

「バフを入れて、攻撃を受けて欲しいでござる

 使うのは、さっきミツルギに使った、デバフ麻痺と雷系の複合でござるが……

 バフ込みで麻痺がどれぐらい入るのか知りたいでござる」

「それ、麻痺効果下がるバフも入れてってことよね?」

「そうでござる」


 どうやら、新たに思いついたスキル複合のダメージデーターが欲しいらしい。

 それもバフを入れた状態でのデータ―が欲しいと言うことは、マジック オブ ポイズンとマジック オブ パラリシスを入れた方がいいと言うことだと解釈する。

 麻痺と言うことは、毒と麻痺を警戒すべきなのだろう。


 そう考えた所で、自分だけにバフを追加した。


 エレメンタル エンチャント(+25) 

 マジック オブ ワイルド(+25) 

 マジック オブ ボディ(+25) 

 マジック オブ スピリット(+25)

 マジック オブ マインド(+25) 

 マジック オブ シールド(+25)

 マジック オブ ポイズン(+25)

 (毒に対する抵抗が20%アップする)

 マジック オブ パラリシス(+25)

 (麻痺に対する抵抗が20%アップする) 

 ドラゴンマスター エンチャント:DEX (+5)

 ドラゴンマスター エンチャント:STR (+5)

 ドラゴンマスター エンチャント:INT (+5)

 ドラゴンマスター エンチャント:MEN (+5)

 ドラゴンマスター エンチャント:CON (+5)


「いいよ」

「いくでござるよ」


 案山子になる準備が整いその事を宗乃助に告げて、自分のゲージを見つめる。

 5メートルほどの距離から一気に詰め寄った宗乃助が、雷を纏わせた短剣を私へ打ち込んだ。とここで初撃ダメージを受けHPが156減る。


 全身に雷が走り、バリバリと言う音を立てHPが573減った。

 宗乃助の短刀が私の身体を切り裂き、雷が発動したと同時にドス黒い緑のエフェクトを纏う。


 やっぱり、麻痺毒だったかと思いつつ、その攻撃を棒立ちで受けた。

 今回は、どうやら麻痺毒の効果はない。


「ん~。初撃ダメージで156+雷で573。麻痺なし」

「なるほど……。HPPOT渡すので回復頼むでござるw」

「それは宗乃助が持っててw」 

「すまん」


 そんな感じで宗乃助の案山子になること一時間。ダメージデータ―と麻痺毒の効き具合を確認し終えた。

 結果だけを言えば、バフあり状態で麻痺毒は入り難い。ダメージはそれなりにでるものの、それは私が後衛だからこそだ。

 これが、黒やティタ、先生や鉄男だった場合、ダメージ自体も通り難くなってしまう。


「これは、少し改良と言うか……もう少しダメージ叩きだせるようにしないとでござるな~」

「雷の連撃の方が強い」

「そこなのでござるよ。相手の足止めが出来ればと思ったのでござるが、難しいでござる」

「あぁ、なるほど……トーナメント戦の方か」

「そうでござる。今回デバフが入り難い状態だと皆が言っていたでござる……PT戦で少しでも何とか出来ればと考えた結果でござったが、バフ無しとの差が酷いでござるw」

「確かに……」


 と、丁度会話が途切れたところで、クラチャが騒がしくなった。

 そろそろボスタイムかと思いつつクラチャのタブを開けば、タイミング良くその話題があがっていた。


[[ティタ] ren。ボスタイムどーする~? 見えてないだろうけどw]

[[鉄男] そうだ、製本師ってこのクランに居たよな?]

[[†元親†] 金だー! 金の匂いがする!]

[[大次郎先生] ren居なくてもなんとかなるし、登ろうか?]

[[ren] いる。見えてる。製本師ノ]

[[宗乃助] ちょっと実験に付き合って貰っていたでござるw]

[[宮様] あら、珍しいわね~?]

[[さゆたん] チカまで守銭奴でしゅw]

[[キヨシ] ボスタイム!! 金の時間だ―!]

[[白聖] キヨシとチカうるせーw]

[[鉄男] おぉ~。ren、ちょっと試して欲しいんだけど!]

