第70話 最強は覇者を志す⑦

 新人(仮)たちへ説明する先生のPTチャットを眺め話をする私へ密談が届く。相手を確認すれば黒で、その内容は……借金の申し込みかと思えば、胡蝶の件だった。


 どうやら先生から説明を受けたらしく、悪いとひと言、言うためだけに密談をしてきたらしい。気にしなくていいと答えつつ黒の考えを聞いておく。

 どういう風に思っているのかを知らないまま話し合いをしたところで、意味が無いと考えたからだ。


”黒龍” まー。ぶっちゃけ抜けてすっきりしてるわ。胡蝶の姫プがマジ嫌だった。

”ren” 姫プ?


”黒龍” あぁ、えっとな説明するとだ。胡蝶は女女してるだろ? 

    要はお姫様みたいに守ってもらうしか能がないプレイヤーってこと。

”ren” なる。


”黒龍” 胡蝶はいいだろうけど、囲うようにいる男のプレイヤーが、うぜーんだよなー。

”ren” ふーん。で、黒はどうしたい?


”黒龍” 加入したのはリアフレから誘われたからだったし。

    俺的には、別に思い入れのあるクランってわけじゃねーから、面倒なだけ。

”ren” わかった。


”黒龍” 一応話し合いは、俺も行く。呼んで。

”ren” k


 黒との密談を終えてPTチャをさかのぼり見直せば、トーナメント戦が無い平日に行うことになっていた。他のメンバーからの要望を先生が取り入れた形だろう。


 その後、PTは解散されトーナメント戦へと戻る。職不問、場所ランダムで登録して待機する間クラチャでは、先生からメンバーへの説明が行われていた。

 指名されたのは、宗乃助、ティタ、さゆたん、シロ、黒、宮ネェの5人だ。


 ぶっちゃけ、さゆたんとキヨシ、宮ネェとチカは職が被るのだが、そこは強い方……と言うよりまともに戦える方を選出したようだった。


 まず、うちのメンバーが負けるとかは、あり得ないとは思うが、こればっかりはやってみなければわからない。今回の勝負では私のバフを入れないで行う事が決まっている。そのため本気の立ち回り勝負となることが予想できた。


 そんな事を考えていれば視界がブラックアウトし、戦いの場へと移動した。

 背の高い草が生えた、草原の様な場所で足がぬかるみ戦いにくいそうな場所だった。画面上に見える名前と職を確認し、それと同時にバフを開始する。


[[キヨシ] あ……renじゃんwww]

[[ren] 自爆?]

[[ヒガキ] キヨシさんvsマスターですね! 楽しみです]

[[黒龍] ヒガキ。見るだけ無駄だ]

[[†元親†] エントリー完了だぁ~!]

[[さゆたん] エントリーしてくるでしゅ]

[[宮様] そうね。エントリーしましょう]

[[白聖] あー。まぁ、生きろよキヨシ]

[[ティタ] 即死だけはやめろよ?]

[[宗乃助] 即死しないよう、頑張るでござるよ]

[[ゼン] なんか皆さん、キヨシ君が負けるの確定みたいに言ってますねw]

[[黒龍] キヨシ……renに勝ったら、俺が100M賞金出してもいいぞー]

[[[†元親†] だって負けるもん~♪]

[[大次郎先生] こら、キヨシが負けるって決めつけるな。負けるけど!]

[[さゆたん] 先生が一番ひどいでしゅ]

[[ティタ] 黒マジ? 俺頑張るよ?]

[[キヨシ] おう! 勝つぜ~!]

