第36話 最強は撲滅を齎す⑥
向ってくる矢を杖右手の刀で叩き落とそうと試みてみるも無理だった……被弾した途端、HPバーが1割ほど減った。それに気を良くしたのか、下手くそだと思われたのかは判らないが、次々と矢を放ってくる弓エルフに、つい顔が緩んでいるとクラチャでシロから激が飛ぶ。
[[白聖] ren。遊ぶな~]
[[宮様] renの顔が……]
[[さゆたん] スイッチonでしゅね]
[[ゼン] あれが……掲示板でみた例のやつですか~]
[[キヨシ] ラスボスのお出ましだぁ~]
[[大次郎先生] 目的忘れないでくれるといいな……]
遊んでないよ……ただ、楽しいだけといい訳しようとしたところで、犬獣人から大槌を振るった攻撃受けるも
クラチャに返答する間も無いぐらいの回避の高さ、大槌を振るう速度、回数にワクワクして楽しくなってくる。サイレンスを入れたメイジの存在など忘れ、犬とタイマンするため弓を引くエルフを先に仕留めにかかる。
[[大次郎先生] 宮MP]
[[宮様] 60%キープ中]
[[大次郎先生] さゆ、キヨシは?]
[[さゆたん] 40%でしゅ]
[[キヨシ] 30%~]
[[大次郎先生] renが3タゲ引いてるうちに、各々MP回復して]
[[宮様] k]
[[さゆたん] わかったでしゅ]
[[キヨシ] POTがない!]
クラチャで先生がMPの残量確認を行い、キヨシのPOTがないことが発覚する。
それに突っ込む暇も無く、犬の大槌を避け弓エルフへと突っ込んだ。
弓職に対して距離をとるのはバカしかいない。あえて近接戦闘に持ち込み、左手の刀身で切りつける。
設置型魔法を置きたいと思いつつも、それを許さない犬の攻撃を交していなす。
距離をつめた私から距離を取るため、弓エルフがシロの射程圏内へと入る。それをシロが見逃すはずもなく、ウィンドウ ショットを乗せ目一杯まで引いた弦を手放す。
こちらに気を取られていた弓エルフは、それに気付かず風を纏った矢に射抜かれ大きくダメージを受けたと思えば直に次の矢が弓エルフを貫き、10本目が到達する直前に前のめりに倒れ灰色へと変化した。
犬の攻撃を交しつつチラリとシロを見れば、ニヤって笑ってサムズアップして見せた。
「ふふっ」
イケメン風に装うシロについ笑ってしまう。
そんな私が気に食わないと犬の大槌が、右から足を狙う角度で打ち出される。ジャンプしつつそれを避けて片足で着地するとそのまま横へ移動しブレス オブ アローを叩き込むも、反り返りギリギリでかわされた。
右手の刀身を逆さに持ち替え下から、大槌を狙い叩きつけ、その反動を利用して左手の刀身で首を狙う。
異常な反応速度で、大槌を上下に回転させ左手の刀身を弾くと、反撃だと言わんばかりに大槌を軸に足で蹴りを入れてくる。
身体を無理矢理捻り避け、お返しに
頭を振り、大槌を構え直す犬と睨み合いつつ、周囲を確認する。
今のところこちらが優勢ではあるが、MP的にはフリだと判断を下し自身のバフの状態を見た。
表示を確認すれば、全体バフでさえ1分を切ったためカウントが始っている。
壁役の黒たちにだけでも、バフを回したところなのだが、現状バフをかけれるだけの余裕が無いと考えバフの更新を諦めようとしたところで、犬獣人の背後に宗乃助のニヤっとした顔を視界に捕らえた。
犬に右手の刀でその足を切りつけるよう動きながら、宗乃助の穴を誰が埋めているのかとそちらを見れば、なんとヒガキさんとゼンさんが黒から一歩下がった両サイドに陣取り槍で攻撃していた。
その攻撃を、大槌を横に払うことで弾き返した犬は、楽勝だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「フンッ」
「チッ」
イラッとして舌打ちし、舐めた態度の犬に向い躾代わりに、左手の刀を太もも目掛け切りつけるよう差し込む。
同時に攻撃できるタイミングを作るため、あえて一拍置いて右手の刀で大槌を握る腕を切りかかれば、後で待機中の宗乃助が呼吸を合わせ、アサシン スラッシュ――三次職暗殺者のみ使用可能なスキル、攻撃力1.2倍、敵の背後から急所を狙いクリティカルを叩き出す――を発動させた。
軽快なクリティカル音がなる。かなりのダメージを与えたはずの犬は、憎々しげに私を睨み付けると、まさかのターゲットを宗乃助に変更すると言う意味のわからない行動に走った。
[[ren] バフ]
タゲが外れた私は、
色彩豊かなバフのエフェクトが、私を含め全員を彩るとその場を離れる。
個別バフを入れるには離れすぎているため全体バフだけに留めた。宗乃助と自分にのみ個別にバフを入れ、犬の攻撃へ戻る。
2vs1になった犬は、大槌を振り回しなんとか持ちこたえているものの、既に諦めているのかバフが切れたのか、先程までのキレが無くなっている。
大槌を振りかぶり今にも振り下ろそうとする犬に向い、杖を取り出しブレス オブ アローを叩き込む。
諸に受けた犬はその反動で体勢を崩すと宗乃助のスキル ブラット ローイング――三次職暗殺者スキル。攻撃力2倍。己の血を滾らせ力とすることで攻撃力をあげるスキル――で討ち取られた。
[[大次郎先生] @5 renメイジ仕留めといて]
[[ren] k]
[[キヨシ] MPPOTくれ~!]
