第53話 会談

 私とセラが魔王城に戻ると、苺がセラを指さして驚きの声を上げた。

「あああああ! 私の城を壊した奴だ!」

「私の城ってことは……もしかしてこの人が元魔王?」

 セラはセラで信じられない、という様子で私に確認を求める。

「うん」

「まあでも言われてみれば幸乃も魔王だし、そんなに変わらないわ」

 社長だったときは威張りくさっていた人が退職したら急に普通のおじさんになるというのと同じかもしれない。


「そういうものだって。それで幸乃、向こうが会談OKだって。なんかエルマータっていうところで会おうって書いてある」

 エルマータというのは魔王領にある村の一つである。確か比較的普通の人間が住んでいるからそこに人間の軍勢が駐留しているのかもしれない。

「書いてある?」

「いや、会いに行くの面倒、いや危険だから手紙だけ……」

 ちょっとだけ苺はバツが悪そうになる。まあ会談の約束が取り付けられたならいいけど、これで失敗してたらちょっと怒ったかもしれない。


「じゃあ苺、留守はよろしく」

「え」

「じゃあ会談についてくる?」

「……留守守っとくよ。何を守ったらいいのか分からないけど」

 確かに、今の私に魔王城を襲われて困ることは一つもない。強いて言えば威信的なものがなくなることだろうか。でもすでにぼろぼろだしな。いや、一つだけ重要なことがあるか。


「もし私が帰ってこなかったら魔王再登板だから」

「え“」

 苺はそんな馬鹿な、という顔になる。

「孝謙称徳帝みたいなものだって」

「そんな日本人にしか分からないこと言われても……私まじめにやらないから。それが嫌なら生きて帰って来てよ?」

「はいはい、せいぜい努力するよ」

 おそらくそれが苺なりのエールだったのだろう、と勝手に解釈して私は少しだけ温かい気持ちになった。



 そんな訳で私とセラはエルマータに向かった。魔王のマントというものは人間にも効力は絶大なのか、私たちが視界に入っただけで人間陣営は色めき立つ。村の外側にみるみるうちに武装した人間たちが集まってくる。私もセラも見た目はただの人間なのに。

「あれが魔王か」

「あれならワンチャンやれるんじゃないか」

「いや、人型の魔物が一番魔力が強いらしい」

「でも二人きりのうちにやった方が……」


 人間側から物騒な声が聞こえてくるが私は構わず歩いていく。実際のところ見た感じこいつらは精鋭の聖騎士団だから私とセラの二人きりが相手なら勝てるんじゃないだろうか。


「静まりなさい」

 不意に人間たちの中から鋭い声が飛んで人間たちが静まる。そして人間たちが二つにぱっかり割れて出てきた指揮官らしき聖騎士の若い女は……エリアだった。そう言えば若手ホープだったとか言ってたな。

 苺とは逆に、可愛らしい少女だったような気がするエリアは凛々しい聖騎士へと成長を遂げていた。

 私はまたまたなつかしさに襲われる。最近なつかしさに襲われてばかりだな。


「エリア……随分出世したね」

 エリアは聖騎士の中でも立派な鎧を着て立派な剣を佩いており、肩には勲章らしきものもつけている。とはいえ雰囲気が変わっただけで中身は最初に会った時のままだ。お人好しで純粋で、そして私に裏切られてちょっと傷ついたエリア。

「幸乃さん?……幸乃さんの方が大出世ですよ」

 言われてみればそうか。ただの旅人と魔王ではえらい違いだ。エリアは私を見てえらく驚いた顔をしている。

「しかしなんだって魔王に?」

「その話をすると長くなるから、ちょっとあのギャラリーから離れよっか」

「はい」

 エリアは戸惑っているものの、私への信用はまだ残っているのか、村にいる騎士団から距離を置くのに同意してくれた。


 私とエリアが十分に村から離れると私は口を開く。セラは一応村に残る人間側の軍勢の監視のため、少し離れたところで待機していた。

「じゃあ話そうか。私がどうしてこうなったかを」

 ミルガウス邸で自分に起こったことを書き起こしたのは良かったかもしれない。私は自分の体験をある程度整理してエリアに話すことが出来た。

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