第54話 和睦

 私はエリアに対して長い長い旅の話をした。エリアは時に驚きながら、時に怒りながら、時に悲しみながら私の話を聞いてくれた。

「……という訳で今に至るの」

「なるほど……でもそれを聞くとちょっと悲しいです。幸乃さんはこの世界の人間に味方してはくれないんですね」


 エリアは少し寂しそうに言った。私は世界全体に対して最善(だと私が思っている)の選択をしようとしているけど、それは誰の味方をする訳でもないということでもある。

「ごめん、私にとってこの世界の誰を救って誰を救わないかを選ぶことは出来ない」

「でも、人間の多くは魔物との戦いは望んでいないですよ」

「……それはごめん」


 本音を言えば、人間は魔物がいなくなれば人間同士で内輪もめをするじゃん、という気持ちはある。でもそれをエリアに言うのはかなり失礼だと思う。それに、じゃあ人間が内輪揉めをしない生き物だったら魔物を滅ぼしていたかと言われると何とも言えないところがある。だから私には謝ることしか出来ない。


「でもまあ、幸乃さんのおかげで魔王はいなくなったし、過激派魔物陣営も弱体化しました。それは素直にありがたいとは思います」

「うん」

 私は言葉少なに頷くことしか出来ない。


「分かりました。何にせよ、言えることは一つです。今回の出征ではとりあえず過激派魔物陣営とのみ戦います。その後のことは今のところは何とも」

「いいよ別に。その後のことは時間をかけて話し合えばいいし、あんまり遠い未来のことを話し合っても意味はないし。ただ、私の陣営と人間の陣営で時々話し合いを持ってくれれば」

「分かりました。ただ、教会の偉い人はもし過激派魔物陣営を討伐出来れば次は、てなるとは思いますけどね」

 エリアは少し悲しそうに目を伏せる。まあそうだろう。穏健派と言えば聞こえはいいが、魔物の中で穏健派というだけであって、人間社会では犯罪とされるやばいことを行っている者も多数いる。それに人間社会で罪を犯してもこちらに逃げてこればOKみたいな風潮にならないとも言えない。


「いいよ。とりあえず、戦い頑張って」

「はい」

 こうして第一回の会談では今回の戦争では不戦ということと、定期的に会合を持つということだけが決まった。


「……ここからは個人的な話ですが、幸乃さんはもう元の世界には帰らないんですか?」

「元の世界か……でも私が帰ったら三勢力並立計画はおしまいだし……」

「まあそれはそうですね、すみません」

 エリアは申し訳なさそうに謝る。無理なことを言ってしまったと気づく。こうして私たちは仲がいいとも悪いとも言えない微妙な関係のまま別れた。エリアは教会が勝手に私を召喚したことに対する負い目があり、私は勝手に抜け出したことに対する負い目がある。だからお互い心をさらけ出すような関係にはなれないのだろう。


 その後人間陣営は新魔王軍(バルゴルが魔王を名乗ったので以後そう呼ぶ)を攻撃。当初は態勢が整っていなかった新魔王軍はかなり押されたものの、バルゴルが人間側の将を討ち、武勇を見せつけると展開が変わる。魔物たちもバルゴルの言うことを聞き始め、盛り返した。最終的に人間は新魔王軍領地付近に砦を築き、撤退した。戦況的には引き分けだが、砦を築いて地の利を手に入れた人間側の勝利とも、バルゴルの新魔王としての権威を確立した新魔王軍の勝利とも言われる。

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