[[黒龍] キヨシだけな?ww ティタ]


 キヨシに対する皆の扱いが酷い……なんて突っ込む訳もなく、トランスパレンシーを自身にかけると移動を始めた。カウントが進み残り10秒の時点で、キヨシの真後ろに立つ。


 警戒心がないのか、クラチャに夢中なのか……ディティクションぐらいあげて? と後で忠告しようと思いながら、0と同時にサイレンス(+25)を詠唱発動しつつ、足元にバインド(+25)を設置し発動させた。


 今の彼の装備であれば、ほぼほぼ入るだろうと踏んでのサイレンス(+25)だったのだが、まさかのダブルヒット……バインドまで入るとは……憐れすぎる。

 だが、これも勝負と割り切り、何もできないというより微動だにしないキヨシをただ切り、魔法をぶつけた。

 

 ほどなくして、試合終了のブザー音がなり【 ren win 】と表示される。


「お疲れ」


「負けた―」


「せめて、ディティクションぐらいは打ち上げて?」


「スク……高い」


「後で渡す?」


「うん。頂戴!」


「あげないけど……渡すよ。現物で返して?」


「わかったー」


 白チャでディティクションスクを渡す約束を交わしたところで、視界がブラックアウトすると街の景色へと戻った。微妙な気分のままNPCの周囲にいるはずのキヨシを探し、トレードを申請する。

 アイテムボックス内にある、ディティクションの魔法が入ったスクロールを100枚渡しておいた。


[[大次郎先生] キヨシ……もしかして、課金のバフセットすら持ってないんじゃ?]

[[ティタ] あー。ありえる]

[[キヨシ] 流石にそれは持ってるぜ―! ゲーム内でお金ないだけだーwww]

[[白聖] 終わったわ―。キヨシの試合どうだった?]

[[黒龍] まぁ、予想通りだったかなw]

[[大次郎先生] それ、威張って言う事じゃないからね? わかってるよね?]

[[ゼン] ここまで違うんですね……]


 ゲーム内でお金が無いだけって……無意識にため息を吐いていたらしい私の横で、ティタが同じようにため息を零している。お互いチラっと視線を交わし呆れた表情を見せ笑って居れば気付いたらしいキヨシが一緒になって笑っている。理由も知らないはずなのに何がそんなに楽しいのやら……。

 

 キヨシのこう言う楽天的なところは長所であり短所でもあるが、嫌な感じではないのでこれも彼の人となりがなせる技なのだろうと思いつつ、エントリーを済ませる。


[[さゆたん] おわったでしゅ。どうでしゅたか?]

[[キヨシ] 圧倒的敗北!]

[[ヒガキ] 戻りました]

[[宮様] ふぅー。終わったわ]

[[宗乃助] 皆ポイントはどんな感じでござるか?]

[[†元親†] なんか大分人減ったなぁ~。俺に恐れをなして逃げたか?]

[[大次郎先生] まー。初日経験して狩り行った奴も多いんじゃないかな?]


 確かに、開始当時ほどの人数はもういない。NPCの周囲に居るのは、大手の城持ちのクランか私たちのように対人を好むプレイヤーが数人程度だ。


 どうするか悩みつつ、時計を見れば既に残り30分を切っていた。

 人数が少なくなれば、それだけクラメンとの遭遇率があがる。不毛な戦いは避けるため、今日はもう辞めておくのもいいかもしれない。と考えエントリーを取り消しクラチャで先生たちへと声をかけた。


[[ren] 胡蝶に連絡いれていい?]

[[大次郎先生] k]

[[宮様] いいわよ~]

[[黒龍] まち]


 どうやら黒は戦闘中だったようだ。彼の戦闘が終了するまで5分ほど待ちその間に、胡蝶へと密談を入れれば、あちらのクランハウスに来てほしいと言われ面倒に思いながらも了承した。


 クランハウスとは、クランメンバーであればだれでも使えるアジトのようなもので、今の私たちで言うところの宿屋のようなものだ。

 一度購入してしまえば、倉庫、NPCメイド、各個人の部屋、会議室などなど、カスタマイズできるのだ。


 値段は最低800M~最高は5Tまでピンキリなのだが、値段が上がるほど、街の中心部に近く立地条件が良くなり、庭や部屋の広さが広くなる。更に、カスタマイズの選択肢が増え、NPCメイドの質があがり、鍛冶屋、雑貨やなどがクランハウス内に併設できる仕様になっている。


『すまん』と謝りながら、合流した黒に連れられ【 デメテル 】へと移動する。

『懐かしいわね』そう言って笑う宮ネェに同意しつつ、街の南にある農園の先にあるクランハウスを目指し歩いた。

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