青い硝子と

深夜の路地を奥へ奥へと足を進める。夜の飲み屋街の喧騒と明るさが嘘のように、暗く暗くなっていく。僕は人が嫌いだ。誰も来ない場所に行きたい。会社の先輩にははぐれたと嘘を吐き、僕は路地の奥へ歩く。

 ふと、視界の端に見えたものに気を取られる。薄い暗がりの中に、海のような青い硝子が浮かび上がるように存在している。

 何かの店のようで、躊躇いながらも店の中へ。小さくカランコロンと音がしながら扉が開く。

 老婆と老翁が、煙管を吸いながらテレビを見ている。そのテレビもなぜか白黒。


「あら、お客さんかい? 珍しいねぇ? 迷い込んだ口でしょう」

「だろうだろう。じゃなきゃこんなところにこれない」


 老翁と老婆が楽しげに顔を歪め、僕に語りかける。


「ここは昭和四三年で時が止まった場所。青色は我らの恩人が愛した色。昭和四三年を楽しんでいきなさい」


 僕は意味を理解できないままに頷いた。

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