第六十一話 軍団と策略
ミカエルが変身した≪審判≫による≪
そして、≪力≫の≪
契約者たちは、次々に左手を≪アルカナ≫に伸ばす。
触れた者から順に、指輪のデザインが変わっていく。
≪魔術師≫、≪皇帝≫、≪恋人たち≫、≪戦車≫、≪吊るされた男≫、≪節制≫。
進藤憲一だけは、ミカエルから受け取った指輪を右手にはめ、恐竜と化け物の両方に手を伸ばす。そして、≪死≫と≪悪魔≫の指輪を手にした。
皆、かつて契約していた力を取り戻したのだ。
しかしこれによって、二人にまで減っていたプレイヤーの数が、再び十名に逆戻りした。
勝ち残って神になろうとするミカエルにとっても、この状況は望ましくないはず。
やつの狙いは、なんだ……?
『「よし、全員契約したな?」』
そう問うなり、ミカエルは指輪を掲げる。
『「≪
しかし、契約者たちの中でも
「誰だか知らないけど、
「貴様、何か企んでいるな。変身、≪
金色の装飾を纏ったえんじ色のローブ姿の≪魔術師≫と、漆黒の翼、角、尾を持つ≪悪魔≫が、戦闘力のない≪女教皇≫のミカエルへ攻撃を試みる。
「≪
≪魔術師≫の周りに風が渦巻く。
「≪
≪悪魔≫が大鎚を背負う。
しかし。
『「≪
竜巻は消え、大鎚は地面へ取り落とされた。
契約者たちが、沈黙する。
僕も使われたことがある、≪運命の掌握≫。
肉体を完全に支配し、操り人形とするスキルだ。
『「≪魔術師≫に、≪悪魔≫。自ら変身するとは殊勝な心がけだ。お前たちも、戦う用意をするがいい」』
その言葉を受けて、残りの契約者たちも指輪を掲げる。
「変身。 ≪
「変身。 ≪
「変身。 ≪
「変身。 ≪
「変身。 ≪
感情のない、空っぽの変身。
しかし、≪死≫がかつて使った≪
『「あと、契約していないメガネはその辺に座っているがいい……」』
ものすごく真面目な顔をして、座るメガネ。
ミカエルが、アリスの瞳で僕を≪女教皇≫のヴェール越しに睨み付ける。
『「さぁ≪太陽≫、どこまでやれるのだろうな。行け、お前たち! 」』
「な……!?」
そういうことか!
ミカエルの目的は、僕を倒すための手駒を揃えること。
ゲームのプレイヤーを駒としか考えない、ミカエルらしいやり方だ。
命令を受けて、契約者たちが指輪を輝かせる。
「≪
「≪
「≪
「≪
「≪
一斉に武器を手にする契約者たち。
もしも彼らが、自らの意思で戦っているなら。
もしも仲間が、僕に想いを託していなかったら。
もしも僕が、今までの戦いを経験していなかったら。
ここで武器をとることに、悩んだかもしれない。
だけど。
「ミカエルを止めるために、そして、僕の願いのために戦う……! ≪
僕は、既に呼び出していた≪灼熱刀≫を左肩に担ぎ、右手に≪炎熱剣≫を握る。
全身に満ちる≪
「かかって来い……! 僕は、強いぞ!」
ミカエルに操られた契約者たちが、僕の言葉を確かめるように飛びかかる!
まず始めに、僕へ向かってきたの≪節制≫のおじさん。翼による高速移動で、近接攻撃をしかけてくる。
「≪
僕は、その能力を知っている。
触れれば身体の麻痺する電撃だ。
それを、手にした警棒に纏わせる≪節制≫。
僕は、刀身を触れないよう早いタイミングで≪炎熱剣≫を振るう。
≪炎熱剣≫から溢れる炎が、≪節制≫の武器を融解する。
≪灼熱刀≫で追撃しようとするが、≪節制≫は翼で急速に交代する。
次に襲い来るのは、≪恋人たち≫。
≪愛の化身≫で分裂した筋肉質なマゼンタ・ピンクの半身が右から、しなやかなシアン・ブルーの半身が左から迫る。
マゼンタ・ピンクの肩には大剣が担がれ、シアン・ブルーの手には細剣が握られている。
その豪腕の逞しいことや、あの細身がしなやかなことを知っている僕は、左右の刀剣を入れ換えて振り抜く。
マゼンタ・ピンクの凄まじい怪力へ向けた≪灼熱刀≫は、押し合うことなく大剣を両断した。
素早い身のこなしのシアン・ブルーの半身に≪炎熱剣≫は、回避不能の拡散する炎を放った。
武器を失い、炎に包まれた≪恋人たち≫は、互いを庇い合うように後退していく。
「≪
そして入れ替わるように跳躍して来たのは、≪皇帝≫。
頭上から大質量の鉄板のような大剣が振り下ろされる。
僕は、その剣や装甲がどれほど堅牢か知っている。
≪炎熱剣≫で打ち合えば砕けることも、そして、≪灼熱刀≫ならば切り裂けることも。
僕は≪炎熱剣≫を一度地面に突き刺し、両手で握った≪灼熱刀≫を大剣にぶつける。
刀は≪皇帝≫の武器を完全に破壊した。
