第39話 ドローン要らなかったかも。

 ドローンを使っても、地図作成はけっこう面倒かもしれない。歪み補正を考えると約2km四方が写ったの写真をかなりの数順に組み合わせていくわけなので、その撮影のための距離をある程度正確に移動するということになる。


 障壁魔法による僕の身体強化なんだけど、中身の体が強化されているのではなく、障壁という外殻による強化。なので、体が壊れるほどにものすごく速く動くことはできない。


 何度かマラソンの世界記録とかと比較したのはそういうわけ。細胞とか筋肉強化とか、人体に何が起こるのかわからない魔法は、創作したとしても人体実験のあとでしか自分には用いない。ちなみに障壁自体はめっちゃ強い。


 ということで、最初にサラハの街の上空、そこから東西南北に3km移動した場所、その次は・・・という感じで先ほど9か所目の撮影をしていたのだが、かなり面倒。まだ写真撮った後も、家で写真の広角補正もあれば、調整して繋いでいく作業もあるんだよね。


 ここまでが先ほどまでドローンで撮影していたときの回想。えっとね。ドローン要らなかったかもしれない。なんか普通に空飛ぶ魔法できちゃった。


 思えば魔法使いと言えば、補助器具の有り無しの違いはあれど、まずは空飛ぶよね。その上、先に透明化魔法とか作っちゃてるから、低空飛行も思いのまま。障壁魔法があるから、おそらく調整次第で高高度も可能だと思う。わざわざ地図作らなくても、目視できちゃう。いやもう、口調が変わるくらい目から鱗ですよ。


 これ双眼鏡でも購入したら、領の全体像くらいすぐ把握できてしまうのではないだろうか。先ほどの障壁魔法による身体強化の欠点も克服できるし。体に全く負担なく、スピード上げられる。逆に障壁はあらゆる衝撃吸収させるようにできるから、音速とまではいわないまでも、新幹線、いやリニアモーターカーくらいの速度は可能だと思う。呼吸に関してはまあ、スピード上げながら障壁の調整かな。水作れるんだから酸素くらい作れるだろうし。最悪スキューバダイビングのボンベ担いでもいいくらいのメリットが飛行魔法にはある。


 ものの試しに、透明化してまずはすこしずつ上昇してみる。飛行機でも眼下が晴れていれば、かなりの面積を視認できるから、ものすごく期待できる。スマホのアプリは高度センサーを起動している。そういえば、気圧や重力も地球とおなじなのだろうか。今度100mのメジャー買ってきて垂らしながら飛んでみよう。


 高度1kmうん。さっきコントローラーのモニタで見た景色と変わらないな。2km、肉眼の方が広角に見えるからモニタと違ってダイナミックだ。いつも街壁の中に居るからわからなかったけど、ものすごく田舎だな。とうかもうこれ、領内見渡せてると思う。それでも少しずつさらに高度を上げて行く。小山や森に隠れていたその向こう側の景色もその姿を見せる。ただしまだ魔物の山のよりはぜんぜん低い。あれ、8000m級かな、それ以上かも。


 結局10kmくらいまで上昇して分かったことがある。この星も地球と同じく丸い。魔物の山の最高部はおそらく1万前後メートルである。そしてこの領や国のディティールはもともと、どこからどこまでか知ら無いからわからない。でも、これで地図がなくてもおおよその方向さえわかれば、目的地を遠くから視認できる。実際、近辺の村らしき場所はすぐ分かったし、街道もほぼ視認できた。そしておそらく南に見えた大きな街壁が、領都ジャジルのものだろう。東側にも街あったけど。海も見えたよ。


 実験施設は、海と山がある場所がいいな。もうサルハに近くでなくても、どうせ1回行けば転移できるし。ということで、高度を2kmまで落として東に向かう。移動スピードは正確にはわからない。ドローンはまああまりいらなかったみたいだけど、対気速度計は欲しいな。


 1時間ほど飛んだ。距離計も速度計もないけどだいたい時速500kmくらいで飛んだと思うあくまでイメージだ。だけどこの辺りがジムニ辺境伯領の最東端であることは間違いない。もう海だし。上空から海岸線を見る限りはあまり集落もないけれども港町のようなのも見える。さらに人があまり近づかないだろう魔物の山側、ようするに少し北に移動してみると、海の向こう側に島が見える。もしあの島が無人島なら、あそこがいいかも。


 けっこう大きな島だから人が住んでいるのかどうかの調査は必要だけど、この島は気に入った。台風とかあっても結界あるし。あ、探索魔法持ってた。目視だとだいたい一番地遠いところで、5kmくらいか。早速島全体に広げる感じで、人を対象に探索魔法をかけてみる。半径5kmはそこそこ広くて初挑戦だけど一応島の一番高いところだから、全体居届くはずだ。うん。今のところは反応なし。


 念のためその後も島のあちこちに移動しながら探索魔法をかけてみるが、人の反応は一切なしなので、ここをアタールアイランドと命名する。冗談です。後でちゃんと考えます。島の形は、いびつな円形。一部入り江のようになっているのは、河口かな。実験施設はあの河口付近にしよう。あとで気候や地理的な問題があれば移動させる。インベントリあるし。


