第47話 変わった景色

 私は目を覚ますとまだ頭がずきずきと鈍く痛んだ。周りに広がっているのは最後に魔王改め森咲さんと戦ったあの山奥だ。

「うぅ……」

 体を起こすと脇には森咲さんとシアが座っていた。

「大丈夫でしたか!?」

「うん、大丈夫みたい……」

 一応体に異常はなさそうだし、頭痛も少しずつ薄れていく。目も見えるし、こうなった経緯も思い出せる。

「あれ……私よりシアの方こそ大丈夫だった?」

「はい、魔王も単に動きを封じるだけの魔法をかけてたみたいで。むしろお役に立てずすみませんでした……」

「いやいや、これは日本人の問題だから」


 というか、こうなってくると森咲さんの方が気になる。これで彼女が更生していなかったら私の努力が水の泡になってしまう。

 ただ、と私は思う。何で私はあそこまで森咲さんを止めたんだろう。そりゃ現代社会に魔王軍が攻めて来るのは困るけど、彼女と交渉して私や家族の安全を保障してもらう方が確実だったのではないか。いや、そうか、確か私は森咲さんの好きなバンドの曲だけを残したかったのか。


「森咲さん?」

「あーあ、私何でこんなことしようと思ってたんだろう、今思うとバカみたい」

 森咲さんはそう言って地面に寝そべった。

「もう現代に復讐する気はない?」

「うん、そんなことしてどうにかなることでもないし」

「良かった」

 とりあえず私は安堵する。


「そう言えば今川さんは本当に魔王になるの? 私もう魔王とかやり続ける気力ないけど」

 そうか、魔王をやっていたのは現代への転移手段を探すとか軍勢を確保するとか色々目標があったからだった。もちろんこの世界の魔王領でしか生きていけない人を護るとかもあったんだろうけど、彼女にとってそれはサブ目標だったらしい。まあ、人はそんなに聖人じゃないし私にそれを非難する気はない。

「うん、何か別に帰らなくていいかなって」

「え……それは嬉しいと言えば嬉しいですけど、いいんですか? あんなに帰りたそうだったのに」

 シアが戸惑う。

「うん、もういいかなって。別にあっちの世界にそんなに思い入れなかったし。ただの陰キャだったし。それならこっちの世界で皆を助ける方がいいと思うんだよね」

「陰キャ……が何かは分かりませんが……そうですか」


 シアはどことなく寂しそうな顔をする。そうか、記憶を失うまでの私はそんなに元の世界に帰りたかったのか。今となってはよく分からない。成績はちょっと良かったけど、友達もそんなにおらず休み時間もいつも図書室にこもってたし。趣味もラノベ読んでアニメ見て動画見るぐらいだったというのに。それでもなぜか少しだけ胸が痛んだ。家族ともう会えないからだろうか。うーん、時々里帰りとかはしてもいいかもしれない。


「分かった。まあ、魔王を引き継いでくれるならそのサポートぐらいはするよ」

「うん、お願い」

 そして私は山奥で森咲さんから魔法を教わった。代償を支払うことなく使える基本的な魔法である。付け焼刃の魔法ではあったが、私たちの持っている魔力量がでたらめに高いため、それだけで十分強いということだった。それに純粋な戦力だけで言えば、シア一人いれば大抵の魔物には勝てるとのことらしい。もうシアが魔王をやればいいじゃんと思わなくもなかったが、なんかすぐに人間と全面戦争を始めそうなのでやめた。彼女は戦闘行為を善だと思い込んでいるので人を率いる立場には立って欲しくない。いい娘ではあるんだけど。

 魔法のことをゼロから学んだ森咲さんの説明は私にも理解できるものであったため、私も順調に魔法を覚えていった。


「そう言えば森咲さんはこれからどうするの?」

「どうしようかな。しばらくは今川さんについていくよ。魔王なんて急に出来るものじゃないし。で、その傍らで楽器の練習でもしようかなって」

「楽器?」

 確かにこの世界にも似たようなものはある。

「うん、魔王だったときはどうせ全部消えるからって思ってたけど。せっかく今川さんのおかげで二曲だけ失わなくてすんだから。それを形にしたいなって」

「そ、そう」

 自己満足かもしれないが、私が残そうとしたものは無駄ではなかったと知って嬉しくなる。

「……それとさ、今川さんのこと幸乃って呼んでいい?」

「うん」

 普段下の名前で呼ばれるとびっくりしてしまうことが多いが、このときはなぜかしっくりきた。

「じゃあ……幸乃」

「……苺」

 こうして私たち三人は魔王と側近二人として山を降りることにしたのだった。クオリアは「話が違くない?」と言っていたが落ち着いたら苺を現代に帰そうと思っていた私は少し待ってもらうことで合意した。そしたら「まあ一年ぐらいいいよ」と言われたのでこいつもタイムスパンが長い系の種族なのだろう。

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