第38話 のんびりとスラム地区。

 久々の宿だ。宿の名前も再確認した【月の宿】だ。この世界の衛星の呼び方は日本と同じ月なんだぁ、と今更ながら思ったけれど、もしかしたらオーナーが月さんかもしれないので、まだ確定事項にはしない。店員さんとは相変わらず挨拶か必要事項しか話したことがない。求む女性店員。


 今、精神魔法および魔法による各種人体実験のための場所を確保するために思考している。魔法使いのお姉さんたちとのコミュニケーションよりも今はこちらが大事だ。冒険者会館で魔法使いのお姉さんを見つけていたら、もちろん優先順位が変わっていた。当たり前だよね。


 日本から持ち込んだ各種のセンサーを用いての環境観測にしても、それこそ百葉箱のような設備が欲しいし、細かい魔法実験などもできる拠点が欲しいものだ。廃村計画はペンディングだけど、ここは非合法に隠蔽結界でも開発して推し進めるべきだろうか。


 とにかく、街中以外はまだほとんど知らないわけだから、まずはロケハンだな。インベントリで収納したままの盗賊たちには気の毒だし、まだ実際に生死の確認もしていないけれども、これも実験の一環として許容していただこう。普通に時間停止してれば、盗賊たちにとっては一瞬だし。


 まずは周辺地図だけでも作成して、実験施設の拠点決めしよう。その後に人体実験および環境観測など、はじめに思いついた事柄の検証でいいかな。


 自宅に転移すると、もう宅配ボックス(倉庫)は出来上がっていた。車庫に車を戻し、斎藤のおっちゃんに電話して、残りの金額を聞いてネット銀行で振り込む。スエットに着替えて、パソコンの前に座り、効率的な地図作成について考える。以前は車のトリップメーターとコンパスだけで何とかしようと思ったけど、あまりにも非効率的。いまのところはこの異世界全体の地図ではなく、ジニム辺境伯領とその隣接地があればいい。


 先日代官屋敷で見せていただいた地図は、ものすごく大雑把だった。それこそ、大きな街道と、山、谷、森、川みたいな感じ。等高線まで引く根気は無いけれど、なんとなく地形も知りたい。それがわかれば、誰にも見つからない秘密基地も作れるというもの。いや、実験施設の拠点なんだけども。異世界には人工衛星写真ないからなぁ。


 はっ、人工衛星といえば、上空からの撮影、上空からの撮影と言えばドローンか。早速ネットショップで探す。GPSが使えないから、自動帰還機能とかは使えないだろうけど、Wi-Fi電波は使えるから操縦は可能。電波干渉とか皆無だから、ほぼカタログデータ通りの性能出る可能性あるし。GPS無くても高度センサーは有効だから、思い通りの地図が作成できそう。衛星写真というより、航空写真って感じだ。


 レンズの焦点距離とか撮影高度で写る範囲の計算をし適切な機器を選定しようと思ったけど、そこは面倒さくなって、購入する機器で計算することにした。文系ですみません。結果、電波到達距離4km、4K動画と2000万画素の静止画が撮れるタイプのドローンを翌日配達で購入。ズーム機能で35mmセンサーサイズ換算の24mmだから2.5km四方以上は撮れる計算。広角撮影につきものの歪みはあとでソフトで補正できるからいいや。空間接続魔法での上空からの撮影も考えたけれど、一定高度を保てる気がしなかったのでそこはすぐにあきらめたよ。


 ほかには拠点用の建物。これは誠に申し訳ないがキャンピングトレーラーの展示会場で万引きというか、デュプリケートすることにした。何度か見に行ったことがあるので、転移、透明化のまま実施。あっけなく大型のトレーラーが収納された。もちろん元のトレーラーには触っただけで盗んではいない。


 ん~と、そうだ発電。これは自宅にある太陽光パネルとインバーター、リチウムイオン電池など必要ユニットをすべてデュプリケート。以外にエコな家なのだ。設置のためのマニュアルはダウンロードしておいた。わからない所は、斎藤のおっちゃんに聞こう。


