『迷いの森』のエルヴィラ ②

 セント・レイズ学院の神殿へ私はアンジュを伴って転移した。

するとそこには丁度良い具合にハルカ様が助けた聖女・・ソフィーが大勢の聖剣士達に囲まれて祭壇に立っていた。

そして彼女の隣には・・・本来のヒーローであるアラン王子が側に仕えている。

さらには『ワールズ・エンド』で出会った2人の聖剣士の姿もそこにあった。

そうか・・・彼等も聖女ソフィーの特別な聖剣士なのか。

それにしてもアラン王子とソフィー・・・あの2人の間に何があったかは知らないが・・・ふん、中々よい雰囲気なんじゃ無いかと思った。ひょっとするとこの物語が我らの勝利に収まれば、あの2人も結ばれるかもしれないね。

私には分かる。もうすぐ、この物語の世界は一つの区切りを迎えるのだ。

ハルカ様の描いた小説の世界のようにハッピーエンドを迎えるには・・何としても我々が勝利しなければならない・・・・。その為には彼等の力が必要なのだ。


 その時、聖女ソフィーが私の姿に気が付いた。

すると何を思ったか、ソフィーが全員の聖剣士をどうやら解散させたようで、彼等は思い思いの場所へと去っていく。

恐らく人払いをしてくれたのだろう。この神殿に残っているのは私とアンジュ。

そして聖女ソフィーにアラン王子。2人の聖剣士に・・・ダニエルとノアの姿があった。そうだった、確か彼等も・・・この物語の重要な人物だったからね。他に生徒会長がいたようだが、彼は恐らく不要な登場人物として・・・自然淘汰されてしまったのかもしれない。


そんな事を考えていると、聖女ソフィーが私達に近付き、声を掛けてきた。


「貴女はジェシカさんと一緒にいらした魔法使いの方ですよね?今私達は交代でかつて門があった『ワールズ・エンド』で魔物達が襲ってくるのを守っている所です。ですが、いつまでもこのような事をしていては埒があきませんので、先程聖剣士の方達と今後の対策について話し合いをしていた所なんです。・・・あのジェシカさんはどちらなんですか?彼女は博識ですので、何か良い考えがあれば尋ねたいと思っていたのですが・・・・。」


聖女ソフィーは私がハルカ様の側にいないのを不思議に感じている様だった。


「そうだ、魔女。ジェシカは・・・今一体彼女は何処にいるんだ?うん・・ところで・・・お前は誰だ?」


アラン王子達もこちらに向かって歩いてきた。そしてアラン王子はアンジュをじろりと見ながら尋ねて来た。


「僕はアンジュ。ジェシカの特別な友人さ。」


アンジュはアラン王子に対峙しながら言う。


「ふ~ん・・・。面白い事言ってくれるよね?」


そこへダニエルが口を挟んでくる。


「あれ・・・君・・・何処かで会った事がある気がするんだけどなあ・・?」


ノアはアンジュの顔を不思議そうに見つめた。


「そんな事はどうでもいい。ジェシカは一体何処へ行ったんだ?ソフィーに聖女宣言を出させた後・・・お前達は姿を消したよな?マシューの話だと魔界へ行ったと話を聞いているが・・・?」


白髪の男が威嚇するように尋ねて来たが・・・随分偉そうな態度を取る男なのだろうと思った。


「ジェシカは・・・魔界へ行ったんですよね?彼女は何故ここにいないのですか?」


「あ・・・確かお前はマシューとか言う名前だったっけ・・?」


私の言葉にアンジュが反応した。


「え?君がマシューなの?」


「え、ええ。そうですけど・・・。」


「ふ~ん・・・。君がジェシカの愛した人か・・・。」


するとアンジュの言葉にダニエルとノアが反応した。


「「な・・・何だって?!」」


しかし、マシューは悲し気に目を伏せると言った。


「だけど・・・もうジェシカに言われたんだ。俺よりも大切な人が出来たって・・・。俺が・・・・悪かったんだ。偽ソフィーに操られて・・・ジェシカの事を忘れて冷たくしてしまったから・・・。」


