第6章 12 謎の聖剣士
それから約1時間後・・・。
デヴィットとアラン王子が気落ちした様子で『ワールズ・エンド』へ戻ってきた。
「あ~あ・・・・。見てごらんよ、あの2人の様子・・・。きっと全員から協力を断わられたんじゃ無いかな?」
ダニエル先輩が妙に冷静な声で言う。
「ああ・・・。確かにそんな気がする。まあ・・・誰だって命が惜しいからな。無理も無いだろう。」
ヴォルフの言う事も最もだ。誰だって命は惜しい。今まで彼等が門を守っていたのはそこに魔物が現れなかったからだ。だからこそ・・いつ魔物が出現してもおかしくない世界に変わってしまった場所で・・・見張りなどやりたくは無いだろう。第一彼等はいくら『聖剣士』だと言っても、所詮は・・・まだ学生なのだから。
私達の元へ着くと、デヴィットが口を開いた。
「皆・・・すまなかった。必死で頼んでは見たのだが・・・誰も首を縦に振ってはくれなかったんだ・・・。これも俺の人徳不足だ。」
デヴィットは頭を下げた。
いやいや・・・それ以前に、デヴィット。貴方は聖剣士に選ばれたにも関わらず、聖女ソフィーに忠誠を誓わず・・あ、これは誓わなくて正解だったか。第一、聖剣士の訓練に一度も参加した事が無いのだから。誰も信頼なんかしないだろう。それなのに・・・聖剣士の姿で皆の前に現れて、説得しようって方がそもそも無茶だと思うのだけど・・・。でもその無茶ぶりをお願いしたのは私なのだ。
「くっそ~・・・・。あいつ等・・・この俺が王子なのを知っていてあんな態度を取るなんて・・・。こうなったら俺の国から兵を呼び寄せて、あいつ等を脅して無理や見張りをさせるしか無いか・・・。」
あのですね、アラン王子。初めから兵を呼べるのであれば、何も聖剣士達を脅すのに兵を使わないで、この場所で、門を見張って貰うのが一番効率的だと思いますけど?
とはいうものの・・・とても2人に今の私の考えを告げる事は出来なかった・・。
「ねえ、そう言えばさあ・・・ノアにグレイ・ルークは今どうしてるのさ?」
ダニエル先輩が何かを思い出したかのようにアラン王子とデヴィットに尋ねた。
「ああ。グレイとルークは町に魔物が現れても対処出来るように学院と町を繋ぐ門の前で待機している。ノアは学院の門を守っているんだ。」
「ふ~ん。そうなんだ。それじゃ後でノアと役割分担交換してこようかな。」
「うん・・・。ところであの男・・・。」
不意にヴォルフが背後を振り返った。
「え?」
私もヴォルフと同じように振り返り、息を飲んだ。なんとそこにはあの鉄仮面の人物が私達の方を見つめて離れた場所で立っていたのだ。しかも驚いたことに彼は聖剣士の姿をしている。
「ああっ!あの男は・・・!」
ダニエル先輩が声を上げた。
「うるさいっ!ダニエル!お前はまた女みたいな声をあげて・・・っ!」
デヴィットがダニエル先輩に文句を言う。う~ん・・どうやってもデヴィットはダニエル先輩を女性のように仕立てたいようだ。別に私から言わせるとダニエル先輩の今の声だって、全然女性らしくは感じなかったのだが・・・デヴィットにはそうきこえたのだろうか?
「何だよっ!今の声の何処が女みたいなんだよっ!君はどうやっても僕を女の様な男にしたいみたいだなっ!」
・・・案の定、ダニエル先輩がデヴィットに文句を言う。いやいや、そんな事より、彼だ。あの鉄仮面の男性は・・・聖剣士だったのか・・・。てっきり聖剣士はデヴィットとアラン王子以外は・・・全員私の敵だと思っていたが、彼は私によくしてれた。聖剣士の中には・・そういう人物もいるのだろうか?
