タイトル.77「空に輝くドリームズ(前編)」


 ……異次元ホールが消滅し、太陽の輝きが神殿アトラウスの玉座の間を照らす。

 その場に残されたのは玉座の間に腰かけたままのスバルヴァ。

 何の事情も分からず。目の前の超展開に振り回されっぱなしのカルラ。

「まぁ、アレだ」

 こんなところで留まっていても困る。カルラが動く。

「おタク、今から何をしようとしてるんだい?」

 今この状況の説明を神様本人へ問う事にする。


 まずは整理しよう。


 ---神代駆楽は別次元である地球からこの違う次元の世界へと連れてこられた。あの神様を倒せる素質を持つ戦士、フゥアリーンのジョーカーとして選別されたためである。


 ---この世界の人間ではスバルヴァには手一つ出すことはできないと口にしている。スバルヴァは人間体として具現していた頃は力を使えなかったが、神としての姿に戻った今ならばその力を好きなだけ執行できる。


 ----別の世界の人間ならば、この次元の神であるスバルヴァの力による影響は一切受けないのだという。現にここに来るまで存在を悟られることはなく、結界を貫通することも出来た。そしてついにこの場へやってきた。


 ひとまずはこんなところか。

 だが一つだけ彼女から聞き忘れたことがある。それはこの男が何をしでかそうとしたのかだ。

 このまま事を進めればフゥアリーンが一方的にスバルヴァを裏切って、この世界を乗っ取ろうとした……とも受け取れてしまう。

 そんな悪の所業の片棒を担がされた下っ端的立場にいるのではないかと誤解している可能性がある。

 何が起きようとしているのか。彼女が何をやらせようとしたのか。無礼なんて元より承知で神に問う。


「……選別、だ」

 スバルヴァは彼の問いに答える。

「この世界の存続のため、私は選別を行っている……人類すべての抹消こそ正しい選択であると判断した」

「!?」

 人類すべての抹消。

 空中要塞アトラウス。あの一方的な殲滅はこの男の意思によって行われている。もしやと思っていたことが何のズレもなく起きていたのだ。

「私は見た。人類の愚行を見続けた。だがそのうえでも世界はかろうじて均衡を保っていた……だが何れ世界は滅びの末路を辿る。私はその未来を避けるためにあらゆる手を使って人類を管理していた」

 市長。そして政府本部の長。人間の肉体を使い現世に降り、アウロラをコントロールし続けてきた。滅びの未来を避けるため、使える手は使ってきた。

「私はこの世界の肉親である。故にこの世界を蝕むモノがこの世界の人類そのものであろうとも……私は人類を愛そうと努力をしたのだ」

 人類もこの世界の一部。故に生かす。その方法を探り、続けてきた。

 恐怖による管理。人類を操作。

 ありとあらゆる手段を用いて世界と人類を結び付けようとしていた。

「だが、ここまで世界も堕ちたものか……どう足掻いてもこうなってしまった」

 人の身を失った。そして世界は戦争を起こしかけた。醜すぎる道筋を辿るだけの世界に神は絶望した。人類に未来はないと判断した。

「その上……同胞にまで裏切られるとは。フゥアリーンめ、人類をより愚かな未来へと歩ませるとは何たる愚行」

 フゥアリーン。特殊部隊セスに属していた彼女はスバルヴァの犬を演じてその首元の隙を伺い続けていた。

 隙を見て作り上げたのがあの異次元ホール。うまく誤魔化して原因を暗ましていたようだが、その全ては経った今、本人の口からここで明かされたのである。世界の行く末をより混沌へと持ち運んだのはむしろ彼女であることを神は告げている。

「己の欲の為に世界を汚す事しか考えない人間共……もはや、何の価値もない。一考の余地もない……世界の存続。そのために人類は抹消する」

 もう希望の欠片は一つもない。それがスバルヴァの意向だ。この世界を存続させる最短の道はもう人類の抹消以外他ならない、と。

「オルセル・レードナーの野望が潰えた時、その未来、人類は新たな戦争の火種を生むことになるだろう……あの街も、種族も、そこには法も何もない悪夢の時代が訪れる。奪い合い、殺し合う。人類はより愚かになるのだ」

 最後まで奮闘はしたがもう我慢の限界である。むしろフゥアリーンの起こした反乱は人間の底の浅さを知るには丁度いい機会だったのかもしれない。

 世界を救うため人類すべてを。今、この世にいる生命のリセットを宣言したのだ。

「この世界をやり直す。リセットするのだ」

 宣言して見せた。世界を守るために命を燃やし尽くす。

 神として当然の責務。当然の権利。

 時法神スバルヴァは今ここに新たな時代の修復を宣言したのである。






「そうか」

 カルラはそっと、髪を撫でまわす。

「人間よ。私は間違っていると言いたいのか、神として、愚かだと愚弄するか」

「いいや間違ってない。あんたは世界を救おうとする立派な神様だろうよ」

 一歩ずつ、神の座へと足を進めていく。

「アンタは世界の希望だろうが……残念ながら俺の“敵”だ」

 村正。カルラと一体化した殲滅の刃。

「フゥアリーン。アンタがコイツに反抗した理由が何となくわかった。お前の言う通りだ。俺がここへきてやることはたった一つだったんだ」

 己の武器を抜いたカルラは……神に向けて、宣戦布告を申し出たのだ。






「俺は、アンタを殺す。殺さなければならないんだ」

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