第59話 面接

 その後私たちは数えきれないぐらいの日本人を召喚しては送り返した。最初は感動していたセラやクオリアも回を重ねるごとに疲れていく。私は私で毎回毎回この世界とか召喚魔術とかの説明をするのに疲弊していくし、苺はだんだんどうでもよくなってきたのかしまいには横になりながら召喚の様子を眺めるだけになっていった。

 一応、そんな召喚の様子をダイジェストでお送りする。


「僕らの~愛は永遠~♪ うわあああああ、ここどこだ?」

 こいつはどこかでライブをしていたミュージシャンか。マイクを持って歌いながら召喚されてきている。私のときは夢の中でとかだったのにライブの真っ最中に召喚してしまったか。

「ああどうも、あなたは異世界に召喚されました」

「え、異世界って何!?」

 以下説明パートが続くが省略する。


(彼の歌には魔力があるわ)

 セラもそう言ってくれて、私は少し期待する。

「なるほど、分かった。俺の歌で世界を平和にするぜ」

「ありがとう」

「とりあえず穏健な魔物を率いて狂暴な魔物を滅ぼして人間と仲良くすればいいんだな?」

「ん? 私の話聞いてた?」

「いやでも、そんな狂暴な奴倒した方がいいだろう」

 それはそうだけど。倒すだけなら私だけでも出来るっての。

「というか魔王とか面倒くさいし、俺はこの世界に歌を普及したい」

「それはいいね。魔王とか関係なくこの人はとりあえずキープしとこ?」

 苺が訳の分からないことを言いだしたので私は即決する。

「はい、送還で」

「何で、何でだー!」


「あ、どうも、僕一応ラノベ作家をしています」

 最初の男と雰囲気は似ているが話を聞く限りチーレム系ラノベ作家ではないらしいし、魔力もあるので望みがある。私は何とかこの世界の説明を終える。

 話を聞き終えた男は絶望の表情になる。

「……え、てことは僕魔王しないといけないんすか」

「うん」

「でも、魔王ってことは魔物とか配下の人たちとコミュニケーションとらないといけないんすよね。無理無理無理……」

「だ、大丈夫だって。何か魔力あるっぽいし、魔物なんて力あるものには服従するから」

「でも人間陣営とか過激魔物陣営とか色んな陣営あるんすよね。そんな複雑な勢力図の調整をするなんて考えただけで……う、腹痛っ」

 突然男はお腹を押さえて苦しみだす。するとセラは危険な予感を察知したのか、無言で送還し始めた。

「ええ、今の人一番理解力あったからもう少し慣れてくれれば」

 腹痛は可哀想だけど、事態の重さを認識してくれているということでもある。

「私の魔法陣の上で漏らすなんてことあってはならないわ」


「あ、俺チートとかあってもスローライフを送りたいんです」

 たまたまなのか、日本から召喚された人は魔力が高い人が多かった。ちなみに今回の男は無双系よりスローライフ系の異世界物が好きらしい。

「いいよ、魔王になったらいくらでもスローライフしてくれて」

「でも魔王にならない方がスローライフ送れるし。俺は凡百のなろう主人公とは違う。完璧に自分の力を隠してスローライフするんだ!」

 確かになろう主人公はよくなりゆきでチート力を見せつけてしまうけども。

「ええ、そこを何とかならないかな」

「じゃあちょっとだけなら」

 そう言って男はよろよろと立ち上がる(座った状態で召喚されてきていた)。

「……とでも思ったか!? テレポート! これで俺は『魔王になるために召喚されたけど逃げ出してチートでスローライフを送ります』の主人公だぜええええええええ」

「「キャンセル」」

 すかさずセラとクオリアから同時に魔法が飛び、あえなく彼のテレポートは防がれる。魔力が高い召喚者のテレポートだからもし少しでも状況が違っていればどうなっていたか分からない。ちゃんとスローライフを送ってくれるのならまだいいが、何かでボロを出して担ぎ上げられ、世界のパワーバランスに影響されかねない。セラは冷や汗をだらだら流しながら彼を送還した。


 という訳で、魔力と人格、そして精神力を合わせ持った理想の魔王候補はなかなか現れなかった。まあそうだよね。

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