「そうだ。今ジェシカが一番大切に思っている人物は・・・テオという男だからな。最も・・・あいつはもうこの世にはいないけど・・。」


デヴィットは顔を歪ませながら言い、そして聖女ソフィーは悲し気に俯いた。


「それにしても・・・お前達随分ジェシカに執着しているようだね?それほど親しい友人だったんだね。」


するとダニエルが言った。


「僕は少なくともジェシカの事を友人として見た事は無いよ。だって彼女と将来結婚するつもりだったんだから。」


「はあ?ダニエルッ!おまえ・・・ふざけるなっ!そんな事はこの俺が許さんっ!」


白髪のおとこがダニエルに食って掛かる。


「僕だって1人の女性としてジェシカが大切さ。」


ノアも口を挟んできた。


「駄目だ、ジェシカは・・・俺の国へ来るんだっ!」


ついにはアラン王子までがハルカ様に対しての思いを口に出したのを皮切りに彼等は言い争いを始めてしまったのである。

そして彼等を必死に止めようとしている聖女ソフィー。

一体、何なのだ?この状況は・・・。普通に考えれば、ハルカ様は『魅了』の魔力を全て偽ソフィーに奪われたので、ハルカ様を好いていた男性は彼女への思いは全て消えたはずでは・・・?それに今は本物のソフィーが目の前にいる。それなのに誰1人として・・・ソフィーに恋している男性が居ないなんて・・・。ましてやアラン王子は聖女ソフィーと結ばれる運命にあるというのに・・・。


何かが・・・変わろうとしているのかもしれない。

その時、言い争いに加わっていなかったマシューが声をかけてきた。


「魔女・・・。ジェシカは・・ひょっとして魔族に捕らえられたのですか?」


その声・・・表情はとても重たいものだった・・・・。


「お前の事は良く知ってるよ。何せ・・・私達の住む世界へ初めてやって来た時のジェシカ様は・・・お前が一度死んだとき・・『狭間の世界』で記憶を消されてしまう程に嘆き、悲しんでいたからね。・・・当時のジェシカ様は・・本当にお前の事を愛していたんだよ。」


「・・・・。」


マシューは俯いて言葉を無くしてしまったようだった。


「お前たち、私の話を聞きなさい。」


私は言い争いをしている彼らに声をかけると、一斉に彼らはこちらを振り向いた。


「いいかい、落ち着いてよく聞きな。ジェシカ様は・・・今、魔界にいる。魔王によって囚われてしまったんだ。・・・・私がついていながら・・・すまなかった。」


頭を下げる。


「な・・何だって?!何故ジェシカを連れて魔界へ行ったんだ?!」


アラン王子が大声を上げた。


「それはね・・・。『ワールズ・エンド』にあった門を封印するには・・・人間界の聖女と、ここにいる『狭間の世界の王』、そして魔王の力が必要だからさ。私とジェシカ様は門を修復して、再び封印する為に魔界へ行ったのさ。」


「たった2人きりで魔界へ行くなんて・・・無謀過ぎるっ!おい、魔女っ!一体何を考えているんだっ?!」


白髪の男が大声を上げた。・・・どうも血の気が多い人物の様だね・・・。


「確かに、その点については・・悪かった。少し・・自分の力を過信していたと反省しているよ。すまなかった。」


「それよりも・・ジェシカが大変だっ!早く・・・早く助けに行ってあげないとっ!」


ダニエルが悲痛な声を上げながら私に言った。


「ねえ、その魔王って・・・どんな奴なの?」


「今の魔界の王は・・・この学院の学生で、ドミニクという男だ。」


私が答えると、ソフィー以外の全員が驚愕の表情を浮かべた。


「な・・何だって・・?ド、ドミニクが・・・魔王だって?」


アラン王子が真っ青な顔になる。


「お、おい・・・まずいぞ・・・。あいつは・・あの男はジェシカに異常な執着を持っている。ジェシカはあいつに捕まったって言うのか?大体・・・魔王だったなんて・・俺達を・・ジェシカをだましていたのか?」


白髪の男が頭を押さえながら私を見た。


「いや・・・騙していたわけじゃないな。最初から魔王の魂を持って生まれてきたんだ。そして・・・偽ソフィーの悪意に触れて・・眠っていた魔王の魂が起こされてしまったんだよ。」


そして全員を見渡すと言った。


「魔王に囚われたジェシカ様を助ける為に、皆の力が必要だ。どうか私たちと一緒に来てくれないかい?」


私の言葉にその場にいた全員が頷いたのは言うまでも無かった―。

















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