第40話 家で座学。

 魔物図鑑は何巻かに分かれているので、すべてを閲覧机に持ってくる。まあ、デュプリケートでの複製はもう終えたんだけど、セルゲイさんの手前、一応今読む振りはしておく。セルゲイさんが退席したらべ資料室のすての書籍をデュプリケートするつもりだ。


「すみません、この魔物ってどれくらい強いんですか?」


 閲覧室だけどふたりだけなので話してもいいだろう。ペラペラめくっていたらたまたま見つけた図鑑のページを指さして、先日討伐した魔物イノシシについて聞いてみた。


「ん?モンスターボアか。かなり強いぞ。」


 魔物イノシシだった。その巨大さから縄張りは結構広く、少数の群れで生活していて、1匹でも他に居る可能性を考えて、数名の魔法使いを含む15人以上での狩りが推奨だそうだ。攻撃的な性格を利用して分断、そして個別撃破。だから15人いても直絶対峙は10名以内。ようするに10人で寄ってたかって戦って何とか倒せる強さの魔物と言える。まあ、地球ならあれを10人でも無理っぽい。重火器があるなら行けそうだけど。ということは、冒険者というか異世界の人ってかなり強いんだな。


「ありがとうございます。モンスターボアって、高く売れるんです?」


 もちろん時々で値段は変わるが、軽自動車クラスで大金貨1枚で売れるらしい。A5の和牛に比べれば安いだろう。しかし豚1頭の価格としては破格だ。まあ、重量は何倍あるか知らんけど。そしてなんとモンスターボアの魔石が思ったより高かった。先ほどの価格は魔石を除く価格。魔石は単独で大金貨1枚。総計で1頭大金貨2枚だけど、もっと大きいのはオークションで価格が決まるという。肉のほうはおそらく、軽自動車クラスと対比してその価格で、魔石のほうがオークション。


「けっこう出回るんです?」


 と聞くと、軽自動車よりももう一回り小さいものは、そこそこ出回るそうだ。はぐれた子供かな。イノシシは多産だから、成長遅い個体とか体の弱い個体が群から脱落するのかもしれない。あとはパラパラと目を通して、「今日はここまでかな。」と、セルゲイさんに資料室を出ることを伝える。あまり時間をかけると、冒険者のお姉さんも受付のお姉さんも居なくなってしまう。結局他の本の複製はできないままだった。


 資料室を出ると、受付はみんなオッサンになっていて、冒険者のほうもオッサンがまばらに存在していた。僕はとぼとぼと宿に向かい、店員に「しばらく宿には戻らないかも。」と声をかけて、スラム地区にも顔を出し、マキシムさんにも、1週間ほどは来ないことを告げたあと、今回は門番さんに商人ギルド証を提示し「ちょっと買い付けに行ってきます。」と告げて走って街を出る。門番さんは何か言いたげだったけど、そこは無視。街から離れてあとは自宅に転移。


 明日からは、魔物図鑑と魔法に関する資料の読み込みに時間をかけようと思う。拠点の島関連で建築基礎とかそっちのイメージも掴みたいから、しばらくは自宅に籠る。直近で異世界でやり残していることは・・・ないな。盗賊さんたちはしばらくごめんなさい。収納から出すときは、目を瞑って少しでも生死の確認を後回しにしたい。一応時間停止は信じてるけども。


 夏休みに親せきおよび親せきのお子様たちが来訪するまでには、拠点は完成させたい。姉夫婦も来るか・・・。その時には、鍵だけ渡して僕は海外旅行に行ったことにしよう。空間接続のおかげで、サーバメンテは異世界でもできるようになったし。ちなみに今革鞄にはもう、魔力チャージした魔石が取り付けてあるので、鞄から離れたことで、ケーブル類がスパっと切断されることは無い。


 食事の様子はもういつもと同じだからいいよね。風呂も庭いじりもいつものように行っている。が、しかし僕は反省していた。異世界転移、それから自由に異世界と自宅、まあ地球なんだけど、そこを行き来できるようになっても、知識が不足しすぎている。特に自らの魔法や本来生活の糧であろう冒険者活動に関しての知識。しばらくは座学でのそのあたりを強化したいのだ。【エルフ村】の管理はもちろん通常業務なのでする。


 魔物図鑑をはじめ魔法に関する本などを全てスキャンしてパソコンに納めさらに一度プリンタ出力した後に日本語に書き換わるように念じる。まだ呪文のための魔法名はつけていない。そして日本語に書き換わった紙を再びスキャンする今度はOCRスキャンである。ようするに、異世界図書の電子化。しかも文字検索できる。なぜなら僕の学力と記憶力では、すべてを覚えるということは不可能だから。魔法が使えるとはいっても、並列処理とか記憶力増進とかは無理っぽいと思う。筋肉にさえ躊躇しているのに、自分の脳細胞に魔法をかける勇気はない。エビデンスありきだ。


