第15話 最強はクランを作る⑨

 さゆたんが到着したと言うことで、一度宿屋を出て借り直すことになった。

 このゲームでの宿屋は、入る際の人数で部屋の大きさが変わり、使用時間で料金が変わる。


 そのため誰かが後からやってくると判っている場合、多めに人数設定をしておくのだが……、今回は来るかどうかが不明だったこともあり、人数ギリギリで借りてしまっていた。


 さゆたんをPTに誘い宿屋の室内へ戻る。状況が判らないさゆたんのために、いない間に決まったことを先生が報告する。


「うちのクラン(予定)。まだ名前は決まってないけど……。

 PK有り、レイド有り、攻城戦有り。で行くことになった。


 基本的に、人数少ないから追々はどこかと同盟組む事も考えてはいるけど、今のところパッとする血盟がないから無しな方向になったよ。


 レイドは、二次の狩場の方ならこの人数でも余裕だしそっちをやろうってことで。


 攻城戦は、今温い状態だから、メンバー全員参加した状態で、落として、王座入り口防衛できる城なら余裕で城主になれると思う。


 メンバー募集に関しては、新しいの入れて寄生されるのも嫌だし、マスターが極度の人見知りだし……クラメンになる予定の、このメンバーの知人に限るってことになった」


「了解でしゅ。メンバーに関して、わたくちもあまり入れたくは無いでしゅね。なので同意でしゅよ。他は任せるでしゅ」


 一気に先生が、説明を終わらせると、ベットに膝から下を八の字にして女の子座りで聞いていたさゆたんが、了承してくれた。頷いた先生が、クラン名について話しを振る。


「ドラゴンスレイヤー!」


「既に在るわよ?」


 キヨシの案に、即座に宮ネェが答え却下された。


「やるぉ」


「何を?」


 まるでコントのような、やり取りを見せた黒とティタ。

 まさかとは思うが、やるぉがクラン名の候補なのだろうか? そんなクラン名のクランに誰が入りたいと思うんだろう……。


「Red Name とか?」


「それ、無差別PKクランみたいでござるよ」


 宮ネェの案に、宗乃助が難色を示す。

 私的には有りだと思うったが、駄目なようだ。


「英語名いいな……。Saber Tiger?」


「マスターヒューマンだし。メンバーに猫獣人いねーじゃん」


 シロは、猫科が好きらしいが、黒に正論で論破されてしまった。

 流石に、動物の名前はなしかな……。


「Bloodthirsty Fairyって言うのはどうでしゅか?」


「意味は?」


「血に飢えた妖精。renちゃんを想像できるでしゅ」


 さゆたんの案に、先生が興味を示した。

 血に飢えた妖精……。カッコイイから好きだけど、マスターやるとは言ってないよ?


「それいいでござるな!」


「って言ってるけど、皆はどう?」


 さゆたんの案が良いと宗乃助が伝えれば、先生が皆に確認をとっている。

 反対する者は居ないようだった。

 クランマークについては、現役でイラストの仕事をしている。キヨシが書いてくれることになった。

 皆がいるうちに、頼むよ。と先生に言われたのだが、忘れてしまったのだろうか?


「待って……。マスター、決闘で決めるって言ったのに。私がマスター確定なの?」


 全員が、ハッとした顔をした。

 

「まさか、全員忘れてたとか言わないよね?」


 目を眇め、ジド目をしてみせれば慌てたように、あらぬ方向へ視線を逸らすメンバーたち……。

 約束したよね? と少し低い声を出せば、ブンブンと音が鳴りそうな勢いで頷いた。


 宿を出て、街の北にある決闘場――決闘場の敷地内であれば、HPが0になっても経験値を減らすことは無い。また、殺した方もその名前が赤くなることはない。要は対人の練習場の様な場所だ――へと異動する。

 

 決闘場の側の鍛冶屋で、装備の耐久を確認し終わると入場料を1000ゼル(1K)払い中へと移動した。東京ドーム1個分はあろうかと言う広さの内部は、地には芝生が敷き詰められ、囲うように立てられた壁。


