タイトル.24「ブラック・デビルとホワイト・ラビット(前編)」
「……チッ。派手にやったな。あの馬鹿」
観光スタッフにどう言い訳したものかとロゴスのリーダー・スノーは面倒くさげに頭を掻きまわしていた。
レイアとキサラの二人も敵を倒せればそれでいい程度の火力に抑えていたというのに、アイザは周りの状況お構いなしの攻撃をかましてきたのだから。
「随分とあっさり矛を収めてくれたじゃねーか」
死に物狂いで逃げ切ったアキュラ。ホっと息を漏らしてしまっている。
「気が変わっただけだ。患者一人分くらいなら譲ってやる」
「金に目が眩んでたってのによ。お前、シルフィとはどういう関係だ?」
「……昔、世話になった。とだけ言っておく」
理由は深くは語ろうとはしなかった。
どうやらシルフィとはそれほど深いつながりがあるようである。
彼もまたシルフィと同じ獣の耳が生えた異種族同士。関係性がないとは思えない。
「修復完了、動けます」
キサラが立ち上がり、ス・ノーの元へ向かう。
サイボーグらしく自己修復していたわけだ。体内の断面図がくっきりと見えていたボロボロの機械ボディは瞬く間に元に戻っていた。
「レイア殿は……無事でござるな。よかったよかった」
向こう側ではレイブラントとレイアの姿も確認できる。その場にいる全員、生き埋めにならず済んだようだ。
「シルフィ様々、ってわけか」
彼女に感謝をしておく必要がありそうだ。アキュラはビーチの病棟でゆっくり休んでいるシルフィに一人静かに黙祷した。
「……一つ聞きたいことがある」
「はい?」
ス・ノーの視線は、貧乏ゆすりをしながら苛立っているカルラへ向けられる。
「……アイザとは知り合いみたいだが、どういう関係だ」
「そんなもの決まってますともッ!」
カルラの視線は露骨に視界から外していたアイザへと戻っていく。
「この子は俺のて、」
彼女との関係。それを言い張ろうとした矢先の事だった。
「えいっ!」
----塞がった
「き、……っ!?」
カルラの口が塞がった。
「は?」「おおっ……」
ス・ノーとキサラ、二人同時に言葉を失う。
「なっ!?」「おやおや~?」
遠くからその様子を眺めていたレイブラントとレイアも驚愕を隠せない。
「き、き……」
アキュラもその光景を目前にしているからこそ、思わず声に漏らしてしまう。
塞がった口。カルラの眼前には……密着したアイザの顔。
「キスしてやがるッ!?」
思わず、アキュラは状況を口にした。
「んーー!! んーーーーーッ!?!?!?」
カルラは泣きながら助けを乞う。しかし逃げられない。
抱き着かれている。絶対に逃がさないよう両手両足でガッチリとカルラを押さえている。アイザはカルラの唇を塞ぎ、当たり前のように舌を放り込んでいる。
「 キスしているよなっ!? キスしてやがんなッ!? しかもとびっきりディープなやつをしているよなァッ!?」
解説、確認、ともに完了。思わず三回状況を説明してしまうアキュラ。
「ん、んーーーーッ!!!」
カルラは必死にアイザの背中を何度もたたく。脱出を試みる。しかしその馬鹿力から逃れることは叶わない。
「お、おおおおっ……」
キスを受けたカルラから声が漏れる。
「お、ま、え、はぁ~……ッ!! 挨拶がてらに軽々しく男の純情を奪うなァッ! バカタレぇエーッ!!!」
十六文キック。ものの見事な腹への蹴りがアイザに直撃。意地でも脱出する。彼女の拘束を振りほどいた。
「うーわー」
タコのように絡みついていたアイザはそのまま綺麗に吹っ飛ばされる。
クマのぬいぐるみのように両手両足を前方に突き出し、キョトンとした表情で尻もちをついて着地する。
「
カルラの口から飛び交う罵詈雑言。テレビや小説と言えども表現に限界のあるド汚い言葉が、ポカンと顔をあげているアイザへと乱射される。
「ディープにやるなっ、ディープに!! 何故にディープにやったッ!?」
「えっとぉ……大切な人と久しぶりに会った時には、こうして挨拶をするんだよって、本に書いてあったから~」
おそらくだが、それは有名な恋愛映画の書籍本だったりする可能性がある。しかも、とびっきりディープなやつの。
「「大切な人ォッ!?」」
アキュラとレイブラントの驚愕が止まらない。
「フザケンなッ! そういうのはもっとムードを大切にしやがれ!! 異性に挨拶代わり軽々しくやるもんじゃねぇ! こねぇんだよ、胸に! 愛がねぇんだよ、しらけるんだよッ! アンポンタンがッ!!」
「んん? 私はカルラを愛しているよ~?」
これまた、キョトンとした表情のまま首をかしげてきた。
「「「愛しているッ!?」」」
ロゴスの面々も叫び出す。クールなス・ノーですらも。
「「だとーッ!?」
続いてアキュラとレイブラントの二人は思わず発狂。
まさか。まさかだというのか。カルラにはもしや、そのような異性が……?
「お前のI LOVE YOUは俺の言ってるのとは違うんだよ! 単調頭は相変わらずだなテメェはさぁ!?」
頭を大きく搔き乱しながらカルラはいつにもない咆哮を見せていた。 顔は真っ赤。ここまで取り乱す彼は見たことがない。
「なんだなんだァ? 友達とか彼女がいないって、お世話係に言われてたもんだから、てっきりボッチかと思ったが……もしかしてコイツはお前の友達か? それとも友達通り越してガールフレンドってなりか?」
ニッシッシと笑いながらアキュラが近寄ってくる。
これだけの焦り様にこれだけのパニックぶり、こんなカルラの姿を見て彼女が面白がらないはずがないのだ。
「ガール、フレンド……だとお~?」
そっとカルラは振り向く。ロボットのようにギクシャクと。
額には血管が大量に浮き出ている、さっきまでなかったはずのクマも出ているし、頬も萎んでいる。なんというか、相手が上司だろうと関係なしにキレているようだ。
もしかしなくても、アキュラは彼の地雷を踏み抜いた。
「ちげぇよ! コイツは敵だッ!!」
「うん! 私とかるらは敵同士でマブダチだよ~?」
アキュラの質問に二人同時に答えてきた。
カルラは怒り気味に、アイザの方は満面な笑顔。このあまりの温度差の違いにどう反応していいモノかとリアクションに困り始める。
「……こんなところでゴチャゴチャしても仕方ない。ヒヤリ草の採取ポイントまで歩いていく。会話なら歩きながらでも出来るだろう」
これ以上は収拾がつかなそうなので一足先にス・ノーが歩き出す。
それは賢明な判断であった。カルラの論争、それを永遠に許していたら日が暮れる。賞賛ものの判断であった。
「動けるか?」
一斉に動き出した一同の中、今も尚、地に尻もちをつけたまま動こうとしないレイアにレイブラントが手を伸ばす。
「あはは……腰が抜けたみたいで」
「そうか」
盾を背中にしまい、レイブラントは身をかがめる。
「失礼」
そして、少女を持ち上げる。
「うわぁ!?」
所謂お姫様だっこというもの。レイアはフワリと浮き上がり、騎士の腕の中へ。
「居心地はよくはないと思うが、どうか」
「え、えっと……うん……」
鈍感かどうかは分からないが、この時レイブラントは気づいていなかった。
レイアの反応……恥じらいを覚えるこの姿、何気なく見せた紳士のその優しさが。
悲劇を生むことに。
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