だけど・・何故かあの聖剣士を見ていると、心がざわつく。
「お、おい・・・・。何であの聖剣士はこっちを見ているんだ・・・・?ひょっとすると俺達を狙っているのか・・・?」
妙に怯えた様子のアラン王子に私は尋ねた。
「どうしたのですか?アラン王子。彼は・・・すごくいい人ですよ?」
「な・・何っ?!ジェシカッ!お前・・・あいつを知っているのか?!」
アラン王子が私の肩をガシイッと掴むと凄い形相で言った。
「おい、俺もそんな話は初耳だぞ?どう言う事だ?!」
デヴィットも驚ている。
「ジェシカ・・・あいつはね、君を探しに神殿に行った時に僕たちを襲って来た聖剣士の1人なんだよ。・・・とにかく滅茶苦茶に強かった・・・。」
ダニエル先輩は顔を青ざめさせながら言う。
「ああ・・確かに・・・何かあいつからは只物は無い気配が漂っているな・・・。魔族の俺には良く分かる。」
ヴォルフまで妙な事を言い出した。
「で、でも・・・本当に彼は親切でしたよ。私が監獄塔に入れられた時も食事を持って来てくれたり、嵐の晩は・・私の様子を見に来てくれたので。」
「何いッ?!ジェシカ・・お、お前・・・牢屋に閉じ込められたのか?!」
アラン王子が掴んでいた私の両肩に力を入れた。い・・・痛いんですねど・・。
「ま・・・まさかあのドミニクに入れられたのかっ?!くっそ・・よくも俺のジェシカを・・・っ!」
「おい、何だ。俺のジェシカって・・・・。それよりもジェシカ・・・お前、また牢屋に入れられてしまったのか?」
「ちょっとっ!ヴォルフッ!またって・・・一体どう言う意味なのさ?まさか魔界でジェシカを牢屋に閉じ込めたりなんかしていないよねえっ?!」
男4人は・・・私をそっちのけで言い合いを始めてしまった。
全く・・・この世界の男性陣は口論するのが好きだなあ・・・。そんな彼等を放っておいて私は鉄仮面を被った彼の元へと足を向けた。
鉄仮面の聖剣士は私が近寄ると、何故かビクリと肩を震わせた。・・?
「あの・・・この間は色々お世話になりました。」
改めて頭を下げる。
「・・・・。」
仮面の聖剣士はやはり無言のままだ。
「後・・・、折角私を心配して嵐の晩に監獄塔に来て頂いたのに・・・あんな・・追い返すような真似をして・・すみませんでした。」
すると彼は視線をサッと逸らせた。
・・多分・・あの後何が私と公爵の間で行われたのか・・・気付いているのだろう。
私は続けた。
「こちらに・・・来て頂いたと言う事は・・・この場所で見張りをして頂けると・・・解釈しても宜しいのでしょうか?」
すると黙って頷く聖剣士。
「本当ですか?どうも有難うございます。あ、そう言えば自己紹介が未だでしたね。私は・・ジェシカ・リッジウェイと申します。よろしくおねが・・・。」
そこまで言いかけた時・・・突然聖剣士が私の右腕を掴んで引き寄せると強く抱きしめて来た。
え・・?
その聖剣士は身体が震えている。・・・一体どうしたというのだろう?
「あ、あの・・・。」
私が言いかけた時、男性陣から叫び声が上がった。
「あ・・・っ!貴様・・・ジェシカに何をやってるんだっ!」
デヴィットが叫んで駆け寄って来ると聖剣士から私をもぎ取ると憎悪の込めた目で睨み付けた。そして後から駆けつけて来たアラン王子やダニエル先輩も2人とも睨み付けている。
ただ一人・・・ヴォルフを除いては。
何故か・・・ヴォルフだけは首を捻ってじっと聖剣士を見つめている。
「デヴィットさん、お話したい事があるので離してくださいっ!」
私が言うと、不承不承デヴィットは身体を離した。
「あの、こちらの聖剣士様がここで魔物の見張りをして下さるそうです。良かったですね。」
「「「「・・・・。」」」」
なのに全員返事をしない。
「あの・・・?どうかしましたか?」
「俺は反対だ。」
デヴィット。
「ああ、俺も反対だな。」
アラン王子。
「彼には命を狙われたからね・・・。」
ダニエル先輩。
「何だか、その男から怪しい雰囲気を感じるぞ?」
ヴォルフまで・・・。
「な・・何言ってるんですか?皆さん。今は・・一人でも多くの見張りをして下さる方が必要なんですよ?」
「そんな事を言っても・・俺はその聖剣士と一緒に見張りなんかしたく無いからな。」
デヴィットが腕を組みながら言う。
「ああ、俺も・・何故か知らないが、虫が好かない。」
「ア、アラン王子っ?!」
何て大人げない事を・・・。
「うん、僕も・・何だかこの聖剣士は・・うまく言えないけど・・嫌だよ。」
「その男・・・強いんだろう?だったら今から半日交代でその男1人で見張って貰ったらどうだ?」
ヴォルフがとんでもないことを言う。
「「「ああ、それがいい。」」」
何故かそれに賛同する3人。
「な・・・何て事言うんです?!・・・。分かりました。それなら私がこちらの方と一緒に番をします。」
私が言うと、全員がギョッとした顔をする。
「駄目だっ!駄目に決まっているだろう!危険過ぎるッ!」
デヴィット。
「そうだ!絶対に認めないぞっ!」
アラン王子。
ダニエル先輩もヴォルフも続いて反対したのだが・・・結局どうしても反対するならもう貴方達とは口を聞きませんと言ったら、全員がようやく納得してくれた。
こうして私は、この鉄仮面の聖剣士と半日の間、一緒に門の見張りをする事が決まっ
たのだった―。
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