 角にはそれぞれ、杖を持った男性、剣を構えた男性、弓を持った女性、槌を構えた男性の像が飾られている。天井部分は青く澄み切った空が見える。


「総当り? それとも三つ巴?」

「三つ巴のが早くね?」

「なんでもいい」

「皆もそれでいい?」

「どうせrenが、勝つんだからなんでもいい~」

「いいわよ~」

「okでしゅ」

「承諾しただござる!」

「それで、いいぜ」


 マスターを決める方法は、黒の発言で三つ巴に決まった。

 やる気無さそうな顔をして、ここまで移動していたはずのメンバーたちだったが、開始を前にやはり、対人が好きなだろうと判るほど顔が真剣なものへと引き締まっている。


 三次職同士の戦いは、本当に楽しみで、このメンバーならば、もしかしたら負けるかもしれない。そう言う、ドキドキが堪らなかった。


 PTが解散されると、バフを自身にかける。

 装備を、軽鎧に変更すれば杖を取り出し、の詠唱準備をはじめる。

 戦闘開始のカウントがはじまる。


「5……4……3……2……1……」


 数字が進むにつれ、全員が臨戦態勢となる。

 0のカウントの変わりに、イベントで貰った花火がヒュ~と音を立て先生から上がる。

 1拍置き、ドーンと大きな音を立て、火の粉が大輪の花を咲かせた。


 その束の間で、ティタが剣先で薙ぎ払いにかかってくる、と同時にガラ空きの腹部めがけて、ブレス オブ アローを叩き込み、その身体ごと吹っ飛ばす。私の背後から、黒の剣先が左肩目掛け振り下ろされる。

 振り返る時間は無いと判断し、右手に持った杖を背後の黒へと突き出した。

  

 ガッ

 

 木と金属がぶつかり合う音が鳴る。

 

「チッ、クソッ!」


 黒の舌打ちで、何とか止められたことを悟り、右へ回転しつつ状況を確認する。

 ティタは現在行動不能、黒は二歩進めば殴られる距離、宮ネェは静観、先生とキヨシがタイマン中。さゆたんとシロもタイマン中――。


 地面に片膝を着いて、傅いた体勢のまま、バインド(+25)を設置する。

 立ち上がり、右へ10歩のところで、スロー レンジ(+5)

 後方へ10歩のところに、ポイズン クラウド(+20)を設置した。

 調度、折り重なる部分を作り上げ、その3歩後で黒たちを迎え撃つ。


 起き上がったティタが、走りよる。残り10歩程度のところで、彼の職、特有のスキルを使用する間際、エレメンタル アップ(+15)を自身にかける。

 

「ティタ!!」


 黒の叫びに、ティタが走りを止めてしまう。

 

「チッ」


 折角あと二歩だったのに……。

 仕方ないと割り切り、二人の眼前に向ってファイアー ボール(+25)を二発打ち込めば、二人はそれに気を取られ、私から視線を外す。

 ファイアー ボールが切り捨てられる前に、トランスパレンシーを使い透明化する。


 二人が、ディティクションのスクロールを使うまでの、数秒が勝負となる。

 近くで、キヨシと先生がやりあっているおかげで、多少足音を立てようとも気付かれることがない。走り、10M四方に設置型魔法をそれぞれ置き、敢えて離れた場所で待機する。


 ティタの近くで、ディティクションと思われる、エフェクトが強烈な光を放つ、その光が収まる前に、エレメンタル アップ(+15)を自身にかけ、いかにもバレたと言わんばかりに数歩後ずさって見せた。


 ニヤリと笑ったティタと黒が、互いに視線を合わせ頷き合うと、その早い移動速度を生かし急襲しようと近付いてくる。

 捕らえた……。


 二人同時に、私が貼った罠へと足を踏み込んむと即座に、バインド(+18)を発動させる。

 もろに設置型魔法の効果を受けた二人が硬直し動かなくなる。

 それに対し、容赦なく200%バフを乗せた、ブレス オブ アローをお見舞いした――。

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