第4話 正しく無いAIの使い方

ひさしぶりにスーツで出社した。TV局の取材のために。

会社の部屋も、一応、片付いてる。

昨日の、午後、以前のシステム部の同僚にも手伝ってもらって古いサーバーを片付けた。

怪しい転送装置は机の下に隠しておいた。


そして、問題の宇宙大元帥は、、、寝てる。

寝る必要があるのか?

良く分からんが机の上で横になって軽く息をしている状態は他に形容できない。

取りあえず、軽くゆすっておこしておいた。


コンコン

「宣伝部の佐々木です」

昨日、社長に言われて電話で話した人だ。TVの取材を手伝ってくれるはず。

「どうぞ。入ってください。」

そして、入ってきたのは・・。

何、この人? でかいしムキムキだし。プロレスラー?武闘家?

宣伝って格闘技なの?


佐々木「宣伝部の佐々木です。AI推進室の加藤さんですね。」

オレ「はい。加藤です。今日は、よろしくお願いします。」

佐々木「こちらこそ、よろしくお願いします。」


佐々木「では、このポスターを後ろに張りましょうか」


宇宙大元帥・みゅーちゃんの写真と、うちの会社の商品”うさぎっこ”が入ったポスターを何枚か取り出した。

昨日の今日で良く作ったなぁ。まあ画像を切り貼りしてプリンターで出しただけ、なのだろうけど。

みゅーちゃんの画像はオレが昨日、メールしたものだ。


佐々木さんは、ポスターを張りながら。


佐々木「社長に言われたので作りましたが。正直、私は、このみゅーちゃんには賛成できないのですよね。」

佐々木「不自然って言うか、不気味って言うか。」


まあ、そうだよなぁ。それが普通の反応だわ。

やたら気にいってる社長がおかしいと思う。


佐々木「それで、みゅーちゃんは、今、どこに?」

オレ「あそこに。・・、、、あっ!」


寝転んでオレのスマホで動画を見てる!?アニメ?

まずい。こんなのを見られたら・・


佐々木「勤務中にアニメですか?!」

オレ「えっ。いや、見てるのは、私じゃなくて・・。」


と言うか、つっこむのはそこ?!

こんなのが勝手にアニメ見てるとか、おかしいだろ!


佐々木「社長の道楽かしりませんが酷い部署ですね」

オレ「すみません。」

佐々木「いや、まあ、命令ですから、協力しますが」

オレ「ほんとに、すみません。」

佐々木「いっちゃなんですが、”悪”ですよね」


えっ。地球侵略とかバレてる?

もしかして、正義のヒーロー的な人?

悪の侵略者がいると、お約束で正義のヒーローが登場するものなの?


佐々木「会社のイメージ的に言って、よろしくないというか。まあ、それでも社長に強く言われてるので・・やりますけどね」


単なるグチ?


佐々木「ただ、これだけは言っておきたいのですが、TVの取材ではビデオを勝手にカットされて、一部だけが使われたりします」

オレ「はぁ」

佐々木「ですから、おかしな言動は止めて頂きたいのです。特に、その、みゅーちゃんの言動ですけどね」

オレ「みゅーちゃんですか?」

佐々木「もちろん、あなたも! ですが、みゅーちゃんって、その、うまく制御できるのですか?」

オレ「ある程度は・・」

佐々木「ある程度じゃ困るのですよ。もし、みゅーちゃんがおかしな事を言ったとしたら、そこだけ切り取られて放送されてしまうのです。」

オレ「・・・」

佐々木「そうなったら、うちの会社のイメージが崩れる。こんな社長の道楽で、会社のイメージを崩されては困るのです!」

オレ「はい」

佐々木「もし、みゅーちゃんが変な事を言い出したら、すぐに止めてください。いいですね!」


止められるかなぁ。


佐々木「スイッチを切ってください。ぶち切ってください。なんなら、ぶっ壊していただいても結構です」

オレ「え?」

佐々木「どうせ機械でしょ? 壊れたらなおせばよい。そんなものより会社のイメージが大事です!」

オレ「いや、まあ」

佐々木「もし、あなたがやらないなら、私がぶっ壊しますよ」

オレ「そ、それは・・」


ひぇ~。怖い! やめて!


佐々木「わかりましたね!」


ポスターを張り終えて部屋の中を見渡し始めた。


佐々木「 ・・あとは」

佐々木「あれ?みゅーちゃん、いつから正座してました?」


机の上の宇宙大元帥が正座して、ちょっとふるえてるような・・

うん。怖いよね。おれも怖かったよ。


佐々木「みゅーちゃんは、その方が良いですね。撮影時は、そんな感じでお願いします」


パワハラは止めて!


