第34話 最強は撲滅を齎す④

 煉獄の炎とカリエンテが消えると同時に、大量に流れるアイテム獲得のログ。そして、屍になったクラメンたちの姿を見回し、失敗したことを悟る。


「ぁ……ポータルまでソロ(ひとり)じゃん」


 ここはダンジョンであり、ポータルでなければ帰還の護符が使えない。この階層のポータルは、この大部屋の間逆の方向にあるのみだ。

 やらかした気部分で、自分にバフをかけるとモブには効かないが、念のためトランスパレンシーをかけ、移動を開始する。


 大部屋を出て、右へ向い3つめの角を左へと曲がると、マップで二つ先のカドに誰かが引いたらしいモブの塊が通路を塞いでいるのが見えた。

 一つ手前で曲がれば大丈夫だろうと踏んでそちらへ移動する。とそこで、死に戻ったらしい皆がクラチャで会話をはじめる。


[[ティタ] いやぁ、装備外すと1528746ダメージw]

[[ヒガキ] おかえりなさい]

[[ゼン] 皆さんどうでしたか?]

[[大次郎先生] PKは成功したけど……ラスボス強い]

[[さゆたん] ただでしゅ。renっていうラスボスに殺されたでしゅ]

[[キヨシ] 面白かったぞ! ゼンも次来い~!]

[[黒龍] たくよー。ちょっと笑っただけだろーが!]

[[ゼン] いやいや、僕にはまだ無理だよ。キヨシ君]

[[白聖] 俺の7%がぁぁぁぁぁ]

[[大次郎先生] ただいま]

[[宮様] はー。まったくrenのあの魔法禁止にしましょう!]

[[キヨシ] いけるって~!]


 PK中気を使ってくれたのか、それとも誰かに指示されたのかわからないが……無言だった、ゼンとヒガキさんも会話に加わり楽しそうに話すメンバーたち。

 無言でクラチャを見つめ、マップを確認しつつポータルに向かい歩みを進めていると、マップにプレイヤーのマーカーが表示される。


 足を一度止め警戒を強め数を数えれば、2PT、約16名の編成だ。敵かどうかを確認するため覗き込もうと一歩角に近付いたところで、ディティクションが上がるエフェクトが見えた。

 このタイミングで、ディティクションを打ち上げるPTなど敵対の増援しかない。


「チッ」


 舌打ちと同時に、杖を取り出しドラゴンバフをかけ姿を見せれば、相手のPTも直に駆け出し近寄って来ると攻撃態勢を取る。すぐさま元北咆哮へとかけだす。僅かに視線を向け見えた、PTのクランマークがクランドロールのものだった。


[[ren] 猛獣7F 敵対増援2PT。ポータル側小道に引き込む]


 騒がしいクラチャへ増援がいることを知らせ、先ほど通ってきた通路を走り戻る。

 追いかけてくるグランドロールのPTから、次々私へ向け魔法が飛。

 トランスパレンシーを自身にかけ、先程見かけたモブの塊に敢えて突っ込み引っ掛けつつ、ジグザグに走り魔法を回避する。


 しつこいほどあがる、ディティクション。こちらもしつこく、トランスパレンシーをかけ直す。モブに阻まれ敵の足が遅くなった。

 奴らがモブを処理する合間に、細い路地を見つけそこへ飛び込むと、先が行き止まりかどうかを確認する。


 そう長くは無い路地の先は、見事に行き止まりだった。

 人が三人並べば詰まってしまいそうな入り口に陣取ると、壁際に身を隠しつつここでやる事に決め、クラチャを見つつ、設置型魔法を入り口付近に置くことも忘れずやる。


 ・バインド(+18)

 ・スロー レンジ(+5)

 ・ショック ボルト(+19)


[[黒龍] 向ってる。15分耐えろ]

[[ren] k]

[[大次郎先生] 死ぬな]

[[ren] カリエンテ使ったの後悔]

[[キヨシ] うははははっ! ヒーローが助けにいくぜ~]

[[宮様] 直に向かうわ]

[[ティタ] キヨシがヒーロー……直倒される、シ○ッカーにしか見えない]

[[白聖] ren、補充 高級魔石1000で足りるか?]

[[ren] 十分]

[[白聖] k]

[[さゆたん] 待ってるでしゅよ。急ぐでしゅ]

[[宗乃助] 全員、装備ちゃんとつけてるか見るでござるよ]

[[ゼン] マスター頑張って!]

[[ヒガキ] 応援してます!]

[[ren] あり]


 クラチャで、応援してくれる二人に礼を伝え、周囲に視線を向ければ、何度もディティクションがあがっている。居場所はすでにばれているだろう。と言ってもそれは想定内だ。

 長く息を吐き出し、高ぶる気持ちを落ち着かせ状況をマップ越しに見る。


 モブのマーカーの中に、徐々にプレイヤーのマーカーが増えていく。

 無理矢理抜けてくるつもりなのか、それとも殲滅しているのか、この状況では判断できないが残り1~2分ほどで来る事が予想できた。 


 詠唱速度アップの杖を取り出し、マジック オブ アブソール(+25)、エレメンタル アップ(+15)、ソウル オブ ウラガーン、ヘイストⅡ(+25)を改めてかけた。

 カリエンテを呼んだばかりに減った分のMPを大量の高級MPPOTで補い、杖を持ち替えその時を静かに待つ。


[[大次郎先生] 猛獣着]

[[ren] 60秒前後 戦闘開始]

