第6章 13 仮面の秘密

 私が鉄仮面剣士と2人で門の見張りをすると言うと、デヴィットやアラン王子、ダニエル先輩から果てはヴォルフまでもがそれなら私と一緒に門の見張りをすると言い出したのを何とか説得し、代わりに破壊された門はどうすれば元通りに戻せるのか方法を全員で手分けして調べて貰うようにお願いすると、ようやく彼等は納得し、その場を引いてくれた。


 そして日が暮れ・・・今私は仮面の剣士と2人で焚火の前に座っている。

鉄仮面の聖剣士と門の見張りをする事になったけれども・・・・。


「申し訳ございません。一緒に門の見張りをするなんて言いましたけど、私は魔法も剣も一切使えず、単なる役立たずのお荷物かもしれませんが・・・。」


私は仮面の剣士に言った。


「せめて、火の番と・・・寝ずの番はしますので。どうぞお休みになって下さい。」


しかし仮面剣士は首を振ると、木の幹に寄りかかり、黙って木の枝を折って火にくべている。

なんか・・・不思議な感覚だ。彼は一切口を開く事が無いので、会話はいつも私だけ一方通行。沈黙の時間も長いのに、ちっともそれが苦では無い。

側にいるだけで安心感も与えてくれる、そんな不思議な感覚に囚われる。


暫く黙って炎を見つめていると、不意に彼が立ちあがった。


「あ、あの・・何処へ行くんですか?」


すると彼はジェスチャーで私に残るように身振り手振りをする。

「あの・・・ここで待っていればいいんですか?」

私が尋ねると、彼は頷いて森の奥へと入っていく。私は焚火に手をかざすと・・いつの間にかウトウトし始め・・・ついには眠りに就いてしまった・・・。


ああ・・・寒い。

身を縮こませていると、不意に周囲が温かくなるのを感じる。

その時、遠くでオオカミの遠吠えが聞こえた。え?オオカミッ?!

慌てて飛び起きると、私の身体の上に毛布が掛けられており、すぐ側では彼が私を見下ろしていた。


「あ・・・す、すみません。寝ずの番をしますなんて言っておきながら・・。」

慌てて起き上がろうとする、彼はそれを手で制し、私に横になるようにジェスチャーで訴えて来た。そして彼はそっと髪の毛に触れて来た。


「・・・・。」

彼は私を見下ろしながら、黙って頭を撫でている。まるでもっと休んでいろと言ってる様に・・・。


「貴方は・・・誰ですか?」

彼が答えないのは知っていたけれども・・・尋ねてみた。

しかし、彼は何も答えない。いや・・・もしかすると言葉を話す事が出来ないのかもしれない。それなら・・・。


「あの・・・言葉を話せないなら・・・筆談しませんか?」

私は起き上がると、持っていた自分のリュックからメモ帳とペンを取り出し、彼に手渡した。


「・・・。」


それを黙って受け取る仮面の剣士。


「それじゃ私が質問するので、その紙に書いて下さいね。」


彼は困った素振りを見せていたが・・・やがて頷いてくれた。よし、これで質問すれば、少しはこの相手の事が分かるかもしれない。


「ええと・・・まずは貴方のお名前を教えて下さい。」


すると彼は首をかしげて・・・紙に何か書き始めた。


『分からない』


え・・・分からない・・・?


「ま、まさか記憶喪失ですか・・・?」


しかし彼は首を振り、先程書いた文字を指さす。


「記憶喪失かどうかも分からないのですか・・・。」

う~ん・・・・困ったなあ。これでは何を聞いても分からないの答えしか返って来ない。よし、少し質問の内容を変えてみようかな。


「貴方は・・・この学院の聖剣士・・ですか?」


すると今度は彼は何か文字を書き始めた。


『多分、そう。』


「それでは・・・ソフィーに忠誠を誓った聖剣士ですか?」


『それは違う』


彼は書いたメモを渡してきた。ソフィーの聖剣士では無い・・・?


