最終話 宇宙人を待つ
大学では、誰とも話さずに一日を終えることが多々だった。人との関わりは、面倒だ。すぐに頭が痛くなる。しかし、私の容貌のせいか、声を掛けられることは多かった。「スタイルいいですね」とか「何学部ですか?」など全く知らない学生に呼び止められる。私はその都度、お礼を言ったり、質問には正直に答えたりしたが、それ以上の何かは、何も起こらなかった。
パソコンルームで出会った女子学生とも、あれから何度か大学内ですれ違ったり、隣り合わせて座ったりもしたが、話し掛けることも掛けられることも無くなっていたが、彼女は私の顔を見るとなぜか優しく微笑んだ。きっと、私の容姿が彼女にそうさせていたのだろう。しかしそれ以上の何かは、やはりなかった。
部屋の窓を開け放していると、蝉の声がうるさいくらいに入り込んでくる。鳴く毎に命を削る夏の風物詩だ。
私は一日中持ち歩いていたメロンパンの袋を破った。さらに甘い部分が溶けていて、メロンパンとは呼べない程の姿になっていた。ちぎって食べようとすると、糖分がネットリと私の指に残った。仕方なく大口を開けてパンに食いついたら、強烈な痛みが走った。ベランダのトマトを口にした時、口角が裂けたのを思い出した。少し治ってきていただけに、そうせざるを得ない状態のメロンパンが、腹立たしかった。
涼しい日が数日続き、扇風機を少し回すと手足が冷えた。夏は、潔くやっては来ない。暑かったり寒かったりを繰り返すのだ。行ったり来たり、迷うような夏は、歓迎されていないことを知っている。
スマホの着信音をデフォルトから変えた。龍平の姿を、大学内で探すようになった。似たような後姿を見て、少しドキドキすることもあったが、どれも龍平ではなかった。龍平がレンタカーを借りてくる日はいつだろうか。今日かもしれない、明日かもしれない。龍平が私の目の前に現れたのならば、どんな猛暑の日でも、私は喜んでお供しよう。出来るだけ、楽しそうにしよう。頭痛薬は、もう少し強力なものを用意しておこう。
裂けた口角は、なかなか改善しなかった。薄っぺらいかさぶたが出来ては、すぐに剥がれ、再び裂けては痒みが発生した。それでも、実ったミニトマトは新鮮なうちに食べた。ベランダのトマトの細い枝には、青い実がまだ五個ばかりくっついている。すべて赤くなる頃には、もっと暑くなっているのだろう。
宇宙人はトマトを食べない 高田れとろ @retoroman
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