第50話 再会

 さて、穏健派魔王となった私の最初の仕事は人間の軍勢に状況を伝えることである。

「とはいえいきなり行って万一殺されたりしても嫌だしな」

 とはいえ、今の私に人間の元に出向いて無事そうな人間の知り合いは……私は無言で苺の方を向く。

「えぇ……一応私先々代なんだけど。今更教会の人と会うの気まずすぎるんだけど」

 苺はあからさまに嫌そうな顔をする。まあ、ずっとこの問題にあまり関わりたくなさそうな態度醸し出してるし。

「大丈夫だって、きっと苺の知り合いは皆寿命だよ」

「そうだけど……分かった、要は会談の提案を伝えればいいんだよね?」

「うん」


 苺も行ってしまったので、私は一人になる。冷静に考えると、会談の返事が来るまでには時間がかかるだろう。それが数時間なのか数日なのかは分からないが。

 それならとりあえずミルガウスに会いにいくか。苺も魔王として特に何かしていた訳ではなかったらしいし、私も何をしていいかよく分からないので好きにすることにした。


 城を出てだいぶ前に行ったミルガウスの家に行くと、家は前に来たときと同じようにそこにあって私は安心する。このところ色々衝撃的なことがあったので、変わらないミルガウスの家を見るとほっとする。

「そう言えばここ、うかつに入ると魔法が作動するんだっけ」

 前に来たときはセラが魔力でドア脇の鈴を鳴らしてたっけ。私はせっかく苺に教わった技を使いたくなったので、魔力の塊を鈴を狙って飛ばしてみる。

「えい!」


バコオオオオオオオオオオオオン!!


 次の瞬間、飛び出した魔力の塊がミルガウス邸のドア脇に命中し爆発させた。煙が舞い上がり、屋根が傾く。

「何者!」

 ミルガウスの声とともに魔力の塊が飛んでくる。私は苺に教わった方法でバリアを張る。といっても、魔力の塊を自分の前に展開するだけだが。飛んできた魔力と私が展開した魔力が相殺してはじけ飛ぶ。こういう基本的な魔法の使い方を教えてもらったのは本当に安心できる。もし魔法が使えなければ今ので死んでた訳だし。

「ごめんごめん、ちょっと魔力の調整が出来なくて」

「あ、当代さんじゃん。おひさ~」

 現れたミルガウスは家を壊されたというのに、私の顔を見ると笑顔で手を振ってくれる。まあ彼女にとって家なんてどうでもいいのだろう。


「そう言えば魔王になったんだって? 世の中何が起こるか分からないね」

「私もまさか魔王になるとは思ってなかったけど」

 ミルガウスがぱちんと指を鳴らすと周辺にかかっていた魔法の仕掛けが解ける。私はそれを確認してから歩いていく。

「そうそう、セラもここにいるよ」

 私が家の中に入ると、そこには部屋の隅で縮こまっているセラの姿があった。

「驚かせないで欲しいわ。てっきり、ついに追手が差し向けられたのかと」

「そっか、あの後ここに隠れてたんだね」

「ええ。ここならおそらく誰も来ないから」

 セラとは魔王城で壮絶な戦いをした末、目標を達することもなく私たちは逃亡した(私は逃亡というか倒れていたところを拾われただけ)。魔王軍七人衆として威風堂々としていたセラだったが、今は逃亡生活のせいか、少し委縮して見える。

「でも、せっかく来てくれたんだし色々お話聞かせてよ。あ、あと魔導書の件はごめん。次はもう少し魔術強度が高いのを作るよ」

 そう言ってミルガウスはお茶とお菓子を出してくれた。そこで私はセラと別れてからここに至るまでの状況を話し始める。

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