[[さゆたん] それ済んだらウラガーン欲しいでしゅ]
[[ren] 殺ったら戻る]
[[ティタ] 次、ヒュージュル? 猫、短剣持ちな]
先生とさゆたんの言葉に了承を返す。
宗乃助はそのまま、ティタのマーカーへと移動すると攻撃を開始した。
私も宗乃助に負けじと、サイレンスを入れたメイジへ狙いをつけブレス オブ アローを詠唱破棄で連発した。
五発放ったところで漸く、メイジが灰色へと変化する。
これで残りは戦士、盾の四人を残すのみとなる。
猫獣人の暗殺者職であろう短刀を持った猫の戦士をターゲットマーカーが示している。
逃げ道を作らないように黒たちが取り囲み攻撃し、使っているだろうスキルのエフェクトが混ざり合い七色に光っている。
それを横目に、通り過ぎる間際、黒、ティタ、先生、宗乃助に、個別にバフを入れた。その後、宮ネェの護衛についているシロ、ヒガキさん、ゼンさんにも追加する。
最後に、宮ネェ、さゆたん、キヨシ、自分にメイジ職用の個別バフを入れ完了させた。
HPMPバーを確認すれば、既に宮ネェ、キヨシ、さゆたんのMPが1割弱と底を尽きそうな状態だ。
[[ren] マナチャ]
クラチャに一言入れ即座にマナ チャージを発動させた。
キヨシ、さゆたん、宮ネェその他のMPが80%まで回復するとそれまで、かなりセーブしていたらしい攻撃の速度が格段に速くなり、いくつもの魔法やスキルエフェクトが敵対の残り四人へと迫っては弾けていく。
それを見守り周囲を警戒して、ディティクションを打ち上げた直後、黒たちに囲まれていた暗殺者っぽい猫獣人が灰色となり、ティタのターゲットマーカーが次のタゲを示した。
[[ティタ] @3逃がすなよー。次キリル、熊かな? 大剣の獣人]
油断しないよう活を入れ、タゲの名をクラチャで叫ぶティタ。
アーマー ブレイク(+25)を大剣熊に入れ、あたりの死体を見回し違和感に気付く。
既に敗走してもおかしくない状態であるにも関わらず、未だ攻撃を続ける三人……消えていない死体たち……。
増援か? それとも、復活する精錬スキル持ちがいるのか? とにかく何かがおかしいことだけは伝えておくべきだろう。そう判断してクラチャに警告を出した。
[[ren] 余裕無くても、ディティクション。様子がおかしい]
[[黒龍] k]
[[白聖] わかった]
[[ヒガキ] 後マップに変化なし]
[[ティタ] タゲミスるなキヨシ!]
[[キヨシ] 俺じゃねぇぇぇ]
[[大次郎先生] ゼン、ヒガキもディティクションスクあったらよろ]
[[さゆたん] ごめんでしゅ]
[[宮様] おかしいわよね。あいつら復活しないわ]
[[宗乃助] 更に増援の可能性でもあるでござるか?]
[[大次郎先生] とりあえず、残り優先。
警戒しつつディティクション忘れないで]
非常に怪しい状況の中、確実に殲滅しようと言う先生の指示が飛んだ。
[[ゼン] 後方敵影有り、@8名 1PTです]
ゼンさんの声にマップを即座に確認すれば、1PTのプレイヤーを示すマーカーが表示されていた。
残り@3名。と追加8名??
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