第37話 魔法見学会。

 アレクセイさんとともに6人ほどの冒険者が訓練場にやってきた。女性4名に男性2名。女性たちのうち2名とはこの後ぜひお近づきになりたいと思う。でもなぜ6人。


「いい人選だ、アレクセイ。」


 6人に大銀貨2枚ということは合計12枚ですよね。それって金貨2枚と大銀貨2枚ですよね。12万円相当ですよね・・・。おそらくいい稼ぎなのであろう、冒険者の方々は、集まった人材を見渡して満足そうにうんうんと頷くセルゲイさん以上にいい顔をしている。


「俺はアンドレイ、火魔法系が得意だ。」


「カテリーナ、私も火魔法かな。土魔法もまあまあよ。」


「ミハイルだ、土魔法メインで風魔法も使う。」


「私アリ。火、土、風、水のすべてを操るオールマイティー魔法使いとは私の事。」


「私はレナ、水魔法での攻撃メイン。」


「アリオナよ、風魔法を使うわ。」


 ほぼ見た目年齢順に自己紹介してくれたので、僕も自己紹介。


「アタールと申します。最近冒険者登録したばかりです。得意な魔法は・・・防御系です。」


 普通の魔法使いの技量は分からないので、とりあえず攻撃より防御をアピールしておいた。常時発動しているし。ちなみにお近づきになりたいのは後の方で自己紹介した2名ね。カテリーナさんはその、ちょっとお年を召していらっしゃるし、アリさんは風体も自己紹介と同様に初見でもちょっと痛い感じ?6人の理由は、魔法の系統と攻撃バリエーションを見せてくれるためかな。


「集まって貰ったみんなは、中級以上の魔法使いだ。そして短縮詠唱もできて、聞いた通り攻撃メイン。アタール君の技量はまだ知らないが、技量をはかる比較にはちょうどいいと考えている。まずは順に得意魔法をあの的に向かって放ってくれるか。」


 セルゲイの言葉で、集まった魔法使いたちは順に指定された的に魔法を放って行く。


 ファイアーアローね、聞いたことある。ファイアーボールもわかるわかる。アースランスか。土はアースっていうの?自動翻訳のせいかな?スピアじゃなくランスね。アースストームって、ぜんぜん嵐じゃないよね。砂の混じった風じゃん。でも目晦ましにはいいのか。お、アリさんの魔法は言うだけあって混合魔法というか、あのアイスアロー風で螺旋回転させてい力高めてるな。水魔法はどんな攻撃するのかと思ったけど、呪文はウオーターショットだった。野球ボールほどの水の塊が飛んで行ったけど、あれは殺傷力なさそう。最後の風魔法は的がスパっと切れるのかと思ったけど、そうでもなかった。投げた石を風で加速させて当ててた。ウインドアセクレーション。風加速ね。これはいろいろ応用できそう。


 皆の魔法を自己イメージとして頭の中で反芻する。ここでも「やらかし」はダメだろう。どこにでもいる魔法使いの範疇を逸脱したくはない。


「アタール君、ところで防御ってどんな魔法?何系?」


 的当てを終えたカテリーナさんから痛いところを突っ込まれた。う~ん創造系?とかは言えないので、想像力をフル回転し、目に見える防御ということで、


「土系?」


 と疑問符付きで答えた。「あ、アースウォールね。」と皆が納得しているので、一安心していると、


「はぁ?アタール君水魔法得意じゃなかったか?お湯が出せる珍しい魔法使いって聞いてるけどな。そうすると、水と土か。ふ~ん。」


 容赦ない突っ込みはセルゲイさん。商人たちの情報はすでにここまで届いていたか。でも最後の「ふ~ん。」がものすごく気になる。他の情報もなにか掴んでいるのか?はっ、やはりマキシムさんを治した治療魔法か?それとも収納の付与魔法?リペアやクリーンもけっこう披露しているし・・・。


