第13話 物価調査。

 いよいよ普通に人は住む街に到着した。実質的には、サルハの街が、スタート地点のようなものだ。昨夜はあまり寝ていないとはいえ、まだ午後6時。寝る前に、明日の予定を組む。


 街の主要施設の確認が主になるだろう。図書館などの情報が手に入るだろう場所あれば最良。他には物価の確認。街の人々が、どれくらいか稼ぎ、どれくらい生活費を必要とするのか。今後のためにも、ぜひ欲しい情報だ。


 あと、お金を稼ぐ方法。デュプリケートで、お金は増やせるけど、さすがに複製したお金が、どこから来るのかわからない現状では少し不安がある。大雑把にいうと無から有を産んでいるのか、どこからか材料を持ってきているのかというもの。


 どこからか材料を持ってきている場合、金属だと埋蔵されているだろうからまだいいけど、羊皮紙とかになると、生物の錬成なのか、単に組成元素の合成なのか。


 まあ、地球の科学知識が全く通用していない可能性もあるから、深く考えない方がいいのだろうか。もともと転移自体、訳がわからないし。イメージの具現化とか、意味は不明すぎる。


 試しに、男の子の憧れ、透明人間化を試してみると、できてしまった。しかも裸にならなくても、着衣も一緒にだ。というか、机の上の着替えの服を掴んで、それも透明になるイメージを念じると、掴んだ直後、透明でなかったのに、念じたら透明になった。


 車庫に行き、車を取り出し、これも透明できるか試すと、できた…。うん、犯罪はやめておこう。ちなみに家にあるお金の複製も試そうとしたが、もろ刑法犯になってしまう未来しか見えないので、自制心で止めた。一応金銀のインゴットなんかは問題ないと思う。


 思ったより何でもできる。なんども言うけど、チートすぎ。世界の滅びを念じたら、滅びちゃうんだろうか…。ちょっと怖い。というか、あの異世界、古代魔法時代に、よく滅びなかったな。いや、実は一度滅んだのかもしれない。それで古代魔法は失われたという方が、シックリくるかも。


 あまり危ないことは考えず、安全性重視で行こう。それと、魔法能力は一般的なもの以外は、なるべく隠蔽して、他人に教えないことも重要だろう。異世界の方の生活も、田舎暮らも始めたばかり。のんびりやっていこうと決心した僕であった。


 昼間不在なことも多いので、門の真横のブロック塀を壊して、宅配ボックスならぬ宅配小屋を設置しよう。ここらあたりは、斎藤のおっちゃんに頼めば、数日でできるだろう。


 早速服を着替えて、透明化と転移で、工務店に赴き発注。一週間くらいで出来上がるということなので、その間はネットショッピングはちょっと自粛。


 帰りには、スーパーに寄って、様々インスタント食品を購入し、再び自宅に転移し、仕事をサクッとこなし夕食後、風呂に入り朝9時にスマホのアラームをセットして寝床に入った。おやすみなさい。


 アラームが鳴る前に目が覚めた。身体が田舎の環境に馴染んで、早起きが苦にならなくなっているようだ。体の調子もいい。軽く朝食を摂り庭の手入れをして、木刀を手に、素振りをする。異世界の10歳に負けてはいられないので。


 既に22歳だけど、筋力や運動能力の伸びは、少しくらいは残っているだろうと期待している。


 起きる予定だった9時に、服を着替え、異世界の宿に転移する。今日はダフネさんの所に寄って、そのあとは街の散策をしよう。鍵を預けて、夕方に戻ることを告げて宿を出ようとすると、昨日ダフネさんの店の前で見た方々が何人か訪ねてきていた。


 みさなん、それぞれ魔法が使える商人もしくは商人に雇われている魔法使いで、お湯を出す魔法を教えて欲しいという。一応マーシャさんに教えても無理だったことをお断りしたあと、説明するが、結局誰もできないようではある。


