第十一話 絶体絶命
≪吊るされた男≫と≪隠者≫。そこに≪戦車≫も加わった絶望の中。
「ね、ね~皆さん? アタシも協力するからさ、一緒に≪太陽≫くん、ヤっちゃわない?」
後ろを振り返ると、僕に杖を向けている≪魔術師≫の姿があった。
最悪だった。
「おいおーい、≪魔術師≫よう、そいつぁ叶わねぇ願いだな」
≪吊るされた男≫の契約者が野太い声で言った。
「そいつぁな、お前さんがまだ俺らと対等に戦っていた30秒前までしか使えねぇ裏切りだ。悪いが、今俺たちはそこの≪太陽≫と、古株の≪魔術師≫。両方を倒せるっつーデカい成果を手に入れたんでな。そこでわざわざ古株を長生きさせるメリットは、あんまりにも少ねぇ」
「そ、そんなこと言わないで~、ね? ほら、例えば≪塔≫のガンジ! アイツを倒すのには、アタシのチカラが必要なんじゃな~い?」
「いらんいらん! アレは今の俺らが束になったところで敵わんだろうが。いつかどっかに、アイツを倒せるヤツが現れる。そんで、そいつを俺らが騙し打ちするのを待つだけだ」
「そ、それじゃ、この≪太陽≫くん縛りあげてガンジにぶん投げてみない? この子のアルカナめっちゃ強いし、投げて逃げるだけならアタシたちにはノーリスクじゃない?」
お、鬼だ……。伊波お姉さんの酷過ぎる裏切りには呆れる……。
「いーや、ダメだ! おい≪戦車≫! ふたりまとめてやっちまえ!」
「あいあーい!」
オレンジ色の砲口がこちらを向く。
ここで、終わりか。
「ざっけんなクソジジイ!クソチビ! ≪
≪魔術師≫は口ぎたなく敵を罵ると、 ≪
「のわわー! 何すんのよ!」
狙いが逸れた大砲は、僕にも伊波お姉さんにも当たらずに地面を吹き飛ばした。砂埃があがる。
チャンスだ。
全身が満身創痍だが、力をふり絞って一人でも持っていく……!
人数が対等になれば勝ちの目がまだある。
「≪
砲口の大きさならば≪戦車≫にも負けない。
僕は最も装甲の薄い≪隠者≫に狙いを定め、太陽光を放射した。
「おっと」
が、≪隠者≫はなんと≪戦車≫の肩を掴んで引き寄せ、盾にしたのだ。
「ちょ、あ、ぐううううううううぅぅぅぅ!」
照射される太陽光が、≪戦車≫の全身の装甲を融解させた。黒い粒子をまき散らしている。
だが、ダメだ。装甲が厚すぎて倒し切れていない……!
撃ちきった後の≪陽光砲≫は力なく霧散した。もう一発は、撃つ力が残っていない。スーツの発光体がより一層濁る。
「お゛、お゛まええええ! 何すんのよ゛!」
盾にされた≪戦車≫が、呻く。
盾にした≪隠者≫は、飄々と言う。
「ボクなら死んでた。キミは生きているだろう?」
「な゛に゛を゛……う゛う!」
幼い子供の声とは思えないその呻きが、断たれる。
胸元の薄くなった装甲に、氷の刃が深々と突き刺さる。
「≪
「あーあ、死んじゃったよ」
≪魔術師≫が、杖を構えていた。
≪戦車≫が黒い粒子になって霧散する。
「さぁ、アンタたち、これで2対2ね。3対1にする心の準備はできてる?」
この人は……! この期に及んで相手側につくつもりなのか……!
伊波お姉さんは、さも当然と言いたげな動作でゆっくりと歩いて≪吊るされた男≫と≪隠者≫のところへと向かう。
「まぁ……こうなっちゃあな。お前が死ぬぶん、代わりに≪戦車≫をやれたってことでいいだろう」
「ボクは何でもいいや。とりあずなんか疲れたし、そこのルーキーをとっととやって終わろう。あのビームはやばいよ、ボクやそこのオバさんは喰らったら即死でしょ」
「誰がオバさんよ! まぁ、これで意見がまとまったからよしとしてあげるわ~。じゃ、そういうことだから≪太陽≫くん♡ 観念してね♡」
まだだ、まだ、諦めない。
僕が憧れるヒーローは、諦めないから。
「≪
しかし、指輪は発光せず、何も起こらない。
『すまんのう……ガス欠じゃ……』
「アマ、ちゃん……」
「おーおーどうした、坊主? 燃料切れってとこだなあ? おら!」
≪吊るされた男≫が鎚を横に振り回す。
重厚な鉄の塊が僕の胸に激突し、身体が吹き飛ぶ。
さらに、倒れ込んだ僕の頭に銃弾が直撃。≪隠者≫のスナイパーライフル。
その衝撃で、変身が解除される。
「頑丈だね……。≪塔≫並みじゃない? これはいよいよ殺しとかないと不味そうだ」
「トドメはアタシがやるわ~。じゃあね、≪太陽≫くん。≪
僕を取り囲んだ無数の氷刃が、降り注ぐ。
ここまでか――。
「≪
その時、突如現れた大樹の幹が盾のように僕を包み込んだ。
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