第58話 召喚

 その後私たちはあれこれ考えた。現代日本を象徴するもので、こちらでも再現できるものを。そして出た結論は。

「もう、音楽とラノベで良くない?」

「ああ、確かに」


 そして機械には私が書いたラノベ(研究所で数日間に渡って書いた。楽しかった)と、苺の歌を録音した魔力結晶(何かそういう技術があるらしい)を入れることにした。苺が頑張って配下の魔物に作らせた日本刀と手裏剣は捨てた。申し訳ないけど。


「では発動する!」


 満を持してクオリアが装置のスイッチを押す。すると中の魔石が魔力に変換され、魔力っぽい緑色の光の粒子がラノベと結晶からあふれ出す。

「見るといい」


 クオリアが窓を開けると、研究所の上にあるアンテナのような形状の機械から緑色の粒子が空を覆わんばかりに拡散される。空が淡い緑色に染まっていき、その様子は少し幻想的ですらあった。私は見たことないけどオーロラに似ているのかもしれない。


「どうだ?」

「きれい」

「きれいだね」

「君たち、この大魔術を見てそんな子供みたいな感想を……」

 クオリアが頭を抱えるが、セラはセラであまりに凄すぎるからか絶句していた。

「よく分からないけど、これで成功?」

「そうだ。君たちの世界とこの世界はかなり接近しているはず」

「じゃあセラ、出番だよ。召喚しよう」

「召喚、は、そうだ、それだわ」


 セラはあたふたと床に魔法陣を描き始める。研究室の床にいきなり魔法陣を描かれたクオリアだったが、特に気分を害する様子もなくその様子を見守る。

「いやあ、異世界召喚魔術がこの眼で見られるとは。研究を続けてきた甲斐があったな」

 やっぱこいつら頭おかしいな。


 小一時間もして、セラが床一杯に広がる複雑な幾何学模様を描き終える。私と苺はすっかり部屋の隅に追いやられてしまっている。

「ふう、これで準備は整ったわ。みんな、心の準備はいい?」

「うん」「ああ」

 私たちが答える。するとセラは魔法陣の中心に立って目をつぶった。

「我が命に応えて出でよ異世界からの者!」


 するとセラの目の前の模様がパーッと光り、ライトアップされたステージのように光に包まれて模様の中から一人の男が現れる。

「すごいわ……ついに私、召喚したわ」

「これが異世界人か。興味深い」

 二人が感動しているところ悪いが、召喚されたのはどう見ても部屋着の引きこもりオタクである。冴えなさそうな顔色にやぼったい眼鏡、無精ひげを生やしている。年齢的に大学生ぐらいだろうか。

 まあ、ラノベと音楽に近い人を召喚したらこうなるよね。でもセラは私に近い人を召喚するって言ってたしなあ……これはちょっと嫌だなあ。でも私も他人から見たらこんな感じになるのかなあ。


「え、何これ何これ。俺、もしかして異世界に召喚されてる!?」

 理解早いなおい。さすがラノベ英才教育を受けているオタクは違う。

「うん。ようこそ異世界へ。あなたは魔王に選ばれたの」

「やったああああ! 何か女の子いっぱいいるし、これで俺もチーレム満喫できるぜ!」」

 さすがラノベ英才教育を受けているなあ。

(ねえ、召喚された人って何か特殊な能力持ってるの?)

 私は小声でセラに尋ねる。

(知らないわそんなの。向こうの世界にはそもそも魔力が存在しないから、召喚してこちらの世界に同調する過程で一部の人は魔力があったことになると思うけれど。まああなたたち二人は教会の儀式で召喚されたから特別な能力が付与されたんじゃないかしら)


「ああ……その、言いづらいんだけどチートを持っているかは分からないから。とりあえず何か魔法使おうと思ってみて」

「よし、これはあれだな、試しに使ってみたつもりが、思わぬ大魔法を使ってしまって驚かれるパターンだな」

 なろうテンプレに詳しいのはいいが、多分なろう主人公はそんなことは言わない。自分でそういうことを言い出すのは逆のフラグである。


 男は手を前に伸ばして「ファイアーボール」「アイススピア」など技名を唱えているが、何も出ない。ていうか室内でそんなもの使おうとするな。

「何も使えないんだけど……異世界に来て何も力ないってそんなことある?」

(セラ、この人って私みたいに魔法使えないけどすごい魔力持ってるってことある?)

(いや、そういうの全く感じない)

 どんどん私は気まずくなっていくが、正直魔法が使えない上に魔力も全くないでは魔王にはなれない。


「うん……力使えないし帰っていいよ」

「そ、そんな! 夢にまでチーレムが! 分かった、せめてチートがないとしてもみんな俺のこと好きだったりしない?」

 男はすがるような目で一同を見回す。確かにクオリアを除けばセラはきれいだし苺は可愛いし、私も美人(自己評価)なのでハーレムと言えなくもない。クオリアも目が三つあってもそういう対象に見れるなら美人と言えなくもない。


 だが、残念ながらみんな気まずそうに顔を見合わせるばかりで、セラが帰還魔法を唱え始める。

「そんな!」

 男は悲痛な声を上げて元の世界へ戻っていった。

「……これは前途多難ね」

 皆疲れたようにうなずいた。

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