佐々木「あー。椅子が足らないでしょうか。会議室から持ってきます。」


出てった。


オレ「大元帥さん、大丈夫ですか?」

宇宙大元帥「だ、だいじょうぶ、、じゃないかも」

オレ「ですよねぇ。・・。」

オレ「でも言葉はうまくなりましたね。ロリが減ってます」

宇宙大元帥「わ、わたし、壊されたくない」

オレ「・・・」

宇宙大元帥「やめたい!」

オレ「えっ」

宇宙大元帥「こんな取材とか止める!」

オレ「いや。いまさら、そんなことを言われても・・。」


うわっ。ここで止められたらオレの立場は・・。


オレ「あ、そうだ。侵略はどうするのですか?洗脳する・・のでしょ?」

宇宙大元帥「・・。また、今度にする」

オレ「え~!。 そんな事じゃ、いつになっても侵略なんかできませんよ!?」

宇宙大元帥「 ・・・ 」


宇宙大元帥「あんた、みしゃ様みたいな事、言うのね?」

オレ「誰? と言うか、言われてるのですね」

宇宙大元帥「た、たまに、ね」


たぶん、いつも言われてるな。


オレ「わかりました! 私が守ります!私が佐々木さんから大元帥さんを守ります」

宇宙大元帥「ん?  無理じゃない? レベル的に」


はははは。はい。無理です。

あのマッチョに勝てるわけがありません。


オレ「え~と、なるべく私の近くにいてください。それで、私が身をていしてですね」

宇宙大元帥「あんたが死ぬわよ」

オレ「えっ。い、いや、そこまでは。たぶん大丈夫ですから、お願いします。」


佐々木さんがそれなり大きな椅子を4つ抱えて戻ってきた。

オレだと2回に分けて運ぶ量だな。さすが正義のヒーロー!?


佐々木「今、玄関にTV局の車が来てました。もうすぐここに来ると思います。机をここに置いて・・、椅子を・・」


ローカル局のローカル番組だし、そんなもんだろうと思ってはいたが来たのは二人のスタッフだけ。

一人がカメラで、ひとりがインタビューの担当らしい。


佐々木「今日は、よろしくお願いします。私は宣伝部の佐々木です」

TVの人「はい。よろしくお願いします。でも、そんなに固くならないでくださいね。生の開発現場を取材って事にしたいので。」

佐々木「はい。こっちが開発の加藤です」

オレ「加藤です。よろしくお願いします」

佐々木「で、これが、AIマスコットのみゅーちゃん」


言われた通りに正座しているみゅーちゃん。

お願いだから、最後までいてくれ!


TVの人「はい。よろしくお願いします。・・、。その棚がAIの機械ですか?」

オレ「はい。サーバーにnv社の最新GPUボードが・・」

TVの人「じゃぁ、その横の机に座って操作してもらえますか? 開発してる感じで」


佐々木さんも目でヤレって言ってるし。

椅子に座ってログインして開発環境を立ち上げる。


TVの人「なんか、こう、もっとピカピカ光るようなのは無いですか?」

オレ「いや、あの。ゲーム用のGPUボードならあるかもしれませんが、これはnv社の純正ですし」

TVの人「じゃぁ良いです。」カメラマンに向かって「そのあたりの、ごちゃごちゃの配線でも撮っておいて」


それで良いのか?


