第45話 決戦 Ⅲ

 魔王も私が大魔法を使ったことを察した魔王もおそらく代償を切ったのだろう、雰囲気が急変する。体中から魔力がほとばしり、空は暗くなり稲妻が走る。


「エターナルダークワールド」


 魔王が使用した魔法の威力はおそらく莫大であった。周囲の世界が一瞬にして闇に染まり、その世界の中に私と魔王だけが存在している。私の魔法は魔王が創り出した世界の中で霧散した。現代への未練がないなどというから大した代償も残っていないものかと思っていたが、こんな大技が残っているなんて反則じゃん、と思う。

「冥土の土産に教えて欲しいんだけど」

「何?」

 魔王は自分の魔法の効果に満足しながら答える。ちなみにこの闇の世界はどんな効果があるのだろうか。

「あなたは何を代償に魔法を行使してるの?」

「……いいこと聞くのね。私、現代で好きなバンドがあったの。それで、魔法を一回使うごとに一曲ずつ記憶を忘れていく訳」

 なるほど、それじゃ私と数が違うはずだ。バンドなら二~三十曲出していてもおかしくはない。まあ、元から私たちが対等の強さの存在とは言われていないが。


「ちなみに、あと何曲覚えてるの?」

「それは手の内を晒すことになるからさすがに言えないかな。ねえ、取引しようよ。もしここから闇属性魔法を使わないで負けてくれるなら、命まではとらない」

 魔王はここまでの遊ぶような口調とは離れ、真面目な口調で言った。

「私相手にこれ以上代償を使いたくないから節約したいって訳だ」

「そう」

 魔王は頷く。私は考える。仮にここで負けるとしても魔王の代償を消耗させておく方がいいのだろうか。もしかしたら教会か誰かが魔王を討伐してくれるかもしれない。だが、もし代償を完全に使い切ってしまった魔王は現代への愛着を完全に失ってしまうのではないか。それならなおのこと私はここで降伏すべきか。


 いや。

「逆にこっちからも提案があるんだけど。次に私が最強の攻撃を放つ。だからそれを素直に受けてくれないかな」

 私の提案に魔王の表情が変わる。

「そんなに大量の代償が残っているってことか」

「知ってるよね? 私こっちに来てから全然魔法は使ってないし、ここまで代償を使うのもかなり渋ってきた。一体何発分残っているやら」


「……」

 魔王は思い至ることがあるのか、沈黙する。そう、魔王にとって代償はバンドの曲数分あることになっている。だとすれば私が大量に代償を残していると思っても不思議ではない。それこそ魔王が残しているよりも。

「ねえ、あなたの代償は何? ここまで頑なに使わなかったってことは相当大事なものだと思うんだけど」

「私の好きな作家が書いたライトノベルだけど」

 数が多く見えるように、それでいて嘘に聞こえないように答えておく。

「……なるほど。それなら私に降参してくれたらその作家の安全は保障するけど」

「残念だけど、読者がいないと続巻は出ないんだよね」


「そうか。でもいいの? ここであなたがその代償を使えば元の世界を救ったとしても、おそらくあなたはその作品を楽しめなくなる。そもそも、魔王になれば帰ることすら出来ない。それなら救う意味なんてある?」

「自分と関係なければどうなってもいいと?」

「どうなってもいいとまでは言わないけどそこまでして救う価値はある?」

「それが本当に大事なら、ね」

 私の言葉に魔王の顔色が変わる。


「そう、あなたは本当に大切なものを今も持っている訳だ。そういうところ、嫌いだな」

「どういうこと? あなたもそのバンドのこと好きなんでしょ? そうじゃなかったらこんな魔法使えないはず」

 魔法の威力の大きさからは彼女の思い入れの大きさが伝わってくる。すると魔王は顔をゆがめた。

「私が好きなバンドのボーカルは自殺した。聞くところによると事務所の社長にセクハラを受けていたらしい。だから私は現代で何も大切なものはない。むしろあの人を自殺に追い込んだ世界を許さない」


 あまり細かく聞いても教えてもらえないだろうけど、何か辛い目に遭っていた彼女はそのバンドの曲に救われて生きていたんだろう。そんなときにそのボーカルが自殺したとなれば、その悲しみは察してあまりある。小説家を目指している私だけど文章では表せないかもしれない。


 そんな彼女に対して私に出来ることがあるとすれば。

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