第48話 魔王
苺曰く、別に魔物たちも魔王と個人的な主従関係にある訳ではないので魔王が代わろうが恐らく気にしないという。人間社会における主君と騎士のような関係ではなく、どちらかというと会社の上司と部下のようなドライな関係だという。
「じゃあ魔物は何で魔王を識別してるの?」
「これ」
そう言って苺は破れた黒いローブを渡す。シアの魔法で傷ついているが、魔法耐性を高める作用があったらしい。私は面倒なので制服の上からそれを羽織る。それにこれからすることを考えると異世界人が魔王であることが知れ渡った方が都合がいいということもあった。
ちなみに苺は「もう黒いローブは嫌だ。おしゃれな服が着たい」とピンクを基調にしたフリフリがふんだんについた甘ロリ風のワンピースを身に纏っていた。え、私? 私は課外学習とかで私服OKなときでも面倒なので制服を着ていく派だけど。
さて、魔王となった私は颯爽と魔王城に凱旋した。といっても、私たちが壊したところはそのままだったが。本当はセラやミルガウスたちと再会を喜び合ったが、そんな間もなく私たちが戻ってくると魔王軍の重鎮が続々と集まって来た。
そんな訳で、帰るなり私は魔王城大広間の玉座に座らされ、両脇にシアと苺を従える。その私たちの前に様々な姿かたちの魔物や人間がずらりと並ぶ。残念ながらその中に見知った顔はいない。まあ、私たちが会ったのってあんまり群れなさそうな人たちばかりだったから仕方ないね。
「まずは先代魔王を討って新しく魔王になったことを挨拶させていただく」
そう言って私はショックの魔法を放ち、近くにあった櫓らしきものを粉砕する。ただの初級魔法なのに私の威力だと堅牢な石造の建造物でも軽々と壊せるのはすごい。ちなみにこの挨拶は苺の入れ知恵であり私の趣味ではない。魔物たちは力を示さないと従わないという。魔物たちは恐れおののく物もいれば、まあこんなものかという態度の者たちもいた。
「陛下、早速だが愚かにも人間がこちらに軍を進めている。奴らを皆殺しにして力を示して欲しい」
いきなり立ち上がって発言したのがフルプレートアーマーで武装し二メートルほどの棍棒を持った三メートルほどのトロールである。彼は魔王軍四天王“武のゴルド”というらしい。
「そうだそうだ!」「人間を殺せ!」
ゴルドに続いて一部の魔物から喝采が上がる。
「そうです、とりあえず一度は力を示しましょう」
「いや、あなたには私の方針を説明したでしょ」
気が付くとシアまでが同調している。
「……でも一戦ぐらいなら」
「だめだって。皆の者、聞いて欲しい。私が人間の軍勢を追い返すから、戦端は開かないで欲しい」
「……そんな、陛下ともあろう方が臆されたのか!」
「そうだそうだ、我らなら人間ごとき、指先でひねりつぶしてくれる」
当然一部の魔物からは異論がある。事前に苺から聞いたところによると、肉食の魔物は野生動物だけではなく人間も襲わないと食べていけない者たちが多数いるとのことだった。当然、それ以外にもシアのような単に好戦的なだけの者もかなりいるが。苺はそこを統率せず、戦いたい者には人間との戦闘を許可していたらしい。そういう連中を粛正するという選択肢を除けば、彼らを人間と戦わせて他の魔物たちの安全を確保するというのはありえなくはない選択だった。
私はこの場に来るまでに考えていた。一体どうするのが最善なのかと。人間にとって最善なのは、主戦派の魔物を粛清して、穏健派の魔物だけの王国を作り細々と生きていくこと。いや、穏健派って言うと聞こえはいいけど、単に人間を攻めない範囲で自分の好き勝手してる魔物ね。ただ、主戦派の魔物を粛清したら穏健派の魔物もやがて人間に滅ぼされるのでは、という問題がある。
それに主戦派魔物だからといってただの異世界人である私が粛清するのはどうなのだろうか。まあ、人間に害をなす動物を駆除するのと一緒なんだろうけど、一応彼らの一派であるドルヴァルゴア神官と親しくなったりしてしまうと、ちょっとそこまで簡単には割り切れない。
粛清しないまでも力で押さえつけて平和を保つという方法もある。ただ、やっぱり人間から略奪しないと飢える魔物はいるだろうし、反乱を招けば粛清とそんなに変わらない結末になる気がする。
じゃあ、人間と魔物が争って勝手に死んでいくのはどうなのか。出来れば誰も死なないで欲しいとは思うけど、どこか仕方がないと思う自分もいる。そもそも私がこの世界に来なかったとしたら、おそらく全面戦争になっていたし。人間側にはそうじゃない人がいるけど、争いを求める者同士で争い合うのは私にはどうすることも出来ないし、本来部外者である私が強引に止めるべきことでもない。
となると人間には悪いけど、仕方ない。
「どうしても人間との停戦に納得いかないという者は立つがいい」
私の言葉に、即座に場の三分の一ほどの魔物が立ち上がった。座っている中にも、どうしようかきょろきょろ周りをうかがったり、迷ったりしている者もいる。ちなみにシアは中腰で私を見つめ、苺は野次馬のようにニヤニヤしながらこちらを見ている。まあ、もはやほぼ部外者だからね。
「その者たちに告ぐ……」
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