 僕の魔法はこの異世界の現代においても、イレギュラーのようだ。あの転移時の光のせいなのだろうか。皆の注目も収まってきたようなので、挨拶だけして、その場を去る。


 宿を出て、数分でダフネさんの店に到着。早速店に入り、店番をしていたマーシャさんにご挨拶すると、すぐにダフネさんと子供たちも店の奥から顔を見せた。お店は、食料品や生活雑貨が主で、旅商人としては、生活雑貨を販売しながら、農作物などの食料品を仕入れているそうだ。旅の間は、ダフネさんのご両親が店番をしているという。


 売れ行きに応じて村々に行くのは月に一度か二度。今回子供達を同行したのは初めてだったそうだ。その割に旅慣れた感じだと思ってたら、肉類の仕入れに時たま狩人とともに1泊程度の野営はもっと小さい頃からやっているので慣れていると教えてくれた。


 あとは、色々売っているものの値段を聞くことにする。この店には、桶に、布、カップ類、鍋なども置いてあるが、主な取扱品目は、食料のようだ。それぞれ教えてもらった価格をメモする。店に置いていない品々などの価格も色々教えてもらって助かった。その他、一般的なこの街の住人の稼ぎや生活レベル、そして租税などについて。


 この領地の場合は、と断った上で、どの職種でも月に金貨1枚程度、租税は2割で、商人や職人の場合は硬貨で。農民の場合は、硬貨か作物で納めるという。とは言っても、それぞれ経営者に課せられるもので、従業員や使用人、小作人からの直接的な徴税はないとのこと。


 何でかなと疑問に思っていると、売上全体や生産品全体に対して租税が課されるためだそうだ。要するに、原価や経費という概念はないらしい。そうなると、売買は粗利4割以上でないと割に合わないってことになる。


 結構理不尽だとは思ったが、公務員と同じような仕事や開拓、防衛などの経費を国や領主が負担していることを考えれば、納得できるのであろう。


 しかもよくよく聞いてみると、売り上げや生産物の把握は、売り場面積や馬車の数、従業員や使用人の数、農地の面積や作物の種別を毎年大雑把に役人が調べて売り上げや収穫を計算して決定し、課税するそうなので、脱税…いや、節税も比較的うまくできるという。


 他の領地では、もっと税金が高かったり、徴税方式が違う場合もあるそうだ。農民は不作のときは大変そうだ。


 あとは、法律のことも聞いてみた。明文化された法ではなく、王や領主からのお触れという形での、決まりはあるそうだ。まあ、法治というより人治のようだから、この国は立憲君主制ではなく、専制君主制のようだ。悪い言い方をすると、王や貴族のやりたい放題の世界。


 ただ、ちゃんと王や領主が、貴族の義務と言われるものを果たし、民を守るということをしているのならば、むしろその方が平和ではあるだろうが、現代日本人の僕にはちょっと想像つかない。


 学問についても聞いてみた。読み書きと計算は、商人や役人は家庭教師を雇って子供達に教えるそうだ。農民も小作ではなく地主の場合には、同じように子供に教育するそうだ。学校も一応あるが、基本的には貴族と大商人、もしくは貴族の推薦があるもののみが通うことができ、それは王都にしかないそうだ。


 まあ、読み書きと簡単な四則計算くらいなら、一般の民でも、本などの教材があれば、学ぶことはできるのだろうから、問題ないとは思う。


 あとは身分制度だが、王、そして王族、貴族とあり、貴族は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵があり、大商人や高名な学者や役人には、民爵という地位が与えられることもあるそうだ。要するに、専制君主制の中での特権階級にあたる。それ以下は、ひとまとめにして平民。そして奴隷もいるそうだ。


 ただし、奴隷は高価であるとともに、食い扶持が必要なので、よほどの大商人か貴族、もしくは特殊な職種でなければ、持っていないそうで、ダフネさんは詳しくはなかった。ちなみに、異大陸からの旅人の扱いについても、詳しくは知らなかった。


 色々と話を聞いているうちに、店の客が増えてきたため邪魔するのも何か悪い気がして、夕方再び訪ねることを約束し、僕は街に散策に出ることにした。

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