第17話 忌み子 Ⅱ

 私は白い少女を取り囲むゴブリンたちの元へ歩み寄る。セラはそんな私を一歩後ろから品定めするかのように眺めている。私は無言で闇の魔力を手の中に集める。周囲の雰囲気が瞬時に暗くなったような感じとともに、私の手の中に黒いもやのようなものが集まってくる。意識してみると何となく魔力のオーラというものが分かってきた。


 突然の珍客の登場にゴブリンたちも手を止めてこちらを向く。ちなみに何事かを仲間内で汚い声でしゃべっているが、私にはよく分からない。ただ、私を指さしたり後ろのセラを指さしたりしていることから戦うかどうかを話し合っているのではないか。もし戦うとなればたとえゴブリンが相手でも魔法を使わなければならない。

 ここは絶対に威圧だけで退けなければ。そんな私の思いのせいか、手の中の魔力はさらに密度をましていき、私を中心とした空間の彩度がどんどん下がっていく。そんな私に向かって棍棒や短剣を構えるゴブリン。それを威圧する私。私の頬を一筋の汗が伝い落ちた。そして。


「〇※▲×!」

 逃げるぞ!とでも叫んだのだろうか。ゴブリンたちは一目散に私に背を向けて走り出した。それを見て私はほっと息を吐く。

「ゴブリン程度蹴散らせばよかったのに。博愛主義のつもり?」

 セラは不思議そうに尋ねる。

「違うって。単に彼女を巻き込んでしまう危険があったから」

 そう言って私は白い少女を指さす。私が迂闊に魔法を使えないことは出来るだけばれたくなかった。今の私の価値はこの魔法だけ。もし秘密がばれてしまえば雑魚魔物に順番に私を襲撃させればそのうち私は敗北するということがばれてしまう。


「それより大丈夫?」

 私は少女に歩み寄る。当然と言えば当然だが、彼女は私のことを恐怖の目で見つめた。

「ひっ、私をどうするつもりですか!?」

「ここは魔物領だから基本的にいい人はいないし、第一闇属性魔術師なんて心に闇を抱えている人しかいないから」

 セラが無慈悲なフォローをする。まあ、何をもって心の闇とするかは人それぞれだけど。

「大丈夫、私はあなたをどうこうする気はない。ただあなたを助けたかっただけ、同じ人間だし」

 正直それくらいしか彼女の警戒心をほどける要素は思いつかなかった。こんなとき、コミュ障じゃなければもっとうまくやれるのだろうか。


「でも、私は忌み子だから」

 そう言って彼女は右手の甲を見せる。そこには何となく禍々しい雰囲気の紋章が刻まれていた。禍々しく感じるのは髑髏に似ているからかもしれない。

「この世界では普通の人間からでも稀に特別な魔力を持った個体が生まれることがあるわ。それが忌み子。高い魔力、脆弱な身体、特殊な見た目などが主要な特徴よ」

「何で疎まれるの?」

 本人の前で聞いてしまうのはデリカシーがなかった、というのは後で気づいたことである。ただ、セラにもそういうものはなかったために彼女は普通に答える。

「人間に大体備わっている社会性が彼ら彼女らにはないからよ。だから、今まで大抵の忌み子は人間社会に害をなしてきた。だから生まれてしまったら、外に捨てられる」

「でも別にセラさんも社会性とかないよね? 忌み子とか関係あるの?」

「あなたもないけどね。本当に魔力の代わりにそういうものを失ったのか、それとも単に奇抜な見た目で周囲にいじめられるから事件を起こすのかは分からないけれど。とにかく忌み子は人間社会に害をなすことが多いらしい」

 なるほど。何となく分からない話でもないが、彼女と同じように社会性がないらしい私としては親近感を覚える。


「まあ、もう人間社会からもおさらばしたんだし社会性なんてなくていいんじゃない?」

「代わりに、ここで生きていくには力が必要なんです」

 彼女は切実な表情で私に訴えてきた。

「でも魔力はたくさんあるんでしょ?」

「私は魔法を勉強する当てがないので」

 私がセラの方を見ると、セラは私が何か口にするより早くに首を横に振る。やっぱ彼女に社会性なんてものはない。


 ちなみに、魔力というのは例えるなら電力のようなものらしい。どんなに電力をたくさん持っていても、家電を持っていなければどうにもならない。魔法を覚えるというのは魔力を自分が望む効果に変換するという意味で、家電を買うのと同じである。当然私も訳が分からないまま召喚されて気が付いたら魔法を覚えていただけなので教え方なんて分からない。     


 が、そこで私はエリアに聞いた信仰魔法のことを思い出す。信仰魔法というのは神への強い信仰の力を使って得られる魔法である。信仰さえすれば使えるようになるので、魔力はあるけど普通の魔法を覚えられないという彼女には向いているのではないだろうか。


「ねえセラさん、なんか力の神みたいなのいない?」

 私の問いに、セラは意図を察したらしく呆れた顔になる。

「いるけど、それ人間から見ると邪神だけれど。そして、私も美しくないから嫌い」

「いいんじゃない? どうせもう人間領にはいないんだし」

 まあ、邪神の信仰に目覚めて強大な力を得て人間領に攻めてこないとも限らないけど。そんな先のことよりは今の彼女を助けてやりたかった。そんな私たちの話を聞いて彼女も意を決したようだった。

「私にその神様のことを教えてください」

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