「アタール君聞いてるか?」


 はい、また聞いてませんでした。とは言えないので「聞いてますよ。」と答えておく。一応水魔法も肯定しておいた。


「それじゃまずは、的当てだな。攻撃魔法は土か?水か?」


 ここは、なるべく威力が弱そうな水で行く。先ほどのウオーターショットをイメージして、的に当てる。中心ではなくちょっと外すのも忘れない。


「「「「「「「無詠唱で無言呪文かよ(ですって)!」」」」」」」


 訓練場にどよめきが起こった。え?そんな、呪文忘れてた?テンパってるとけっこう、ルーティンがおざなりになるのですね・・・・。使える人初めて見たとか、ここ数十年聞いたことないとか、どんだけの大魔法使いだよとか聞こえてくる。


「いや、心の中で唱えてたから・・・・。」


「「「「「「「それを無詠唱で無言呪文って言うんだ(言うんですよ)!」」」」」」」


 再び突っ込まれた。しょうがないので、ジャーパン皇国の話を持ち出すことを決意して、ジャーパン皇国の魔法使いは基本呪文を発しないで魔法を使う訓練をおこない、中級以上は無言呪文が当たり前という作り話の上で、セルゲイさんも同意のもと、皆に口止めする羽目に陥った。でもこれからはその無呪文を人前で使えるからいいかな。


「しかしえげつない魔法だな。」


 セルゲイさんがなんだか呟いている。いや、魔法自体は水飛ばしただけのもっとも殺傷力なさそうなヤツなんですけど。なんで?と尋ねる前にセルゲイさんの言葉が続いた。


「近距離でもいつ飛んでくるかわからん魔法で、」


 うんうん。そういえば無呪文だと声を発しないから、魔法を発現するタイミングって掴みにくいよね。呪文唱えた後に保留とかできるならそれは別だけど。


「その上あのウオーターショットが、沸騰した高温の湯だと考えたら、高温に強い魔物は別にして相手はひとたまりもない。あれが顔に向けられたらすぐに命が刈り取られるわけではなく、大やけどでずっと苦しむことになる。皮膚はただれ、目を開けていたら目はつぶれ、1発当たっただけでもかなりの被害だ。それを何発も食らったら、戦意なんて一瞬でなくなるな。ウオーターショットは魔力消費が異常に小さいから、アースウォールが使えるアタール君ならそれこそ何百発でも打てるだろう。これは比較する間もなく実力・技量とも認めるしかないな。」


 訓練場にいる皆がコクコクと頭を縦に振りながら青い顔してる。ちなみに僕も青くなってる。コクコク率が最近高い。まあそれは置いて、あまりに非道な魔法だ。それを何百発も打つなんて、どんな非道な魔法使いなんだ。まあ、できるの今のところ僕らしいけど。セルゲイさんに促され、高温ウオーターショットを披露してみる。


「バシュ」という音を立て、的に当たる。的からは湯気が上がっている。はぁ、風呂に入りたい。


 先ほどの口止め料も含めて、皆さんに大銀貨3枚ずつお渡しして、この場は解散となった。もうお金のことは気にしない。アレクセイさんとマレットさんが羨ましそうに魔法使いたちを見てて、セルゲイさんに小突かれていた。僕もやっと無罪放免だ。悪いことしてないけど。


「なんで装備買い忘れたのかわかったよ。その、ジャーパン皇国ってところではアタール君はいつも無手だったんだろう?」


 セルゲイさんなにげに言葉が丁寧になってる。肯定はしておくけど、無手どころか戦ったことないし、キーボード叩くくらいしたしたことないわ。でも今回はとてもいい勉強になった。他の魔法使いの攻撃魔法見れたし、無言呪文もまあ公認というかギルド幹部には認知されたから、今後の冒険者活動であれこれ僕の技量について言われなくなるだろうからね。


 訓練場を急ぎあとにして、女の子魔法使い追うが、既に冒険者会館は閑散としていた。そんなに時間たっていないと思ったのに、他の冒険者(お姉さんに限る)どこ行った。受付のお姉さんどこ行った!

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