共鳴

 梅雨特有の湿り気と、気の滅入るほどに降り続ける雨に舌打ちをしながら、家を出る支度をする。黒いシャツと青いジーンズ、茶色のレインブーツを履く。少し前に彼女と共に買った甘いバニラの香りの香水を、腰に二回振りかける。

 家を出るとしとしとと静かに雨が降り続けている。傘を差し、駅に向かうとホームで彼女が先に待っている。「待った?」と聞くと、微笑みながら「かなり待った」と返してくる。静かに抱きしめると、彼女からも僕と同じ香水の香りがする。湿度で香りが増した互いの香水の香りが、共鳴するように混ざっていく。香りと彼女に抱きついたことで得た精神の落ち着きが混ざっていく。彼女の顔も少し落ち着いた優しい顔をしているように見える。

 次第に雨の音が消えていき、駅の喧騒も耳に入らなくなっていく。香りから始まった共鳴は、互いの精神を共鳴させていく。周りの人たちも見えなくなる。この駅は僕らだけの世界になった。

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