タイトル.73「一つのエンディングの更に先」


 戦いは終わった。

 街全体を巣食っていた黒幕はアキュラ達の活躍により、この空の果てで爆散した。目的を終えたところで一同は外へ出る。

 街のあちこちで徘徊していたパトロールロボットはすべて機能を停止している。バイオ人間はその肉体の形を維持できず、黒い水たまりとなってロックロートシティの地面を濡らしていた。

「終わった、か」

「終わったな」

 アキュラとレイブラントも酷い有様となったロックロートシティを見渡し息を吹き出す。

「……酷い有様だ。食欲もわかないよ」

 人間の遺体。黒い体液と紫色の毒液にまみれた遺体。マシンガンでハチの巣にされてしまった無残な死体を見てもキーステレサは興奮すら覚えない。あまりに醜い風景に落胆の表情を浮かべていた。

「生存者はどのくらいいるんだよ……それにリン様も探しに行かねぇとよ」

 気を失ったためにリンが倒されたことを知らないドガンは一度テレビ局に戻ろうかとも考えている。ロックロートシティの生存者を探すのは後回しにしようと。

「どうして、こんな酷いことを……」

 ジャンヌに至っては罪悪感で胸を蝕まれた。

 現環境に対してあまりにも無知であったこと。こんな恐ろしい計画を企んでいたオルセルの陰謀に多少であれ加担してしまっていたこと。そのすべてがジャンヌを精神的に追い詰めるには十分すぎる材料だった。

「どうか神よ……傷ついた者達にご慈悲を」

 両手を掲げ、天に祈りをささげる。

「そして、どうか私に罰を」

 罪を償わせる機会を。贖う機会を。

 ジャンヌは何よりもその一点を強く願っていた。






「ん?」

 ジャンヌの祈りは絶対のもの。

 彼女に元に溢れるのはすべて幸運だと言われていた。特殊部隊セスに所属する者全てがこの女の異常なまでの運を恐れている。その祈りは天に届いたのだろうか。

「なぁ、あれ」

 “空中要塞アトラウス”。

「「……ッ!!」」

 光を纏った要塞が。

「「!?」」

 名もなき大地に



「え?」

 この世に訪れるであろう災厄を焼き払う消滅の光。

 本来であれば人類を救うはずの光が……再び大地を焼き払う。

 光による焦散霧。空中要塞アトラウスは再び、その砲台を引っ込めてしまうと……またも光を集め始めた。

「「ジャンヌ?」」

「違います! 私は何も!?」

 キーステレサとドガンの疑いの目線にジャンヌは強く手を振った。

「どうなってるんだッ!? もうオルセルはいないはずだ! なんでアトラウスが勝手に動いてるんだ!?」

 市長室を出ていく前、空中要塞アトラウスを遠隔操作する装置は確かに停止させ、アキュラがその手で破壊した。これで空から破滅の光が降り注ぐことはなくなったはずだった。しかし空から光は放たれた。

 街には命中していないが……名もなき荒野が光によって焼き払われた。

「うわわっ!?」

 また光が放たれる。

 今度は森林だ。大地は塵ひとつ残らず焼き払われ、生息していた野生動物たちも骨一つ残らずに燃え尽きていく。

 光が落ちた大地は他の墜落地点同様に深紅色の火柱を上げて、空を深紅に染めあげていく。赤いイナズマを放つ雷雲をも呼び寄せる。

「これはいったい……!?」

 その場にいた七人が固唾を飲み込む。

 オルセルは確かに死んだ……だが、まだ終わっていない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ---少女と出会ったのはほんの数か月程度。付き合いもその程度だった。

 ---友達といえるほどの付き合いでもなかった。国同士が定めた関係だ。

「んで、そういろいろあってね。私がアンタ達を呼んだというわけ……全く、本当に手間をかかせてくれたわ」

 ---協定がほどけば、また敵同士。

 ---再び殺しあう関係になる。慣れあえない者同士。距離なんて縮められない。

「時間がないわ。早いところ、黒幕を仕留めに行くわよ」

 ---だから、助ける必要なんてなかったのに。

 ---どうしてアイツは、俺なんかを助けたのだろうか。

「……ちょっと、聞いてる?」

 フゥアリーンは不機嫌に聞き出す。

 上の空の状態だったと言えばいいか。囮であり最大のトラップハウスであった政府本部局のエントランスに戻ってきたカルラはうなだれたままだ。

「その子の事まだ考えてるの? もう大丈夫って言ってたくせに」

 カルラの腕の中。抱えられたアイザの亡骸。

 カルラは二度と開くことのない無垢な瞳を見るたびに、唇を深く噛みしめていた。

 ……本当であれば、『置いていけ』と言われてはいた。

 だがあんな暗い場所に独りぼっちで置いていくのはあまりに可哀そうだ。あまりにらしくない言葉をカルラは吐き出すと、無理を言って外に連れ出すことを許可してもらったのだ。

 せめて仲間の元には返してやって、静かに弔ってあげさせたい。

 友達でもないと言い切っていたはずのカルラが、アイザの最後を……その行方だけは譲らなかったのだ。

「ああ、悪い……何の話だ」

「だ~か~ら~。私が何者でアンタが何なのか。その全部を話してるって言ってるじゃないのよ」

「すまん。聞いてなかった」

「あのねぇ……」

 破天荒がウリの彼がここまでナイーブだと後先思いやられる。

 アイザを連れていくというワガママを断れば、今以上に後が面倒になることはわかっていたのだが……連れてきても、カルラの態度は結局変わらない。

 しかし、だからといって挫けてる時間はない。挫けさせている場合ではない。

「いい? もう一回言うわよ?」

 溜息を吐く程度に終え、フゥアリーンは自身の髪に触れると改めて名乗る。



「私の名は【時監神じかんしん、フゥ・ア・リーン】」

 己の胸に触れ、堂々と正体を明かした。




「あの空に穴を開け、別の次元同士をつなぎ合わせた張本人よ」

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