 ついでに、タックスヘイブンの地域に急ぎ会社を設立してそちらに【エルフ村】の運営と掲載広告料の受け取りを移管する。どうせ今もサーバは海外にあるし。このあたりは税理士さんを通じて、専門家にお任せ。なにげに税理士さんには僕の個人情報ダダ漏れなんだけど、そこは守秘義務ありの業種というのも含めて信用してる。もし守秘義務破ったら精神魔法の実験を・・・いや、信用します。受取口座開設のために、現地に行かなければならないなら、行ってみようと思う。タックスヘイブンの地域によっては、誰が代表の人なのかなどが外部へ漏れる可能性は非常に低いという話を聞いた・・・いや調べて見つけたからだ。日本ではタックスヘイブン対策税制があるから、節税とかはあまり考えてない。とにかく丸投げ。


 そんなこんなで座学の毎日。一週間が瞬く間に過ぎてしまった。この間異世界側に全く行ってない。タックスヘイブンへの会社設立は、けっこうスムーズみたい。後は後ほど送られてくる必要書類にサインするだけ。もう金は払った。現地の銀行口座はさすがに赴かないとできないみたいなので、もうすぐ送られてくる書類一式もっていってくる予定。ちょうど親せき来るからいいかな。


 建物を建てるための土壌改良や基礎や側溝などについても学んだ。まあ、トレーラーハウスだから、アスファルトかコンクリート敷きでもいいけど。それでも盗賊さん用の収容施設とか実験棟は別にしたいもんね。今度はコンテナハウスとか組み立て式のログハウスの組み立て済みを複製していくつもり。もし魔法実験でスプラッターなことになったときは、そのまま海に沈めて見なかったことにする。


 魔法については、サシャさん図ったな!という感じか。けっこう魔法浸透してる。まあ、思ったより生活に密接する魔法は使われていて、長年の訓練なのか努力なのかしらないけれど、冒険者や兵士については、攻撃魔法使いまくってるし。この情報も数十年前のもので、サシャさんの家の書斎の本に書いてあった。まあ、サシャさんはあの村を出たことがないって言ってたし、本はおじいさんの蔵書だからしょうがないのかな。


 ・・・と思うのだが、最大の疑惑が出てきたよ。大魔法使いは意識すれば、他の魔法使いが魔法を発現したときの魔力を感じることができると書いてあった。僕ってサシャさん家で、けっこう魔法使ったよね?これバレてるよね。なのに僕が魔法使えない振りしても、スルーしたよね・・・。考えてみれば探索魔法でも僕自身魔力の反射を感じるわけだし、感じようと思えば、他の魔法使いの魔力だって感じ取れるのはなんとなくわかる。あのときサシャさんは意識してなかったからだいじょうぶ?いや、わかっててスルー?・・・まあ今悩んでもしかたないか・・・。というか、魔法に関してなにかと最新情報がないのは痛い。


 それでも、ゲームなんかでお馴染みの魔法はだいたい人前で使っても問題ないみたい。まあ、光魔法とか闇魔法とかは見当たらなかったし、超強力とかすごい広範囲とかはダメかな。参考にした物語にさえ出てこないし。勇者とか大賢者と聖女様とか魔王はここ数百年あの異世界にはいなかったようだ。その前は文献無いからわかんない。古の魔法の時代の情報は、いまのところあの魔法大全のみ。おじいさんの日記は手書きでも汚かったので、まだすべては解読できていないです・・。魔法が効かないくらい汚い字とかどうよ。はっ!もしかして暗号?


 気をとり直して、このあたりは徐々に周りの魔法を見学しつつ、威力なんかは調整する。けど、魔物刈りなどの冒険者活動は問題なくできそうだ。あ、空は古代魔法がエンチャントされたアーティファクトで飛べるらしい。めったにないらしいけど。飛行魔法を付与した魔石っていくらで売れるだろうか・・・いや、騒ぎを起こして目立つだけか。


 さて、いよいよ魔物について。残念ながらスライムはいなかった。モンスターアメーバだった。こんどスライムに名称変更するように進言しようかな。とにかく何でもモンスターって頭についてる。兎はモンスターラビットではなく魔兎だったけど。ゴブリンとオークとオーガは普通にいた。二足歩行系は、だいたいゲーム知識と同じ。このあたりは、翻訳魔法と僕の知識のせいかなぁ。あ、ミノタウロスは居なかった。まあ図鑑に載ってないだけかも。魔物と動物、人との違いは、お馴染みの魔石。でもこれって殺して解体しないとわからなくない?もしかして、短距離での魔石探索できる魔法使いはけっこういるのかな。それとも魔物の風体でわかるのかな。イノシシでかかったし。


 おおよその異世界の魔法と魔物の知識は得たと思うし、細かいところは逐一スマホに入れれた電子書籍版で検索できるから、今までのように、会話での突っ込みでアワアワすることも減り、冷静に対処できる範囲が増えたと思う。本当に高校生の異世界転移でもあるまいし、いい年して「うっかり」とかありえないからね。


 さて、久々に異世界に転移しますか。

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