「貴女は・・・ソフィーの事を信頼していますか?」

暫く彼は何か考え事をしていたが・・・やがて何か書き始めた。


『信頼はしていない。だが、命令には逆らえなかった。』


命令・・・まさか・・・この人も公爵のように・・暗示にかけられている・・・?

いや、それ以前に私が一番気になるのは・・何故、この聖剣士だけが鉄仮面を被っているか・・・。

ま、まさかこの人は・・・?


「か、仮面を・・・仮面を外して下さいッ!!」


気が付けば私は彼の仮面に手を伸ばしていた。しかし・・・。彼は激しく首を振ると抵抗する。

そして・・・


「う・・・。」


急に唸りだすと、仮面の下からポタポタと血が垂れて来た。


「っ!」

ま、まさか・・・。


彼は苦しそうに唸ると地面に倒れてしまい、荒い呼吸を吐いている。


「も・・・もしかすると・・・その仮面・・外せないんですか・・・?」


地面に倒れ込んだ彼に尋ねると、首を縦に振る。


「無理に外そうとすると・・今みたいな事になると・・・?」


またしても彼は肯定した。仮面の下からは血が滲み、彼の来ている聖剣士の服を血で濡らしていた。


「ご・・・ごめんなさい・・・。わ、私・・・何も・・知らなくて・・・。」


倒れている彼の側に座ると私は涙を流して謝った。そんな私を彼は・・・苦しいはずなのに手を伸ばして、そっと頭を撫でて来る。まるで・・慰めているかのように。


「ごめんなさい、もう・・仮面を外して下さいなんて言いません。貴方が苦しむなら・・・質問するのもやめにします。だから・・・早くその痛みから解放されますように・・・。」


私は・・・彼が起き上がれるようになるまで彼の右手をずっと両手で握り締め続けていた—。


 1時間後・・・ようやく起き上がれるようになった彼は自分の方から少しずつ筆談で今の自分の状況を書き始めた。

今彼自身が理解出来るのは、この鉄仮面を被っていると不思議な事に飢えも喉の渇きも全く感じないと言う事、そして外そうとすると、仮面が頭部を締め付け、激痛を伴うと言う事。また、ソフィーの言いつけに背いても同じ現象が自分の身に起きると言う事・・・。更に言葉を話す事も出来なくなったと彼は教えてくれた。

彼の話曰く、ある時気が付いてみると自分は仮面を被らされ、それまでの自分の記憶を一切失っていたという事だった。


・・・私の中では、ひょっとするとこの人物はマシューなのでは無いかと思っていたのだが・・・これでは全く確認のしようが無い。彼は・・・マシューかもしれないし、もしかするとレオの可能性だってある。もしくは私が全く知らない人物の可能性だって・・・。

彼は筆談で語ってくれた。ソフィーがこの仮面を付けると自分の力を何倍にも高めてくれるので、せいぜい自分の役に立つように言われたそうだが・・・。どうしても自分はソフィーの言いなりになるのが嫌で、ずっと抵抗し続け、その度に仮面によって苦しめられ・・そんな自分をいつも助けてくれていたのが、ソフィーによって囚われていたある女性だと言う事を教えてくれた。


え・・・?ソフィーに捕らえられている女性・・・ま、まさか・・・。


「あ、あの・・・!その女性と言うのは・・・『アメリア』という名前では無いですか?!」


しかし、彼は首を振ってメモを書いてよこした。


『名前は知らない』


「そ・・・それじゃ・・・眼鏡・・・眼鏡はかけていませんでした?髪の色は・・・私の色よりは濃くて・・・髪の毛はおさげにしていて・・・。」


すると、それを黙って聞いていた彼は・・・頷いた。

間違いない・・・っ!ソフィーに捕らえられ・・・鉄仮面によって苦しんでいた彼を助けていた人物は・・・アメリアだ。ついに・・アメリアの情報を手に入れる事が出来た。

私は夢の内容を思い出していた。夢の中で私は・・・鍵を握り締め、誰かを助け出していた。

あの人物は・・・アメリアだったんだ―。














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