[[ミツルギ] 自分もボス行きたいっす]

[[大次郎先生] 人数多いし、ヒガキもゼンも全員で行こうw]

[[ren] 何を?]

[[ゼン] はい~!]

[[ヒガキ] はい]

[[鉄男] 代行でさ、製本、鑑定、彫刻、解読持ってると

    魔法書覚えてなくても、製本できるらしいんだよ!

    本当にできるか試してみて欲しい!]

[[黒龍] うわ、くそめんどくさそうw]


 闘技場を後に、宗乃助と連れ立ってハウスに帰る。その道すがら鉄男に答えれば、本当なら、凄く魅力的だが……彫刻、解読は覚えるまでかなりの時間がかかる。


 悩む私の肩を、苦笑いしながら宗乃助が叩く。

 考えている事がわかったらしい彼は「病でござるよ?」と何やら予言っぽい言葉を言うと、ハウスの中へと入って行った。


 そんなうまい話があるとは思っていないが、もし代行を組み合わせる事で魔法書を覚えなくても魔法書が制作できると言うのならば是非やってみたい。

 それにだ、もしかしなくても、スクロールやクリスタルなんてものも自力で作れるようになる可能性がある。


 例えば、PKで毎回のように使う、ディティクションのスクロールを鑑定し、解読して、羊皮紙に書き記すことで使える……なんてことが可能なら……それは、スクロールを自分で生産できる事に繋がる。

 その価値は、出費を抑えるだけではなく莫大な富を得る事が可能だ。


 思わぬ情報に、脳内をフル回転させその価値を推し量った結果、やってみる事にした。


 まずは、善悪の塔のボス狩りな訳でPTを二つに分け連合を組む。

 1PT目は、黒、ゼンさん、チカ、さゆたん、ミツルギさん、先生、私

 2PT目は、ティタ、宮ネェ、ヒガキさん、宗乃助、シロ、キヨシ、鉄男

 

 いつも通り入り口で、PTバフを入れる。スクロールは個々持っているらしいのでそのまま51Fに飛ぶ。これだけの人数が居れば問題ないだろうとトランスパレンシーは入れない事にした。


 道中賑やかと言うより、うるさい。

 何がそんなに楽しいのか、チカ、キヨシ、鉄男が有名曲を熱唱する。


[[黒龍] 緊張感ねーなー。死んどくか?w]

[[さゆたん] PTBANして、renちゃんに

      カリエンテでも叩き込んでもらうでしゅw]

[[白聖] それいいなぁー。一気に静かになるw]

「カリエンテとトニトゥールスどっちがいい?」

[[宮様] ちょっと、本気?w]

[[ティタ] 一気に静かになったwwwww]


 殺されるならどっちのドラゴンがいいか冗談のつもりで白チャで聞いた途端、機械人形のように沈黙し整列して歩く三人。その様子をしかめっ面をしていた黒たちが見て笑っていた。

 

[[白聖] マップ。プレイヤー4人]

[[大次郎先生] 見えた。renトラパン。

       元グランドロールなら排除ね]

[[黒龍] 宗、偵察

    俺ら階段側の通路に行くわ]

[[ren] k]

[[宗乃助] 承知。ヘイスト、カリエンテ頼むでござる]

[[ren] k]


 マップに映るプレイヤーのマーカーを確認したらしいシロがクラチャで報告をあげ、先生がトランスパレンシーを要求する。

 それに答え即座にトランスパレンシーをかけ、宗乃助にヘイストⅡとソウル オブ カリテンテを追加する。

 走り去る宗乃助を見送り、宗乃助の走った方向とは別の通路に向かう。


[[大次郎先生] ティタ。ヒガキとゼン階段まで連れてって。

          ここならばれないし行って戻って来て]

[[ティタ] わかった。ヒガキ、ゼン行こう]

[[ヒガキ] はい]

[[ゼン] はい]


 緊迫する中、先生が状況を判断しながら指示を出した。それに従いティタがゼンさんとヒガキさんを連れて階段に向かった――。


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