 そのほか必要な生活用品なども適当にデュプリケートしながら収納していく。もう、異世界側メインで普通に住めると思う。あとはドローンの到着を待つだけだ。というか、高性能のドローンってめっちゃ高いんだ。


 あれこれ用事を終え【エルフ村】をチェック。登録人数が倍増している。コスプレ投稿も海外からのものが急増している。アメコミ系よりもファンタジー系がさらに増えているのがうれしい。というか増えすぎかも。一応会社登記しちゃってるから、普通のユーザーさんは僕のことあまり知らなくても、もうこれ調べる気のある人にはバレバレだよなぁ。いっそのこと、海外に会社の登記移すか。


 と考えながらもアタール名義で数枚の冒険者のお姉さんの写真を投稿。おそらくこの投稿もバズるだろうな。先日投稿した写真にもたくさんの質問や感想があったので、


 > ありがとござます


 と不自由な日本語で書き込んでおいた。なぜならロシア語での質問がものすごく多くなっていたからだ。もちろんどんな言語もすべて<リーディング>で読むことができるし<ライティング>で書くこともできる。おそらく<トランスレート>で、会話も可能だけど、書き込み対応は面倒くさいからね。


 今日は本当にいろいろあったので、肉体的にも精神的にもものすごく疲れた気がする。今夜は収納した盗賊たちも魔物イノシシも忘れ、風呂入ってゆっくり寝よう。でもあの宿で1回も眠ってないな。


 おはよござます。洗顔後、鏡に向かって不自由に挨拶してみる。意味はない。朝食を終え家に居る時の朝の日課、庭のお手入れをのんびりと行う。今日はドローン受け取り以外に特に予定はないけれど、ついでに宅配業者さんに宅配ボックス(倉庫)のカギも渡さねばなるまい。時間に縛られる頻度がこれでさらに激減するだろう。一応配送時間をメールで知らせてくれるサービスをしてくれるので、今でもあまり問題ないけど、取り調べ中とかだと困るからね。


 着替えて透明化して転移のコンボはもうかなり慣れた。久々の宿の部屋転移。この部屋全く使った形跡ないよね。部屋を出て、店員さんに朝の挨拶をして「今日はもどらないかも~」といつものように告げてスラム地区に向かう。もう平民しか住んでいないので、スラムと呼ぶのも変なので、今度みんなにそれなりの名前つけさせよう。


 スラム地区住民の表情は明るい。初めて訪れたときとは雲泥の差だ。この時間、冒険者登録した方々はもう、会館に行ってる。だから、家の用事をしている方、未成年と病気の人しかいないはずなんだけど、なんだか人が多い。建設で来ている職人さんがいるのは分かっているけども。


 スラム地区をぶらぶら歩いてみよう。何か情報が掴めるはず。こういうとき、エフゲニーさんが居たら、いろいろ聞けるんだけど、さすがにみんなが冒険者登録したばかりだから、そちらにべったりなんだよな。会社の方も手伝ってくれる人が欲しいと思ったけど、こっちでもやはり人を雇うべきだろうか。セバスチャンとか猫耳メイドとか。家ないけど。


 子供たちに聞いて理由はすぐわかった。職人区の子供や奥さんたちがこちらに来ているようだ。主に大工さんたちの。朝から夕方までタダでお湯が使えるというで、それこそ湯浴みついでというのもあるらしい。湯浴みか。こんど大衆浴場でも作ってもらうかな。井戸掘りくらいは魔法でできそうな気がするし。


 小汚い小屋がちゃんとした家屋に建て替わりはじめ、景観がきれいになって、臭気もなくなったから、住環境もかなり改善している。さきほどの湯浴み、そしてあたらな服の購入で住民も小奇麗だし、こういうの見ると、あの強盗傷害誘拐事件もまんざら悪くなかったかな。異世界で唯一僕の生命の危機でもあったけども。


 定期的に住民たちの状況は見に来よう。ここのおかげで報奨金の大金貨もデュプリケートしなくてもいいくらいにあるし。今後もなにかと気にかけることにする。住民リストのお姉ちゃんチェックもまだだし。


 スラム地区を一回りしてメールを見ると、荷物の配達予定が入っていたので、イワン小屋に入って家に移転する。いよいよ空撮と地図作成だな。

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