第5話 異世界(幸乃視点)

 まさか本当に異世界に召喚されてしまうとは。この時の私の気持ちを表すなら、聖地巡礼が近いかもしれない。漫画やアニメの登場人物と同じ場所に自分も立っている。そんな不思議な感慨に私は浸っていた。とはいえ、これがあの異世界召喚なら異世界側の人間がやってくるはずだ。同じクラスの人間ともうまくいかなかったのに、異世界の人間とちゃんと話せるだろうか。


 そんなことを考えていると一人の人間が近づいてきた。白いローブに白いベールを被っており、神官っぽい雰囲気だ。年齢は私と同じぐらいだろうか。異世界だからよく分からないけど、金髪で顔が可愛くて陽キャっぽくて不安になる。話しかけられると、案の定いきなり下の名前で読んできて恐怖する。ただ、すぐにそんなことはどうでもよくなった。どうも私は闇属性の魔法使いらしいのだ。

「はい、あたしたちクリスティア神官は魔王を倒すために闇属性魔法使いを召喚した訳なのですが、聞いてないですか?」


 エリアと名乗った神官は首をかしげる。そんなことは全く聞いてないけど、確かに私が魔法を使えればもう魔法の描写力に困ることはないだろう。そう考えると悪魔は一応私の願いを叶えてくれる意志はあるのか。


「うん、聞いてない」

 問題は私がどうやって闇属性の魔法を使うかということだけど。

私が魔法について意識すると私の脳裏にいくつかの魔法のイメージが浮かぶ。

 例えば、相手を闇の中に幽閉するとか。例えば、相手の心の闇を増幅させるとか。例えば、闇属性の魔力の塊を相手にぶつけるとか。

 頭の中に浮かんだイメージをおおざっぱに分類すると、闇属性の魔力を操ることと、他人の心に干渉することの二種類が出来るらしい。


「うわ、すごい、初めてみた!」

 急にエリアが声をあげるので何事かと思って手元を見てみると、私の手の中に黒い霧のようなものが集まって、サッカーボールぐらいの大きさの球体になっている。私はこれこそが闇属性の魔力であると直感的に理解した。

「なるほど、私にはこんな才能があったのか」

「ところでなんですけど、幸乃さんは本当に魔王を倒す気はあるんですか?」

 そう言えばさっき魔王とか言ってたな。私の意識が魔法からそれると魔力はふっと空気の中に消える。


「え、出来るなら戦いたくないけど。勝てるか分からないし」

 私は思わず正直に答えてしまう。しまった、ここは嘘でもやる気をアピールしておくべきだったか? しかしエリアはさもありなんという表情で頷く。

「ですよね。やっぱり異世界の方に魔王と戦わせるなんて良くないです。戦いはあたしたちがやるので幸乃さんはゆっくりしていてください」

 じゃあわざわざ召喚するなよと思うけど、まあそれはいい。気分転換にはなったし。

「じゃあ帰らせて」

 帰る前に何発か魔法は試し撃ちしていきたい。でもMP的なものがあって無限には試せないのだろうか。そんなことを考えているとエリアの表情がすっと青くなる。おいおい、まさか。

「うーん、それは難しいといいますか、魔王を倒すまで待っていただきたいというか……」

「いやいやいや」

「世界をまたいで人を召喚するとか帰すとかの魔法はあたし程度が軽々しく使えるものではなく、使えるとしたら大司教様ぐらいで」


 なるほど、その大司教という人物が黒幕(?)か。それで彼女は大司教のやり方に納得がいかず、私を戦わせまいとしているのか。

「なるほど、その方はせっかく召喚した私を魔王を倒す前に帰してくれることはないと」

「おそらく」


 エリアは目を背けながら答える。ちなみに私も目を合わせずに話しているので傍から見ると会話しているようには見えないかもしれない。

「私が何もしなくてもすぐ魔王を倒せる?」

「……、はい!」


 少し間が空いた後、エリアはいい返事をした。私抜きで戦うと言っている以上自信はあるんだろうけどすぐ倒せるかは別問題ということだろう。というかそんなに勝算があれば私は召喚されないだろう。となると私がこの世界にいる間、現実世界ではどのくらい時間が経つのかが問題になってくる。もしどれだけこっちにいても向こうで時間が経たないなら問題ないけど……


「キャー!」


 そんな私の思考は遠くから聞こえてきた悲鳴により中断される。悲鳴は遠いのだが、切迫した雰囲気が感じられた。先ほどまで困惑していたエリアの表情がにわかに緊張を帯びる。

「行きます」

 エリアは悲鳴がする方へ走り出す。おそらく一人で戦うということなのだろうが、私も追いかけざるを得ない。こんな何もない草地に一人で取り残されても困る。

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