レモンのアイス

 寒さで目を覚ました。カーテンを開くと雪が積もっている。僕の心臓が暴れる様に脈打ち始める。雪が嫌いなのだ。

 五年前、吹雪の夜に妻がコンビニへ出かけた。僕は妻を送り出しゲームをしていた。そしていつの間にか寝落ちていた。

 目を覚ますと朝になっていた。にも関わらず、妻は帰ってきていなかった。電話をかけても繋がらず、妻を探しに行くと家から五〇メートル程の場所で行き倒れの様に寝転んでいた。

 僕は走って行き妻に声を掛けるが返事がない。救急車を呼び病院へ行ったが既に事切れていた。

 あの日以来雪はトラウマになっている。震える身体を自らの腕で抱きしめながら、枕元に置いているタバコを咥えた。やすりライターを何度も擦るがうまく火がつかない。深呼吸を何度もし、少し落ち着いたことを自覚する。ゆっくりとやすりライターを擦ると火がついた。怯えている心を温めてくれる灯りのように感じる。タバコを近づけ深く息を吸い込む。紫煙が肺の中を巡り、口から出て行く。体の震えがおさまると同時に、脳内にレモン味のアイスが過った。

 妻が好きだったアイス。僕は重い身体を持ち上げ、レモン味のアイスを買いに向かった。もしこの雪で僕が死んだら妻と一緒だと。生きていたら妻が好きなアイスを食べれると。もし食べれたらおそらく見えないけれど妻は隣で微笑んでいてくれるだろう。もしかすると、アイス寄越せと言っているのかもしれない。

 僕は少し微笑みながらアイスを買いに家を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る