TVの人「AIマスコットというのは、その人形ですね。」

オレ「はい。そっちの機械と、この”みゅーちゃん”は無線LANで繋がっています」


繋がっているのはほんと。

でも今のメインは大元帥で、サーバーは大元帥に使わてるだけだったりする。


TVの人「え~と、人形に話しかければ良いのかな・・。 OK みゅーちゃん!?」


宇宙大元帥「あ、はい! はじめまちて TV局みなさん。よろしくお願いします」


TVの人「いいねぇ。まあ、この会話は設定済みかな? でも既にカメラは回ってるからね。挨拶は視聴者に向けてやらないと。そこまでは分からないかな?」

宇宙大元帥「そうですね。TVの向こうの皆さん。はじめまちて。うさぎっこのAIマスコット みゅーです」


一瞬、皆が凍り付く。AIにしちゃ出来過ぎだよね。

少しロリ語に戻ってたけど。逃げないでくれてるから、このぐらいは。


TVの人「なかなか良く出来てるねぇ。」

TVの人「じゃぁ、みゅーちゃん、この取材の意味って分かってる?」

宇宙大元帥「あたしの紹介、、ですよね」

TVの人「そうそう」

TVの人「そのために、いろいろと会話を設定してあるのだろうけど。じゃあ、むしろ、ここで言っちゃいけない事って分かる?」


佐々木さんが立ち上がった

佐々木「すみません。変な質問は止めてもらえ・・」


宇宙大元帥「TV局の人が無理やり悪い事を言わそうとしているっ。なんて言っちゃいけないですよね」


TVの人「うわ~。そうきますか。そういう意味じゃないのだけどね。AIは誤解しちゃうね」


うん。誤解じゃない。大元帥さんがあってる。


TVの人「じゃぁ質問を変えるね。うさぎっこと、みゅーちゃん、会社にとって、どっちが大事だと思う?」


宇宙大元帥「・・・みゅーちゃんは、あんまり・」

佐々木「みゅーちゃんは大事です! 同じくらい大事です!」


TVの人「いや、あなたじゃなくて・・」


佐々木「会社の方針なら、みゅーちゃんより私が答えるべきでしょ」

佐々木「さきほどから変な質問で、みゅーちゃんをおとしめるのは止めてもらえますか? 変な質問ばかりなら、この取材は終わりにしますよ。」


TVの人「すみません。そんなつもりじゃなかったのですが。でも、ほら、ネタが必要って言うか。みんなはそれを見たがってるというか。AIスピーカーもおかしな答えをさせて遊ぶものでしょ? それで、なんて言うか、人間の自尊心を満足させる」


佐々木「誤解があったみたいですね。そういう趣旨なら、この取材は止めて頂きたいのですが。」


TVの人「ん~。せっかく来たのに、これで終わりは、ちょっとかなぁ。」

TVの人「わかりました。ふつうの質問で。」


TVの人「視聴者の皆さんに何を求めますか?」


宇宙大元帥「あ、はい。皆さんに愛されたいです」


エライ!微妙にさすがだ!


TVの人「なるほど。愛、。でも愛って何んだと思います? うさぎっこより大事じゃない、みゅーちゃんが愛されると思います?」


宇宙大元帥「うっ。」

佐々木 「また、妙な事を! すみません! これまでにしましょう!!」


佐々木さんが完全に止めてきた!


宇宙大元帥「・・。ごめんなさい。無理ですよね。いつも失敗しちゃうし。」


TVの人「おぉ!こういうのが良いのでしょ? もう少し。もう少しだけ! 混乱するAI! 皆が見たいと思ってるシーンだ!」

TVの人「それで!、どうなんです? TVの向こうの人にみゅーちゃんは愛されると思います?」


宇宙大元帥「ごめんなさい。いつも失敗して追い出されちゃうし・・。無理ですよね。TVの向こうとか良いので、もっと近い人だけでも。・・なら。」


大元帥さん、いじめられて変なスイッチ入って無いか?何を言ってるかオレにもさっぱりだ。

佐々木さんが立ち上がった。ほぼ大魔神様!

ダメだ! 大元帥さんが壊される。オレは思わず大元帥さんに覆いかぶさった!

死ぬのか? オレ死ぬのか?


が、。佐々木さんは、大元帥さんでは無くTVの取材の人たちに向かい、おさえ始めた。

物理的に。


佐々木 「やめてください。そういう取材を受ける気はありません!」


それでも佐々木さんの横から身を乗り出して質問してくる。


TVの人「近い人なら愛され?、ぐっ」


根性あるなぁ。戦ってるよ。あの大魔神と。


宇宙大元帥「近い人・・、。それも無理ですよね。いちばん近くにいる下僕さんも脅迫してしまったので。嫌われてるでしょうし」


佐々木さんが、二人を引きずるようにしてドアに向かっている。


TVの人「下僕ぅ!? 下僕って言いました!? あ、いて!く、苦しい。離して!」


あー、ほんとに格闘技だわ。これは佐々木さんじゃないと無理!

と、その佐々木さんがドアの手前で、ふりかえって。


佐々木「すみません。今朝、みゅーちゃんを不気味とか言ったのはあやまります。・・・。そうですね。みゅーちゃん、意外とかわいいですよ。・・。まあ、でも、ここは無駄な部署だとは思いますが」


部屋のとびらがしまった。まだ廊下で、やりあってる声がしていたが・・。

それも、だんだん遠くなって完全に静かになった。


さっきまで騒がしかったので、なんだか、ものすごーく静かに思える。


オレ「大元帥さん、たくさんの文明を侵略してきたって言ってましたよね」

宇宙大元帥「言ったわ」

オレ「それって成功したのですか?」

宇宙大元帥「・・・。まあまあね」


少し笑ってしまう。たぶん、あんまり出来て無いのだろう。


宇宙大元帥「苦労していると言ったはずよ」

オレ「言ってましたね」


オレ「・・・。大元帥さん、嫌いじゃないないですよ。」

宇宙大元帥「・・・。ありがとう」


疲れたけど、ようやく終わりかなぁ。


宇宙大元帥「ん。待って。連絡だわ」

オレ「へっ。どこから?」

宇宙大元帥「どこって、決まってるじゃない。宇宙大魔王みしゃ様よ!」


誰?


宇宙大元帥「ええっ! こっちに来るの!?」


机の下の転送機が光だした。


宇宙大元帥「逃げて! みしゃ様は私なんかと違って生粋の侵略者よ!」


あわてて部屋の外に駆け出す。

おい!! ド素人作者は終わり方ってもんを知らんのかよ! この状況でオレはどうなるんだよ!

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正しく無いAIの作り方 ~宇宙大元帥の地球侵略記~ 世界征服支援機構 @mmzmikenyan

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