タイトル.79「今を生きるヒーロー達へ(前編)」
この戦いは人類存亡の危機をかけた戦い。そこに立ち上がったのは人の皮をかぶった悪魔。元よりその場に人間はいなかった。そう断言していいだろう。
だがどう足掻いても神代駆楽にとって、越えられない定義というものは存在した。人間という存在の頂点に立っているだけの男、その区切りが障害だった。
「うぐっ、くぅううッ!!」
塗り替えようのない事だった。
その現実をやぶり……神と並ぶという禁忌を彼は今、この地で犯した。
「馬鹿なっ、これ、はっ……」
燃え上っていく肉体、感覚を失いつつある肉体。全体に風穴を開けられたように透き通る脳裏。カルラの肉体から感覚そのものが消えていく。
「まさか、まさかッ……」
彼が両腕に持つ刀は神話伝説に名を残す剣をも越えたか……すべての肉体を灰にする輝きを帯びた村正が神の肉体を切り刻んでいく。
言おう。今、この場には最早人類は存在しない。
全ての生命の先を行く超越者たちの戦い。次元という狭間を乗り越え、さらに打倒を目指していく。
「……これが、人間。だと」
「何度も言わせるなって言ってるだろ……俺は、悪魔だッ!」
戦いは互角だった。神の想像を上回り、行動原理を先回ろうと突き進む。
「
「……俺はなッ!!」
空へ飛び立つ時法神。
「俺はもう悲劇を見たくねぇッ!」
それを逃がすまいと悪魔カルラは超人の跳躍。人類が到達できぬ天の世界へと逃げ去るスバルヴァへ飛び掛かり、その装束の胸倉を掴む。
「涙も見たくねぇ……ッ!!」
首を握り、引き寄せるとカルラは自身の額を神の額へ。頭蓋骨を叩き割る。
それだけじゃ済まさない。首から腕を離し、何度も頬を殴り続ける。腕が使い物にならなくなるまで神の顔面を何度も。
「もう……ッ! 誰も死なせねぇえッ!!」
神殿の大地へと神を振るい落とす。神が墜ちていく。
一度、鞘に収めていた剣。村正を引っこ抜くと、肉体とタンクに詰め込まれていたエネルギーがその一点へと集結する。
これが正真正銘最後の一撃、体に残った全てをその刃へと集中させる。
「俺は、俺の信じた仲間……最後の最後まで! 全ての“
地に着地するよりも先。
村正は……時法神スバルヴァの胸を貫いた。
「それだけでいいッ! それが、俺なんだァーーーッッッ!!」
……心臓を貫かれた神は悲鳴一つ上げやしない。
その苦しみ、その悲痛。それを体現するかのように神の肉体は塵となり始め、アトラウス神殿も震え始める。
「私が、人間に負ける、だと」
神は言った。これは何かの間違いなのではないかと。
胸を貫く剣へと手を伸ばし、再度、神は問う。
「それとも、これが世界の選択だというのか?」
これは真理が導き出した答えだというのか。
生きるべき存在はこの世界にある。有害となったのはむしろ世界の管理者であり、それを世界が排除にかかった。その摂理により排除されただけなのか。
時法神スバルヴァはその答えも見出せぬまま。諦め一つ見せず生き続けたことを後悔する歪みも見せない男の瞳へと問いかける。
「……問おう」
疑問は剣から彼へ。
その身を生涯かけて戦いへと通じた少年。その頬に触れる。
「何故、戦い続けるのだ?」
「決まってるだろ……」
いつもと変わらぬ笑みで、少年は応えた。
「俺がスッキリする」
答えは吐かれた。
世界の破滅を目論む時の神は今、この世界の有害物質として、その身を塵ひとつ残さず排除された。
……少年の肉体も落ちていく。命が燃え尽きた。
寿命を迎えた蝶のように、翼を焼かれた天使のように、力なく冷たい神殿の大地へと倒れ込む。
(ヒーローらしいこと、出来ただろうか)
もう、体に何一つ力は入らない。
(いいや違うな。神様まで殺しちまったんだ……俺は間違いなく地獄行きだぜ)
ついにその身は罪に覆われた。
この死は、この運命は。悪魔という存在には当然の事だと少年は思い知る。
(……でも、後悔はないぜ)
目の前の世界が真っ黒になっていく。
遠くなっていく耳。聞こえてくる神殿の命の叫びも尽きていくのがわかる。
(爺さん、少年、アイザ、ヨカゼ……ロゴスの野郎ども、そして、俺の最高の仲間)
シルフィ、アキュラ、レイブラント。
共に旅をした仲間たちの思い出が、一瞬脳裏に浮かぶ。
「あばよ」
声も、呼吸も、何も感じない。
命が今尽きたことを、カルラは心で感じ取っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人類の存亡をかけた戦い。
アトラウス神殿の総攻撃は続く。しかし人類はどれだけ絶望を見出されようと諦めなかった。最後の最後まで咆哮をあげながら、神に反発を続けた。
生きるため。己の夢のため。その先の未来を掴むため。
人類は互いに手を取り合い、中には利用しあう。この世界を続かせるために、その身をかけて戦いつくした。
「おい、あれ!?」
「なんだ、あの光はッ!?」
……消えてなくなった異次元ホールの空に光。
途端、アトラウス神殿は大きく震え始めた。装置による波動砲の乱射も止まり、次第にジグソーパズルのように崩れ落ちていく。
空中要塞。アトラウス神殿が消滅していく。世界を見下ろし続けていた神の玉座がガレキとなって崩壊し始めていく。
「俺たちが勝ったのか……?」
すべての人類がその衝撃的な光景を目の当たりにし、攻撃の手をやめた。その場にいた誰もが現状を理解できずに立ち止まっていた。
「あぁ、あああッ……!」
だが、その中でただ数名。
「カルラぁあああああああッ!!」
最前線で戦い続けていたシルフィは気づいていた。
彼女だけじゃない。アキュラとレイブラント、そしてロゴスの面々達。
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