第8章 7 アカシック・レコードの在処
「エルヴィラ・・・。アカシックレコードのある場所へ行くにはどうしたらいいの?」
「はい、ハルカ様。まずは人間界と魔界の間に存在する『ワールズ・エンド』へ行きましょう。『ワールズ・エンド』には『神木』と呼ばれる尊い木が生えている丘があります。そこへ行くのです。そしてその木の前に魔法陣を描きます。その魔法陣の中心に座り、瞑想して下さい。深い瞑想に入り、トランス状態になった時に、アカシックレコードのある場所へ導かれます。」
「エルヴィラ・・・・。貴女も私と一緒に来てくれるの?」
するとエルヴィラは首を横に振って答えた。
「一つの魔法陣には・・・1人しか入る事が出来ないのです。そしてトランス状態中は肉体が完全に無防備な状態にさらされます。今・・『ワールズエンド』は門が破壊され・・いつ魔物が現れるか分からない危険に満ちた場所です。私は貴女の肉体が危険にさらされないように見張っております。今頃偽物ソフィーは「神木」を目指しているでしょう。ハルカ様・・・我々もすぐに行きましょう。出来れば・・ハルカ様。私以外にも誰か『ワールズ・エンド』へ連れて行きましょう。見張りは多ければ多いほど・・望ましいので。」
「うん。それじゃ、まずはアンジュたちの元へ戻りましょう?」
「はい、ハルカ様。」
そしてエルヴィラは私の手を取ると、一瞬で私達は元の場所へと戻っ来た。
するとそこにはアンジュ・テオ・フレアがソファに座っていた。
彼等は突然舞い戻って来た私達を見つめてい驚いている様子だったが・・・。
「ジェシカッ!良かった・・・。急に姿を消したから・・・心配したよっ!」
アンジュは私の姿を見るや否や、強く抱きしめてきた。
「ア、アンジュ・・・。」
私はアンジュの胸の中で彼の名前を呼ぶと、すぐ背後からテオの声が聞こえた。
「おい、ジェシカから離れろよっ!」
するとエルヴィラが言った。
「ジェシカ様、この方は如何でしょうか?」
「そうね、エルヴィラ。」
私は頷く。
「何?何の話だ?」
テオは首を捻りながら私とエルヴィラを見比べる。
「テオ、お願いがあるの。私と彼女と一緒に・・『ワールズ・エンド』へ行ってくれる?」
テオをじっと見つめながら言うと彼は頷いた。
「ああ。何処へでも行くよ。俺の居場所は・・・常にジェシカ、お前の隣なんだからな。」
「ありがとう・・・テオ。」
「ねえ。ジェシカ。僕は?僕の助けはいらないの?」
アンジュが名乗りを上げたが、エルヴィラが釘を刺した。
「駄目に決まってるだろう?貴方はここの世界の王なんだから勝手な真似をするんじゃないよ。」
「私も・・・何だか危険な香りがするからやめておくわ。第一魔力がもう無いから足手まといになるだけだし。何をするつもりか良く分からないけど・・ジェシカ。貴女の無事を祈っているわ。」
「・・・ありがとうございます。フレアさん。」
「では・・・ジェシカ様。ここから一気に『ワールズ・エンド』の神木の前まで飛びますよ。2人とも・・・目を閉じていて下さい。」
エルヴィラは私とテオの腕を掴むと、一気にその場所へ飛んだ―。
「目を開けて頂いて大丈夫ですよ。」
エルヴィラに言われて、恐る恐る目を開けると、そこには不思議な空間が広がっていた。
10m程先に青白く光り輝いた小高い丘が見える。そしてその丘の上には見事な大木が生えていた。まるで巨大な桜の木を思わせるような木は青白く発光し、キラキラと輝く光が木々から地面へ降り注いでいる。そこは・・・とても幻想的で・・美しい場所だった。
「ジェシカ様・・・・。」
エルヴィラが私を見た。
「あの木が・・・『神木』です。」
「よし、行こう。ジェシカ。」
テオが私の手を取り、3人で神木へ近付き・・・そこに3人の人影を発見した。
「「ジェシカッ!!」」
予想していた通り・・そこにいたのはアラン王子、デヴィット、そして・・マシューだった。
アラン王子とデヴィットは私の姿を見て、驚いた様に声を掛けるが・・・相も変わらずマシューだけは私をチラリと見ただけで・・無反応だった。
「ふん・・・。やはり・・すでに先客がいたようだね。」
エルヴィラは指さしながら言った。そして・・・その指さした方向には・・ソフィーが魔法陣の中心で横たわっていた。