 ふつうなら、エアカッターとかの魔法で木の伐採をするところなんだろうけども、僕はインベントリ一択。邪魔そうな木を次々と収納していく。小一時間で1ヘクタール程度の平地ができた。おや平地じゃないな。木の根があったところは穴だらけだ。ここは土をなんとかする魔法を考えなければ。冒険者会館の訓練場では水と土魔法の使い手になってたけど、土魔法とかちゃんと使ったことないし。


 一旦2mほど掘り下げてから埋めなおして付き固めるイメージで、土魔法を発動する。1ヘクタールと広いので心配したけど僕のイメージ通りに平な地面になった。水はけを考えたり土壌改良とかはまだ施していないけど、そこはもっと画像検索やネット動画でイメージ固めてからする予定。斎藤のおっちゃんにアドバイスしてもらってもいいな。


 今後はここに住環境を整備するところからなんだけど、やっぱりセバスチャンとか猫耳メイド雇いたいな。こんなところに来てくれる人居るんだろうか。盗賊さん達の収容施設もいるな。忘れててごめんなさい。


 念のため整地したエリアに魔物イノシシの魔石を魔力ャージ、一体式魔道具にして物理結界を張っておく。広いのでおおきな魔石を使う。魔物イノシシの魔石は、直径10cmくらい。銀色になるまで魔力チャージしてから、結界のイメージを付与する。このあたりは、スラム地区の結界のときに魔道具屋で購入した魔石で試行錯誤したから、ある程度スムーズにできる。


 向こうとは違って、光や空気以外を通さない感じ。雨が降ったらおそらくぬかるみになるからね。僕はもちろん通れる。地面に置いておくのもなんなので、土を固めた台をイメージして中心付近をせり上げる。上部を魔石に合わせて凹ませ、台を超硬化して、その上に置いておいた。アースウォールのイメージもこれでつかめた感じがする。


 転移はサルハ街壁の門近くに。あとは死角になってる場所を探して、透明化を解除しようと思ったけど、今日は直接街の外に転移したのを思い出し、再度街中に転移して、今日こそは混んでいるであろう冒険者会館に向かう。目的は資料室の魔物図鑑。僕、この世界の魔物のこと、全然知らないよね。もちろんお姉さん冒険者や受付のお姉さんから声がかかれば、優先順位は変わるけど。


 冒険者会館に足を踏み入れると、夕方ということもあり受付にはお姉さんがいるし、冒険者も大勢いる。魔法使いに剣士、まあ見かけや服装だけでは正直その職業というか種別は判断できないけれど、とにかく大勢いるのだよ。全体的には男性の方が多いけども、ちゃんと冒険者のお姉さん達は存在した。亜人のお姉さん冒険者も多い。まずは飲食エリアにでも行ってみようか。そのあとカウンターで魔物図鑑を見せてもらえるようにお願いし・・・。


「アタール君、やっぱり朝は来なかったね。」


 かけられた声に振り返るとセルゲイさんである。うん、知ってた。さっきチラッと見えてたからわざわざ背を向けた。人の多いときくらい奥に引っ込んでおけばいいのに。偉いさんがうろうろしたら、若者が委縮するよ。


「盗賊の拠点は見つかったが、盗賊たちは発見できずだそうだ。拠点に残されたお宝なんかも普通というか、まあ冒険者たちの小遣い程度はあったみたいだが、大した収穫は無し。戻ってきた奴らの話じゃ、一時的な拠点だと思われるって分隊長が言ってたそうだ。一味の逃走の情報の広報とともに近辺の街や村、領都には遺留品からの情報も問い合わせている。また出没するかもしれないから、アタール君も依頼受けたり、狩りに出る時は気を付けてくれ。今後は一応、街道の橋の向こう側まで衛兵が巡回するそうだから。それでこんな時間に何をしに?」


 話が長い。長い。お姉さんを見学にとか言えないよね。


「僕は忙しいですから、また今度。」


 と、軽く手をあげ飲食エリア側に移動しようとすると、なんか付いてくる。


「そういえば、訓練場で会った魔法使い達が、色々話を聞かせて欲しいと言ってたぞ。」


 もちろん立ち止まって振り返る。一度顔合わせした方々の方が、コミュニケーションの敷居は低いからね。当然だ。


「あ、そういえば探してた相手が見つからないので、もう用事は明日でいいかな。もう忙しくないです彼女たちはどこにいます?。」


 彼女たち限定である。


「いや、もう帰った。」


 くっ、もう忙しくなくなったといった手前、何か話さなければいけなくなったので、


「あ、冒険者会館に来たついでに魔物図鑑、魔物図鑑を見せていただきたいのですが、いいですか?」


「もちろんだ。」


 ひとりで行けるのに、なぜかセルゲイさんにエスコートされて資料室に向かう僕であった。さすがにこういう案内役は、女性職員でしょう。副支部長フットワーク軽すぎ・・・。

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