と、視界の隅で橙色の重機が動くのが見える。
≪戦車≫が、二柱の主砲を僕に向けて構えていた。
轟音とともに、発射される砲弾。
それに対して僕がしたことはとてもシンプルだ。まず、≪灼熱刀≫もまた地面に突き刺し、両手を空ける。
そして、開いた両方の
たったそれだけだ。
過去に食らったことのあるあの砲撃が、≪
確かな衝撃を掌で感じる。
爆煙に包まれ、視界の通らない中で、僕は地面から引き抜いた≪炎熱剣≫と≪灼熱刀≫を、≪戦車≫の居たであろう方向に投げつける。
煙の中にいても、砲身に刀剣が突き刺さり、そして弾頭に誘爆した爆発音が聴こえる。
追撃の手立てを考えていた僕に対して、≪戦車≫を庇うように煙の向こうから突貫してきたのは≪吊るされた男≫だった。
手に握られた≪
武器を持っていなかった僕は、とっさに≪塔≫の戦闘スタイルを思い出す。
振り下ろされる大質量の鉄塊に、僕はハイキックをぶつける。
見よう見まねで放ったその
「≪
「≪
そこで、今度は≪魔術師≫と≪悪魔≫が同時攻撃をしかけてくる。
「≪
僕は、飛来したかまいたちと弾丸よりも速く後退し、それを
次々と襲いかかってくる契約者たちを完全に捌ききり、僕はミカエルを見据える。
彼は腕を組み、契約者たちに加勢するでもなく傍観している。
何かがおかしい。
これだけの戦力を投入して、僕を倒しきれず、なぜあんなに落ち着いていられるんだ?
それに、契約者たちが少しでも倒されそうになったら後ろに下げるあのやり方もミカエルらしくない。
何か、何か意図があるはず……。
と、その時。
≪
「鐘……!」
まさか。
『「言ったろう、もはや手を抜かんと」』
ミカエルが、ゆっくりと言う。
『「私は三度目の≪
そう、僕は今夜変身を解けば、最後の≪三体恒星≫の代償でアマちゃんとの契約が喪失してしまうのだ。
「くっ……! ≪
鐘の音がどんどん大きくなる。
白い粒子に包まれ始め、視界が曖昧になる。
「≪
僕は、直剣を構えて急速に飛翔する。
今夜、勝負を決められなければ……!
届け……!
『「ふん。おい、メガネ」』
僕の剣がミカエルに届く寸前で、彼を庇うように≪隠者≫の契約者だった青年が立ち塞がる。
「なっ!」
そう、契約できていない彼は、生身で立ち塞がったのだ。
力を持たない者を一方的に傷つけること。
それは、たとえやらなければいけないと頭で理解していても、実行するのはひどく難しい。
僕は、剣を振るう手を止めてしまった。
『「貴様ならそうするとわかっていたぞ、片見新士」』
嘲笑するような声。
『「これで明日の夜には力を失ったお前を倒すだけだ。もっとも……手を抜かんと決めたのだから、明日の夜すら迎えさせる気は無いがな……」』
ミカエルがそう言い残すと、僕の全身はついに白い粒子に包まれ、現実世界へ送り返された。
その途中、これまでずっと僕に勇気と力を与えてくれた左手の指輪から、温もりが遠ざかるのを感じた。
『さらばじゃ……! 我が主! じゃが、諦めるな! 絶望するな! お主はひいろおであろう……!』
「アマちゃん……!」
ありがとう、そう伝えたかった。
しかしその声は届かず、僕は現実世界のベッドの上で一人目覚める。
僕の左手には、空っぽになった指輪。右手には、恭子さんに託された≪月≫の指輪。
直後、ケータイの着信音が鳴り響く。
相手は、恭子さん。
『もしもし! 新士君か!?』
「恭子、さん?」
『アリスと連絡が取れないんだ……! もしかしたら、ミカエルに襲われたか、操られたままかもしれない!』
「そんな……! 探しましょう!」
『ああ! 私はひとまずアリスの家と病院をあたる。新士君なかなえ君と合流するんだ。もしかしたら、君や彼女のもとへ現れるかも知れない』
と、その時。
爆発音。
僕の家の一階からだ。
『新士君、今の音は……』
「……僕の家です」
『向かう』
「危険かも――」
と、さらに下の階から。
『「ふん。質素な住居だな」』
『人間の家庭としては、一般的な規模のはずですよ、ミカエル』
『これが一般的なのかい? 美しくはないね』
声。
3人の声。
一人目の声は、間違いなく、アリス。
そして、そのアリスを「ミカエル」と呼んだ人物がいる。
「あら、どなた?」
そして、姉の、姉ちゃんの声。
「姉ちゃん……!」
僕は、ケータイを放り出して一階へと駆け降りた。
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