タイトル.37「大義名分シリアルキラー(後編)」


 黒ずくめの男達と交戦し、どれほどの時間が経過したのだろうか。

 村正が稼働しているという事はまだ二十分以上の時間が経過したというわけではないのだろう。

「……また、おいでなすった」

 その数は五体。いや、正確には

「どんだけいやがるんだ、コイツらッ!!」

 

 倒しても次から次へと補充が来る。倒しても倒してもキリがない。

「……何処を見渡してもカギヅメ野郎ッ!」

 また一人、カルラは黒ずくめの男をぶん殴る。これで五人目。

 トドメは拳。聞きたいことは山ほどあるために息の根を止めることまではしない。

「やけに意地っ張りだねぇ……ただの快楽殺人者とは違うみたいだ」

 ただ、スリルを味わうため、面倒くさくなった世の中を滅茶苦茶にしたいという破壊願望のため、周りの事など示唆する気配すら見せやしない自己満足なテロリズムとは違う。

「大義だ。我々は大義を持つ正義である」

 大義。この男達は先程から殺人を大義だと口にしているのだ。

 この村を滅ぼすこと。この村に住まうすべての生命を根絶やしにすることが使命であるという事を。鬱憤晴らしのテロリストなんかとは何倍も違う。

「テメェらの目的は何だい? この村に金銀財宝でも眠ってるのかよ?」

「大義だ。この村の罪を我々が裁くのだ」

 どう質問したところで帰ってくる答えはコレのみだから話にならない。

 大義以外に気になる言葉があるとすれば、『この村は滅んで当たり前』・『この村は犯してはならない罪を犯した』の繰り返しだろうか。


 この村が何をやらかしたというのか。

 心優しい村人たち、賑わう商店街。この村に潜むという罪とは一体何なのか。

「わからねぇ、ああ、わからねぇな!」

 ヨカゼが計算した村正の稼働限界時間はどれほどか。カルラは確認を入れる暇もなく黒ずくめと対立する。

「うん、わからないよ」

 世界の自称や政治的観点などそういった知識は皆無であるアイザ。

 彼女が黒ずくめを敵対する理由。それは国に命令されたわけでも、ス・ノーの指示を受けたからでもない。

「でも、こいつらがわるい奴というのはわかるよ」

 匂い。不愉快な匂い。

 この男達からは身の毛も震える最悪な匂いを感じ取った。アイザにとって敵であるか否かは、そんな野性的な観点一つで十分なのである。

「どうして、そんな悪いことをするのかなぁ~!?」

 フェーズ3。人間相手にはオーバーな出力で黒ずくめを牽制。

 その両手に持つマグナムをぶっ放せば早い話。殲滅するのならそれだけで十分ではあるのだが、それはカルラに静止されている。

 山岳の景色一つ歪めるほどの威力を持つエネルギーマグナム。いくら出力を抑えたとしても周辺に散々な被害を及ぼす羽目になるだろう。

 そればかりはどうしようもない緊急時以外は避ける必要がある。


「我らの執行の邪魔をするな!」

 消耗戦、ともなればカルラ達の不利は歴然。

 破壊を試みるしかない。次第に彼等は追い詰められつつあったのだ。



「ああ、分からないな」

 変わる景色。

「環境保護地域でどうどうのバイオテロとは勇気ある奴らだ」

 霜が村に張り詰められていく。

「!」

 凍る。地面が凍る。

 カルラ達の前方にいた黒ずくめの男たちが一斉に凍り始めたのである。

「……遅いぜ、帰ってくるのが」

「状況を説明しろ。お前達の報告は適当すぎる。何が何だか戻ってきた」

「全くだぜ。まぁ……お前が焦る理由は何となくだが分かった」

 振り返ると。そこには、遅れて帰ってきた面々。

 アキュラとス・ノー。そしてフリーランスとロゴスの面々が今、集結。

 彼らが到着した頃には、その場にいた黒ずくめ達は氷のオブジェへとなり果ててしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 苦しむ村人達。息をしている住民に事情聴取を行うが、やはりそれといった情報は入手できない。

 いきなり変な男たちが現れて、大義名分だと口を挟み極刑を開始し始めたと口をそろえるばかり。詳しい事情を知らない者ばかりである。

「やっぱ、そのスーツの男をとっ捕まえないと分からないか……どうだ、ヨカゼ?」

『サーチした。ふむ、黒ずくめどうかは分からないが、衰弱していない生命反応が五つほどだ。まだこの村の何処かにいる』

 訂正。残りの数はおそらく五。情報を集めるのならその五人の身柄を確保する。

 なにせ、他の面々はス・ノーの氷に閉じ込められてしまった。氷が解けるまでには時間がかかる。それ以前に生きてるかどうかも怪しい状況だ。


「大義、か」

「この村の連中が何かやらかしたってのか?」

 契約書、役所の対応。そこに怪しい動きはなかった。

 どこかの組織や業界に喧嘩でも売ってしまったのかと推測する。

「……思い出した。一つだけ、思い当たる節がある」

 法を犯した。それに関係するかは分からないが、カルラは引っかかることが一つだけある。

「今朝、村長に会ったんだがな……誰かに謝ってたな。あぁ、そうだ! 確かそいつもスーツ姿の男だった気がするぜ!」

 そうだ。村を出る手前。村長が誰かに謝っていたのを思い出す。

 話の内容は滞納の謝罪らしき言葉であった。何が滞っていたのかは分からないが、期限内にそれを果たせなかったようである。

「……まずいな。村長の身に何かあれば、俺達はタダ働きになりかねん」

「リーダー。今はその状況では」

「でも事実でしょう? さすがにムカデの巣のド真ん中は苦労したんだから、それで御駄賃なしは気が滅入るよ」

 あれだけの大仕事を引き受けてタダ働きなど冗談ではない。守銭奴でないにしても、あの仕事に対して対価がないのは満足出来るはずもない。

「……同感だ。ひとまず、村長を探すか」

 アキュラもその意見には賛同。何としてでも、容疑のかかった村長を見つけ出す。

「国のトラブルに首を突っ込むのか」

 このトラブル。安易に首を突っ込んでいいのかとレイブラントが問う。

「嫌な予感がするんだよ。これをスルーしたら行けないっていう感がさ」

 数多くの修羅場を乗り越えたアキュラ。トラブルを避け続けてきた彼女だからこそ、そのセリフには妙に重みがあった。

「それに、お前としてもこんな非道」

「ああ、捨て置けん」

 許せるはずもない。

「必ず見つけ出し、全てを吐き出させる!」

「そう来なくっちゃな」

 平和を願う騎士の一人。自身の国ではないにしろ、こんな強引な極刑には反吐が出る。レイブラントの本音であった。


「早く、探し出しましょう!」

 黒ずくめの奇襲に注意しつつ、一度その場で散開。

 それぞれの無事を祈り、健闘も祈る。




「……おばぁちゃん」

 一人、気持ちを沈ませる少女がいる。

 無事で済んだにしても重傷を負ったまま気を失っている老婆の事を思い出し、下を向いていた。アイザは食堂のおばちゃんの事を放っておけなかった。

「大丈夫だよ。とっとと黒幕を見つけ出そうぜ」

 そっと、アイザの背中をカルラが摩る。

「俺達は正義のヒーロー、なんだからな」

「……うん」

 子供の様に静かに頷き。アイザは一歩、前へ歩き始めた。

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