[[大次郎先生] 急いでるから持ちこたえて]

[[ren] k]


 クラチャで皆が既に猛獣まで来ていることを知らせてくれる。

 予想より早い到着に、1M前後で売られているヘイストⅡの効果より更に上の効果があるスクロールを購入してくれたんだろうと思い、心の中で感謝しておく。


「ふぅー」


 抜けてきたと思しき剣士職と槍士職の二人がついに、待ち受ける通路の入り口へと到着すると同時に剣と槍を使い攻撃してくる。剣士の剣を、杖で弾き返し槍を身体を捻る事で避けると、ペトリファクション――相手を石化させる魔法――(+25)を二人へ其々打ち込む。


 一人はペトリファクションのエフェクトが頭上にあがりその身体が石となり固まるも、もう一人は耐性を持っているらしく効かなかった。直に切り替え、コンフュージョン――混乱させる魔法――(+25)を入れる。


 装備のアクセサリーには元々セット効果として石化の耐性が付いているものが多く、強化する毎に、ショック、魅惑、睡眠、混乱、出血などの耐性が増えていく。その中で混乱の耐性がアクセに付くのは最低でも+13以上なのだ。


 古参のプレイヤーの中には持つ物も多いが、装備――装備の光の膜は強化するごとに、うっすらと纏う光の層が増していく仕様だ――を見る限りこの槍士っぽい戦士のドワが持っているとは思えなかった。

 

 混乱をいれた状態の槍ドワに改めて石化を試みる。

 3回目で石化のエフェクトがあがり壁が出来上がった。ただでさえ人が三人並べばふさがってしまうほどの大きさだ、こうして先走った敵に石化を使い壁にしてしまえば、残りの敵は一人ずつしか攻撃できなくなる。


 槍やランスを持っていたとしても、届く距離が限られる。後はメイジ職と弓職の対処だが、メイジをサイレンスで黙らせ、弓はその攻撃の軸に入らなければいいだけだ。


 壁を作り上げ、自分の中で思考を巡らせる。上手く行けばこれで完璧と言えるだろうが、いつどこでイレギュラーが起きるかわからないことも考慮しつつ、皆が来るまでの時間を稼ぐことにした。


 モブを抜けて駆け寄ってくる敵のヒューマン盾。石化したメンバーを視線を向け確認した後、唯一空いた隙間に陣取り右手に持つランスを突き出し、攻撃の隙を与えないよう連撃を仕掛けてくる。

 私が交しいなすたび、ニヤニヤ笑って挙句舌を舐めている……キモイ、こういうのは本当に気持ち悪い。

 

 さっさと殺してしまおうと、決断する。

 移動速度優先のローブからボス狩り用の軽鎧へと変更し、バインド(+18)を発動させる。槍を突き出しニヤニヤした顔のまま微動だにしなくなったキモ盾に向かい、二刀を取り出しファイアーウェポン(+25)、ソウル オブ カリエンテをかけ、居合い抜きの構えを取るとスキル一閃を使う。


 キンッと耳障りの良い金属音を立て、スキルが発動される……が、流石はHPが高い盾職なだけあって、一閃だけでは倒れない……。

 アースバインドが切れる前に急ぎ二本の刀で、首、腹、足などを何度も切りつけ、ダメージを蓄積させた。


 仕上げとばかりに杖を取り出し、マジック オブ アブソール(+25)、エレメンタル アップ(+15)、ソウル オブ ウラガーンへバフを変更し、ブレス オブ アローを三発叩き込んだところで漸く、キモ盾が灰色になり後へと倒れた。


[[大次郎先生] 6F]

[[黒龍] いきてるかー?]

[[ren] y]


「ぐっ」


 クラチャに答えていれば、どこからともなくアイス ランスを打ち込まれ他部分が凍り、ダメージを追ってしまう。


 ギリギリ私が見える位置に陣取りアイス ランスを発射しようとするメイジ職が二人。このままでは、良い的だ。キモ盾との先頭でどうやら、壁から動いてしまっていたらしい。


 位置を戻すよう壁際へ移動しHPPOTを取り出し回復しつつ、メイジの射程から身を隠しサイレンス(+25))を入れるタイミングを計っていると、盾の抜けた穴を埋めるように大剣を持つ幼女ドワが位置どる。


 それと同時にサイレンスは諦め、刀へと装備を変更した。

 何度目かわからないバフを変更すると、クラチャで報告が入った。


[[大次郎先生] 7F着、もうちょいでつく]

[[ren] 北に直じゃなくて南から回って]

[[黒龍] k]


 7Fへ到着したと伝える先生に、北ではなく南から回るよう伝える。北は未だ敵とモブが入り乱れているため、私のバフが届かないのだ。折角来てくれたのにバフが無いために死んだなどと言わせたくなかった。


 大剣を持つドワが、その剣を振り回し攻撃するのを左手の刀の棟でいなし、右手の刀身でドワーフの首へと差し込みダメージを与えてやる。


 よろめく大剣幼女ドワ、それでも大剣を振り上げた刹那、その剣先が通路の壁にあたり威力が落ちたことにも気付かず攻撃をしかけてくる。


 軽く身を捩り、右手に持つ刀の柄頭つかかしらで大剣に叩きつけるよう当て軌道を変えてやれば、見事にずれ私の右の壁へと突き刺さる。

 狭い通路で大剣を振り回すドワは気付いていない……自身がいかにフリなのかを――。

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