第七十一話 正義継承
「変身! ≪
重厚な紺色の装甲が、フルフェイスのヘルメット越しに見える。直線的なデザインの装甲には赤色の光るラインがあしらわれており、まるで脈打つように力強くゆっくりと明滅している。
そういえば、僕がこの≪
『「≪塔≫と契約を結んだか……」』
『お前の呼んだ≪契約者≫も全員消えたぜ。これで二対一だ』
とうとう追い詰めた。しかし、ミカエルは余裕の様子だった。
『「全員? 二対一……? 二対六の間違いだろう?」』
『なんだと……』
次の瞬間、近くの廃墟を打ち破って、5人の≪契約者≫が現れた。
≪星≫、≪教皇≫、≪女教皇≫、≪正義≫、そして≪女帝≫。
「恭子さん、かなえ……!」
≪女帝≫がいるということは、ミカエルが≪女帝≫へ放ったという別動隊が契約を行ったということだろう。
『≪星≫の娘どももいやがるのか……!』
『「今≪神々の玩具箱≫に在る最高戦力の全てだ。そして、貴様らには相手取りづらい顔ぶれだろう……ふっふっふ」』
『新士……≪正義≫と≪女帝≫の相手は俺がする。お前は≪星≫の三人組を倒せ』
「え……?」
『「懸命だな。だとして、それで勝てるものとは思えんが」』
『いいな、新士。お前が闘えないと思ってるわけじゃねぇ。だが、ここで負けるわけにもいかない。勝率の高いほう、選べるだろ』
「ルシフェル。ありがとう。でもだったら、これまでアリスの≪
『ん……あぁだが』
「ルシフェル!」
僕は、ルシフェルの≪悪魔≫の角を掴んで、額を打ち付ける。
『痛ぇよ』
「ルシェル、僕のことを心配してくれてありがとう。けど、お前がそんなに優しいの、正直言って気持ち悪い!」
『んだと!』
「僕たちは、そうじゃないだろ! お前はいつだって、僕に冷酷で、現実的な、真実を助言してくれた。嫌味たっぷりに、ムカつくくらいに正直に。僕とお前は、初めのころよりずっとお互いを分かってるし、その……お互いを大事になったと思う。でも、だから!」
ちょっと自分が、涙声になっている気がするのが、恥ずかしい。
「だからこそ、僕にそういう遠慮、するなよ」
『……うぜぇ』
「勝つんだろ! ふたりで! ミカエル倒して、みんなの無念晴らして、人の願いを玩具にするこのクソみたいなゲームを、ぶち壊すんだろ!」
『そうだよ! わかってる! じゃあお前がやれ! 南かなえと鏡恭子を倒せ! ≪星≫三人組なんざ、俺は瞬殺するぞ! 遅れんなよ、クソガキ、いや新士!』
「よし! やってやる! 行くぞ、僕の天使、ルシフェル!」
『「哀れだなルシフェル……堕ちたとはいえ天使が人間とする会話とは思えん。」』
『お前にはわかんねーだろうな。くっく。哀れなのはお前の方だよ』
『「何を馬鹿な」』
『クソミカエル。お前は昔から、理解できないことはにはそう言う。馬鹿なのは、お前だよ』
『「……貴様とかわす言葉などもうない。」』
ミカエルが、手を前に出す。
『「行け、あの二人の愚か者を始末しろ! 私の覇道を妨げる障害を!」』
来た。ルシフェルの方へは≪星≫、≪教皇≫、≪女教皇≫。僕の方へは、≪正義≫を前衛に≪女帝≫が続く。
ルシフェルのほうは、意識から外す。任せる。信じて。僕は目の前の二人に集中するんだ。
「≪
「≪
恭子さん……≪正義≫の手に、純白の直剣が握られる。
僕の手には太く巨大な幅広の剣が握られる。重い。猪神岩司はこんなに重いものを振り回していたのか。
≪裁きの天秤≫と≪雷帝剣≫がぶつかる。しかし、≪裁きの天秤≫は絶対両断の剣。≪雷帝剣≫の刀身へと切り込んでくる。
「くっ……まだ!」
僕は≪雷帝剣≫が完全に両断される前に手首を返す。側面から強い力を受けた二振りの剣は、互いに砕けた。
僕はすかさず、追撃する。≪正義≫へ手を向けて――
「≪
落雷が≪正義≫を襲う。膝をつく≪正義≫。僕は追い打ちをかける。たとえそこにいるのが恭子さんだとして、僕はあのひとと約束したんだ。手を抜かない。怯まない。だから!
「≪
巨大な剣を振り降ろす!
「≪
「なにっ……」
≪雷帝剣≫が蔦に掴まれ、動かすことができない。さらに数本の蔦が僕を捉えようとしたので、剣を手放して後退する。
「≪
さらに、僕が後退したその隙に≪女帝≫が≪正義≫を回復する。いけない、これではいくら攻撃してもキリがない。考えるんだ。≪女帝≫の蔦に捕まらず、回復される前に二人を倒す方法。
それにはもっと、スピードが必要だ。
「≪
僕は、≪塔≫の全身の装甲を素手で引き剥がしてゆく。
禍々しく赤い光が、全身を包む。
だが、これは≪月≫の≪
僕は迫りくる蔦の間をすり抜けながら≪正義≫へ駆け寄る。
≪女帝≫によって回復した≪正義≫も剣を抜く。
「≪
「≪
もう一度、二つの剣が交わる。雷帝剣が切り込まれることはもう、わかっている。だから僕は――
「≪
僕自身に落雷を呼ぶ。それは交わる剣を伝わり、≪正義≫へ伝わる……!
身体をこわばらせる≪正義≫。その刃の進行が止まる。
僕は≪裁きの天秤≫と絡み合ってひとつの塊となった≪雷帝剣≫を手放す。
そして、≪塔≫の堅牢な手刀で≪正義≫の胸を貫いた。
落雷が止み、その余韻で辺りが静かになる。
「恭子さん。僕は、約束を果たしました」
≪正義≫の変身が解ける。
恭子さんの虚ろな瞳に、わずかに光が宿る。微笑んでいるように見える。それは、僕がそう見たいからそう見えたのかも知れないけれど。
ふと、僕は1日前の≪神々の玩具箱≫で恭子さんが言っていたことを思い出す。僕に≪月≫を託したときに、恭子さんが言った言葉。
『できれば≪正義≫も託してやりたかったが、この通り、砕けてしまった……』
僕は、恭子さんの胸を貫くのと逆の手て、恭子さんの指から≪正義≫を抜き取る。
「これ、今度こそ貰います」
「よくやった」
そして、恭子さんは黒い霧に包まれて消えた。
僕は、≪正義≫を右手に嵌める。
「あとは……」
僕は、恭子さんの後ろにいた≪女帝≫――かなえを見た。
『「まて、南かなえ。こっちへ来い」』
と、そこでミカエルがかなえに近づく。かなえは、≪女帝≫の変身を解く。
『「≪塔≫と≪正義≫を持つ片見新士を相手に、≪女帝≫では不足だろう。これを、お前に渡す……」』
そういってミカエルがかなえに渡した指輪。僕がそれを見間違えるはずがなかった。
「……≪太陽≫」
『「そうだ。ふ……はははは! お前の愛する者が、お前の愛するものと契約した≪太陽≫だ! 闘えるか! 片見新士!」』
かなえが、指輪を頭上に掲げる。そして、口を開く。
「……変身。≪
スーツに覆われる直前、かなえの虚ろな瞳がかすかに震えたような気がした。
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