第9.5話 主戦派

「救世主様!」

 歓迎会を抜け出そうとした私は不意に後ろから声をかけられる。ちょうどエリアもお手洗いにいっているためか、いない。授業をさぼって抜け出そうとして怒られるような感じかと思って私はおそるおそる振り向く。

 そこに膝まづいていたのはいかにも歴戦の武将といった日焼けして顔に傷を負った三十代半ばほどの男であった。私は困惑しながらも彼に向き直る。


「一体何でしょう?」

「俺はブラド―という武将でございます。本日は救世主様に直接お声掛けするという無礼を働いてしまい申し訳ありません」

「いや、それはいいんですけど」

 今までの人生であまり他人にへりくだられたことがなかった私は困惑する。

「実は俺の両親は国境付近の村で暮らしていたのです。そして俺が五つのころ、魔物の襲撃を受けて死にました。特に母親は一人なら逃げられるところ、俺をかばって死んでしまったのです!」


 私は嫌な気持ちになりながら聞いていた。この武将の方には申し訳ないがおそらく私は彼の希望には添えない。そんな予感がひしひしとこみあげてくる。

「は、はい」

「それ以来俺はひたすら武芸の訓練に努めました。自分で言うのもなんですが、今の俺はこの国でも相当な勇士であると自負しております。絶対に両親の仇を討つために。同じ村の生き残りも皆そう思っています! ですが今日は俺が代表して救世主様に面通しに参りました! 魔王討伐の際は力を合わせましょう! そして今度こそ二度と魔王が復活しないよう魔物を全滅させるのです!」

 話しているうちに熱くなってきたのか、ブラド―の口調にはだんだん熱がこもってくる。正直戦う気がない私はどんどん気まずくなってくるがまさか彼を前にして「やっぱ戦いません」とも言えないし、逆に「一緒に魔王を倒しましょう」と気持ちよく嘘がつけるような性格でもない。

「我々救世主様の降臨を今か今かと待ち構えておりました! 魔王軍に積年の恨みを晴らせること嬉しく思います!」

「う、うん」


 私が困惑しているとエリアが戻ってくる。ありがとう、助かった。

「すみません、幸乃さん疲れてるので今日はこの辺で」

「あ、申し訳ございません、つい興奮してしまいまして! ではまた戦場で会いましょう!」

 そう言ってブラド―は申し訳なさそうに去っていった。それを見て私の全身からどっと疲れが噴き出す。

「すみません幸乃さん、私が油断してました」

 エリアが申し訳なさそうに頭を下げるがそれはどうでも良かった。

「ねえエリア、さっきみたいな人、結構多いかな」

「いや、多くは……。でも、軍には結構いると思います。いえ、でも幸乃さんが気にすることではありません。復讐というのは本来自分で行うことであって、無関係の第三者を召喚して手伝ってもらって行うべきことではないですから」

「そうだね」

 それはそうだ。別に私が彼らに気を遣う必要はどこにもない。理屈ではそう思っても私の心は余計にもやもやした。

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