第21話 最強はクランのLv上げを目論む④

 クランLvが3になり、後二つあげればとりあえず一般的なクランと同じ数値になると考え急いで次の街【 アテナ 】――学問を司る女神の名前――へと向う。

 この街は、某有名映画の町並みと良く似ている。石を細かく積み上げた家々、街のいたるところに書店や雑貨屋っぽいものが多く並んでいる。また、学者風のNPCや学生姿のNPCが多いのが特徴的だ。


 街の中央に位置する、大神殿の左隣にある研究所がNPCの所在地だった。

 石造りの建物には蔦が巻きつき、お化け屋敷と言われた方が納得できるほどボロい。

 ギギッと言う音を立てつつ、内部へと踏み入てばかなり綺麗に整えられている空間となるため、酷く違和感を感じることこの上ない。


 階段を2階へと登り三つ目の部屋の扉を開けば、中央部分が綺麗に抜け落ち、白髪の髪にパーマという頭グルグル眼鏡をかけ、鼻は拳大。低い身長に横幅の広いおなか回りをした白衣姿の老人が、机に向かいはみ出すお尻でなんとか椅子に座っている。


 うわー。こういうNPCもいるんだ……。

 

 その姿に、動きを止めマジマジと観察しつつ、SSを前、後、横、そして、超良い笑顔でツーショットの順で撮影した。

 ゲームとは言え、リアルに作られた人の姿をしているのだ。つい記念に撮影しまうのも当然と言える。


 SSの撮影が終わり、学者風の天パに話しかけクエストを受けた。


【 約束の証Ⅳなら、娘に渡してある。欲しければ娘を訪ねろ。そうだ! ついでにこれを娘に渡して欲しい。

  ※ アインシュの娘、リーゼルへ手紙を届けましょう。 】


 これが、アインシュタインだとするなら、クレームモノだぞ? と思いつつアイテムボックス内の手紙を確認して、その場を後にする。

 娘リーゼルは、【 アテネ 】の街から、10分ほど歩いた街道沿いの【 ヒマリア 】の村にいる。

 折角なので、クラメンにもあの天パを見せてあげようと、撮影したSSをメールで皆に一斉してみた。


[[黒龍] じゃぁ、明日参加できるやつは、先生に連絡するってことでいいの?]

[[宗乃助] 楽しみでござるな。諜報は任せるでござるよ!]

[[白聖] これどこで会えんの? www]

[[ティタ] 酸素……酸素が欲しい!]

[[宮様] 草]

[[キヨシ] 鉄腕ア○ムの博士じゃん!]

[[ren] 名前はアインシュ。アテネの研究所にいる。先生参加ノ]

[[さゆたん] renちゃんとおでぶちんのツーショット画像がヤバイでしゅ]

[[黒龍] renなんでこんな良い笑顔してんの?]

[[大次郎先生] こういうの居るんだな……]

[[ren] 写真は笑顔が基本でしょ?]

[[宮様] PKの時の凶悪な笑顔じゃない分ましね]


 ツーショットSSが、やばいって何? さゆたん。と心の中で問いかけ、クラチャを閉じる。

 ネタを振ったくせに、最後まで見ないのはいつものことだ……。誰かがきっと落ちを付けてくれるだろうと信じて、クエストの村ヒマリアへとひた走る。


 4分ほど走り、ヒマリアへと到着した。

 目的のアインシュの娘リーゼルは、マップで確認すると村の東にいる。そちらへ足を向け走り、到着したのは井戸だった。

 確かに表示はあるものの、リーゼルが居ない……。

 

 どういうことだ? 周囲を見回し痕跡を探す。

 井戸の中を除き見れば下へと繋がる鉄はしごを発見した。

 まさか……中? 不審に思いながらも、恐る恐る、鉄はしごを掴み下へと降りる。


 コツンコツンとなるはしごを降りる音と水滴の落ちる音がだけが井戸の内部へ響き、掴んだ鉄はしごが湿り気を帯びてヌメる。

 こういう雰囲気は、あまり好きではない。というより無理だ……。

 昔、きっとくる~。で有名な映画も、再放送をテレビで見ようと思ったのだが、怖すぎて途中で見るのをやめたほど……ダメなのだ。


「あの映画も井戸だったはず……。あぁ、マジ帰りたい。」


 ほんのり涙目になりつつへっぴり腰で、なんとか目を瞑り井戸の底へと降りきった。

 

