第40話 正体

 そこで私はミルガウスから聞いた話を思い出す。確か先代は力にとりつかれて皇帝になったんだったか。皇帝ほどの人物なら死んだ振りをして失踪することも出来るかもしれない。そして先々代に至っては魔王を倒した後に失踪していたという。伝聞だから何ともだけど、どちらとも手に入れた力が惜しくなってこの世界に留まり、力を保持したまま帰ろうとした可能性もある。


「ねえ、私その人に会いたいんだけど」

 私は恐る恐る口にした。ドッペルゲンガーじゃないんだから出会っても死ぬことはないんだろうが、何となく正体を知ってはいけないような気がして私はドキドキする。


「いいんじゃないか」

「え?」

 が、私の緊張とは裏腹にクオリアの言葉は素っ気なかった。

「ここで待っていればそのうち来るだろう。あなたも急に私の実験に協力するか決めるのは難しいだろうし、考えがてら滞在していっては?」

「で、ではお言葉に甘えて」

 クオリア、人間ですらないけど意外と常識的な提案するな。私はそう思った。


 そんな訳で私たちは応接間に泊まらせてもらうことにした。なぜならこの施設にはクオリアの寝室以外に泊まるところはないし、もっと言えばクオリア自身も研究所で机に突っ伏して寝ていることが多かった。むしろ一周回ってクオリアの寝室を貸すともいわれたがさすがに辞退した。野宿になれつつあった私は屋根があるだけでもありがたい。


「そう言えばこの金属って何の金属なんですか?」

 滞在中のある日、シアが尋ねた。

「この辺りの山でとれる金属で、私はシルクライトと呼んでいる。軽くて物理的な耐久力はそんなに強くないが、ほとんどの魔力を通さない魔法耐久力においては優れた素材でね。もし幸乃氏か正体不明氏に魔力を込めてもらえるなら、シルクライトの筒になるだろう」

「じゃあ研究所は魔法を撃ちこまれても大丈夫なんですか?」

「まあ、大概の相手なら……」

 そこでいつも淡々としているクオリアの顔色が変わる。

「お前、まさか試し撃ちしてみるつもりじゃないだろうな。そんなことしたら異世界に射出してやるからな」

「いやいや、まさかそんな」

 そう言いつつシアは冷や汗を流していたという。ちなみに私も後でその話を聞いて冷や汗を流した。シアならその金属の魔法耐性も撃ち抜いて施設を破壊しかねない。まあ、この施設壊した方がいいんじゃないかっていう気持ちも大分あるけど。


 そんな平和な日が続く中、運命の日は突然にやってきた。シアは研究所の外で魔物狩り、私は趣味のラノベ執筆、クオリアはいつも通り研究といういつも通りのルーチンをこなしていると。突然私の背中をこんこんとクオリアにつつかれる。


「ひゃうんっ」

 執筆に集中していた私は思わず変な声を出してしまう。

「来た。あなたの待ち人が」

「ついに来たか……」

 私はその辺で兎の魔物を虐殺していたシアを発見すると慌てて連れていく。そして私たち三人はその人物と対面した。

 クオリアの言う通りフードとローブで体を隠している。何の変哲もない外見なのに私の全身を緊張が駆け巡る。シアも警戒を強めている様子だ。

「やあ、しばらくぶりだな」

 そんな中、唯一平常心で気さくにあいさつするクオリア。

「ふーん、しばらく空けている間にお客さん、しかも日本人が来るなんて」


 彼女は日本語でつぶやいた。

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