「ジェシカ様・・・。まだソフィーは、瞑想中でトランス状態には入っていません。何とか間に合いそうですよ。」
エルヴィラは小声で私の耳元に囁く。
そしてエルヴィラは次に空中から杖を取り出すと、地面を一突きした。
すると途端に杖を中心に魔法陣が完成する。
「さあ、ジェシカ様。貴女もソフィーと同様に魔法陣の中心で横たわって下さい。」
エルヴィラに導かれて私は魔法陣の中心に立った時・・・。
「な・・何をするつもりだっ?ジェシカッ!!」
突如アラン王子が私に駆け寄って来ようとして・・・テオがアラン王子の前に立ち塞がった。
「何だ?ジェシカの邪魔をするつもりか?」
「違うっ!俺は・・ジェシカが心配になっただけだっ!」
「ああ・・・そうだ。ジェシカ。そこで何をするつもりかは分からないが・・何だかすごく嫌な予感がする。頼むからその魔法陣から出て来てくれ。そして・・もし許されるなら・・・もう一度お前の元へ戻らせて貰えないか・・・?」
デヴィットが右手を差し出しながら、悲し気に私を見つめる。
「ああ・・。俺も・・・頼む。もう一度、ジェシカ。お前の側に・・・・。」
今度はアラン王子まで私に訴えてくる。
「ふざけるなッ!お前達は・・・もうそこで眠っているソフィーの聖剣士なんだろう?彼女の護衛でここまで来ているんじゃないのか?!」
するとそれまで黙っていたマシューが静かに口を開いた。
「いや、違うよ。最初からソフィーの護衛にここまでついて来たのは俺だよ。後から俺がこの2人を呼んだんだよ。彼女が・・アカシック・レコードを手に入れて戻って来るまで。彼女の肉体を守るために・・・。」
「マシュー・・・。」
私はマシューの方を見た。
すると・・ソフィーを助け出した時以来・・初めてマシューが私を見つめた。
「ジェシカ・リッジウェイ・・・。アラン王子とデヴィットから聞いたよ。君と俺は相思相愛だったんだってね・・・?だけど、俺にはもう君を愛したという記憶が一切残っていないんだ。今の俺の心を占めているのは・・・ここにいるソフィー只1人。悪いけど・・・君を愛する事は・・この先も・・・ずっと来ない・・。だから俺の事は諦めてくれ。」
「おいっ?!マシューッ!貴様・・・何て事言うんだっ?!」
テオが憎々し気にマシューを睨み付ける。そして、何故かアラン王子も叫んだ。
「やめろっ!マシューッ!ジェシカを傷付けるのは・・・俺が許さないぞっ!!」
「ああ・・・そうだ。仮にも言っていい事と悪い事くらいは・・・区別がつくだろう?」
デヴィットも怒りを抑えた口調でマシューを見る。
「ジェシカ様・・・。心を乱されては駄目です。アカシックレコードに辿り着けません。」
少し前の私だったら・・・今のマシューの言葉で深く傷ついていただろう。だけど、今のではっきりと気が付いた。
「・・・可哀そうなマシュー・・・。貴方は・・・まだソフィーに囚われているのね・・・?ドミニク公爵と同じように・・・。だけどマシュー。安心して?私はもう貴方を愛してはいないし・・・二度と貴方を愛する事は無いから。この先もずっと・・・。」
そして笑みを浮かべてマシューを見つめる。
自分でも不思議だったが・・・今ではマシューに対する未練も残ってはいなかった。
「・・・・!!」
一瞬・・・マシューの顔が悲し気に・・・歪んで見えたのは気のせいなのだろうか?
私は魔法陣の上に横たわるとエルヴィラに尋ねた。
「エルヴィラ・・・この後はどうしたらいいの?」
「はい。ジェシカ様・・・。目を閉じて・・・アカシックレコードの事だけを考えてください・・・。もし・・成功すれば、目の前にドアが現れます。そしてそのドアを開けると・・そこは異次元の上も下も区別のつかない空間が広がっています。そこから先は・・・私にも何が起こるか分かりませんが・・・。」
突然そこでエルヴィラが言葉を切った。
「エルヴィラ・・・?」
「私は・・・必ずジェシカ様がアカシック・レコードを持って、ここに戻って来る事を信じますっ!!」
エルヴィラ・・・。
アラン王子達の喧騒には一切耳を傾けず、私は腕を胸の所で組むと、瞳を閉じて・・・アカシックレコードの事だけを瞑想した―。
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