第21話 先々代
「うーん、これも話にしか聞いてないけどね。確か先々代はあまり異世界人みたいな感じなかったかな。普通にこちらの世界の人みたいだったかも。普通にこっちの人間とパーティー組んで魔王を倒したらしい。あれ?……でもやっぱり元の世界に帰ったっていう記憶もないな」
「平和に余生を送ったんじゃないの?」
魔王を倒すことが出来たのであれば人間社会では英雄として余生を送れるだろう。元の世界にやり残したことなどがなければ、特にそれに不満があるとは思えないが。
「うーん、でも人間の寿命がいくら短いとはいえ、平和に生きたなら私と生きている期間被ってるはずなんだけどなあ」
リッチーの時間スケールはでかい。
「……そう言えば元の世界に戻りたくはなかったって聞いたけど。そうだ、思い出し
た。魔王を倒した後に忽然と失踪したって聞いた」
「失踪?」
私は首をかしげる。そんな英雄で強者で有名人を攫える人なんているのだろうか。ということは出家的な失踪だろうか。
「うん、自主失踪」
「何でまた」
そんな英雄がなぜ自主失踪するのだろうか。しかも異世界で。
「さあ。案外、全く別人に化けて普通に余生を送ったんじゃない?」
確かに本気を出せばそのくらいのことは出来そうだ。闇属性魔法は人の心や魂に干渉することが出来る。だから例えば、全くの別人と体を入れ替えるなんてことも出来るかもしれない。
「それで当代は何しにここへ?」
多分私が当代と呼ばれるのは人生でこの瞬間だけではなかろうか。
「セラが私を元の世界に帰してくれるっていうから帰されに」
「ふーん、帰りたいんだ」
彼女は意外そうに私を見る。
「いや、普通帰りたいでしょ」
「でも先代は元いた世界ではこんな力なかったって言ってたけど。一億人いる国民の一人にすぎなかったって。それだったらこっちですごい力を持っていた方がいいんじゃない?」
もしかしたら私だけ代償が重かったのだろうか。私がそれを口にするかどうか迷っていると、先にミルガウスが話を続ける。
「まあ、先代も戦っているうちにだんだんなじんできたところはあるけどね。最初の方は元の世界の話とかも結構してたし」
おや? そこで私の中で何かが繋がってくる。戦うということはおそらく魔法を使ったのだろう。魔法を使うと代償として記憶がなくなっていく。私の場合小説だが、先代の場合は現代での別の何かの記憶だろう。
もしそれが大事なものの記憶だとしたら、魔法を使えば使うほど現代への執着がなくなっていくということになる。あれ? これってかなりやばくないだろうか。心に闇があるから闇属性魔法を使うのではなく、魔法を使うから心に闇が出来るのでは?
「……どうしたの?」
ミルガウスの声で私は慌てて我に帰る。
「い、いや、何でもない何でもない。あ、その腕怖いなーって」
私はミルガウスの異形の左腕を指さす。動機は単なる話題そらしだったが、口にしてみると確かに気になる。何でそんなサイクロプスみたいな腕になってるんだ。
「あーこれね。実験に失敗したら何か生えてきて。いい加減邪魔になってきたし処分しとくね」
そしてミルガウスが何かを唱えると腕は一瞬にして燃え上がり、ぶらんとした服の袖だけが残った。やっぱこいつ恐ろしいわ。
が、何にせよミルガウスの腕消失により私が帰りたいか帰りたくないかの話題は流れたようだった。
「ごめん、私のせいで話題それたけど元々セラは用があったんだよね?」
「用があったというか、新しい研究の成果を聞きに来たわ」
「そうそう。それもずっと話したかったんだ。魔導書についてね」
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