 地に足が着き、瞼を開き下を見ないようにしつつ辺りを見回せば、鉄の扉が視界に入った。その扉へと歩を進め、力任せに押してみる。

 ピクリともしない……。それじゃ今度は引いてみようと持ち手を捜せば、引き戸に使われるような指を入れ込む穴が開いていた。


「……っ。こういうとこだけ、日本仕様になるの止めて! 恥ずかしいじゃん」


 今日何度目だろうか……、運営の罠に嵌るのは、イラつきについつい愚痴を吐露とろしてしまった。

 ひとつ溜息を漏らし、気持ちを切り替え扉を引くため力をこめれば、鉄の扉なはずなのにまるで襖を開けるような軽さと音で開いた。


 扉? 襖? の中へ足を踏み入れれば、薄暗い廊下に、松明が点々と燈されている。

 一応念のため、ライトの魔法を使っておく。


 マップにモブの反応は無いが、警戒しつつ進む。かなり広いかと思われた井戸の地下だが、そうでもなかったらしい。

 20メートルほど進むと階段があり、そこを降りれば扉がひとつだけポツンと立っていた。


 今度は騙されないぞ! と思い罠を回避するため、扉を良く見て引き戸である事を確認する。

 指を差込、ゆっくりと引いた。

 そこには、絶世の美女かと思われるほど妖艶な笑みを見せ、艶かしい薄絹を着た、赤い髪をした女の人が一人立っている。


 まさか! これが娘とか言わないよね? そう心の中で突っ込みを入れマップを確認すれば、該当NPCの色だった。

 折角なので、SSを撮る。

 あの親から、どうやってこの娘が産まれたのかじっくりと検証したいところだ。


 NPCに近付き、話しかければいつも通りウィンドウが開き、彼女の言葉を伝えてくれる。


【 こんな底まで良く来てくれました。私は、ある吸血鬼に狙われ、ここに隠れ住んでいるのです。

  まぁ、父の手紙を運んでくださったのですね。ありがとうございます。

  確かに、父からの手紙でした。お礼にこれを差し上げましょう! 】


【 約束の証Ⅳ を獲得しました。 】


 んー。まぁ、獲得できたしいいか……。

 色々突っ込みたいところではあるが、面倒なので止めた。

 さっさと、帰還しようと帰還の護符を取り出し使おうとしたところで、ここが使用不可ダンジョンになっていることを知った……。


「クソ過ぎる……」


 仕方なく、もと来た道を戻り井戸についた、鉄はしごを登る。

 井戸の中から、逃れる主人公が足を手でつかまれたシーンが、頭に浮かび、咄嗟に下を確認した。

 

「ふぅ~。」


 息を吐き出し、一気に外へと出た。

 そのまま、ヘイストⅡの魔法を自身にかけ、【 アテネ 】までモブが居ようとスルーして、狩場の中を走って戻った。

 プレイヤーは居なかったので、問題は無いはず……。と言い訳しつつポータルに乗り【 ヘラ 】の大聖堂へと向う。


 相変らず、暇そうに立つ変態イケメンNPCへ話しかけ、ウィンドウからクランLvを上げる項目をタップする。


【 おめでとうございます。 Bloodthirsty Fairy クランのLvが4上がりました。 】

【 新しいクランスキルを覚えることができるようになりました。 】

【 クラン部隊リーダー を任命できるようになりました。 】


 クランリーダー? なんだそれは……知らない単語が出てきたことに戸惑い、クラチャを開きメンバーへ聞いてみる。


[[ren] 【 クラン部隊リーダー を任命できるようになりました。 】

     どういう意味?]

[[ティタ] 消えたあぁぁぁぁぁ!]

[[キヨシ] 俺も、消えたぁぁぁぁ!]

[[大次郎先生] renそれ、マスター>サブマス>リーダーって意味。

        加入権与えられる。一般メンバーってことだと思う。]

[[黒龍] ティタ乙。キヨシ、お前何、消したの?]

[[白聖] 概ね先生の言ってることで当りかな。

     要は、一般メンバーの取りまとめ役みたいなもので、加入権と追放権を

     行使できるクラメンってことだな。クラマスやサブマスが居ない時に

     そのメンバーが入れば、加入追放が自由にできるって思っとけばいいよ]

[[宮様] 最大6人まで部隊リーダーにできるはずよ]

[[ren] なるほど、ありがと。皆設定しとく]

[[キヨシ] 俺の持ってた、最後の雷のリング……]


 白が説明してくれたことで理解できた。

 あとで、公式漁って詳しく調べるとして、とりあえず残り全員を部隊リーダーへと任命することにした。


 PK開始まで、残り17:56――。

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