第6章 11 これから先の事
大勢の聖剣士や学生達が魔物達の群れと戦っている最中、私とダニエル先輩を乗せた巨大なオオカミが現れると、途端に悲鳴が沸き起こった。
「うわああっ!また・・・新たな魔物がっ!」
「くそっ!こいつ等だけで精一杯だって言うのにっ!」
私達を敵と勘違いする人々が騒ぎ始めた。
<チッ・・面倒な・・・!おい!そこにいる人間共っ!俺はお前達の加勢に来たんだっ!全員耳を塞げッ!>
頭の中に直接話しかけて来るヴォルフの思念に皆は驚愕した。
「なんだっ?!魔物が頭の中で話しかけてきたぞっ?!」
「て・・敵じゃ無いのか?!」
聖剣士と学生達は半分パニックになっている。そこへデヴィットとアラン王子が叫んだ。
「大丈夫だ!あの魔物は俺達の味方だっ!」
「言う通りに両耳を塞げッ!」
デヴィットとアラン王子の言葉に従い、その場にいた全員が耳を塞ぐ。
それを見届けたヴォルフが咆哮を上げた。
すると凄まじい衝撃波が起こり、知性の低い魔物達が次々と倒れ、その姿が灰になって崩れていく。
何とヴォルフはたった1度の咆哮で、その場にいた魔物の群れを一掃してしまったのだ。
「すごい!ヴォルフ・・・。やっぱり貴方は頼りになるのね。」
私が感心して拍手をすると、ヴォルフは言った。
<ああ、そうだ。ジェシカ。俺は頼り甲斐があるだろう?だから選ぶなら俺にしておけよ。>
またまた本気なのか冗談なのか、ヴォルフが妙な事を言った。
そしてそれを聞いたデヴィット達がまた騒ぐ。
「おい!ふざけるなッ!ジェシカは俺の聖女だぞっ?!」
「違うっ!俺の后になるんだっ!」
「僕の領地に来るんだってばっ!」
そしてこの非常事態に再び彼等は口論を始める。ヤレヤレ・・・。
そんな私達の様子を遠巻きに眺めていた聖剣士や学生達は怪我の治療や、身体を休めたい等との理由で全員神殿に戻り、残されたのは私達のみとなった。
オオカミの姿から元の魔族の姿へ戻ったヴォルフが言った。
「・・・どうする?今のところ・・人間界へ現れた第1階層の魔族達は多分・・・一掃したと思うが、こんなに門が破壊されてしまっては・・・。封印する事なんか出来ないぞ。それにまたいつ魔物の群れが出現するかもしれない。」
「交代でこの門を見張るしか無いんじゃ無いの?魔物が現れたらまた倒すしかなでしょう?」
ダニエル先輩が言う。
「いや、しかしそれではキリがないだろう。根本的解決には至っていない。」
デヴィットが言う。
「そうだな・・・。この門をもう一度元の姿に戻して、完全に門を閉ざさなければ・・・意味が無い。」
アラン王子が腕組みをしながら言う。
「だ、だけど・・・こんなに大きな門を・・・作り直すなんて。大体・・どうすればこの門を作る事が出来るのですか?」
・・・情けない事にこの小説の原作者である私が・・・何の解決策も見いだせないなんて・・・ッ!」
「俺が・・・第一階層で・・あいつらが人間界へ出てかないように見張れればいいのだが・・・。」
ヴォルフの言葉を私は遮った。
「駄目よっ!ヴォルフッ!貴方はもう魔界へ戻らないでっ!だ、だって・・・もし魔界へ戻ったら・・・今度こそ・・命を狙われてしまうに決まってるっ!死んで欲しくないのよ・・・。ヴォルフ・・・。」
思わず涙ぐんでしまった。
「ジェシカ・・・。そうだったのか?お前はやっぱりそこまで俺の事を思って・・・?」
ヴォルフは嬉しそうに笑うと、突然私をきつく抱きしめて来た。
「「「おいっ!ジェシカから手を離せっ!」」」
デヴィット達が同時に叫ぶ。
「おい、ジェシカは俺の聖女だ。お前などにはやらないぞっ!」
デヴィットがヴォルフを指さしながら怒鳴る。
「いーや、違うっ!ジェシカは俺の国へ来るんだっ!」
「来るのは僕の領地だよっ!!」
「駄目だっ!ジェシカは誰にもやらないっ!」
とうとうヴォルフまで参戦してきて口論が始まる。う・・。こんな事してる場合じゃないのに・・・。
「皆さんっ!落ち着いて下さいッ!」
我慢できずに私は叫んだ。途端に静かになる4人。
「いいですか?今考えなくてはならない事は、どうすればこの門を修復し、元の姿に戻して門を閉じるかと言う事なのでは無いですか?仲たがいしている場合ではありませんよ?」
「「「「・・・・。」」」」
全員が私の言葉にシンとなる。
「兎に角・・今はいつまた他の魔物達が現れるか分からないので、ここで常に見張りを立てておかなければなりません。デヴィットさん、アラン王子。」
私は2人に声を掛けた。
「何だ、ジェシカ?」
デヴィットが返事をする。
「・・・申し訳ありませんが・・・聖剣士の方々に引き続きこの門の見張りを交代で行って頂けないか・・・お願いして頂けないでしょうか?」
「あ、ああ・・・。そうだな。よし、王子の俺が言うんだ。断る輩なんているはずが無いだろう。それじゃ早速あいつらを説得に行くぞ、デヴィット。」
「フン、いくらお前が王子でも・・・果たしてこんな状況の門の番をするような奴が出て来るとは思えないが・・・・。」
デヴィットはそこまで言うと私の方を向き、大股で近付いてくるとピタリと足を止めた。
「な、何でしょうか・・・?デヴィットさん・・・・?」
「他なるお前の頼みだ。何とか他の連中を説得してくるからな?期待して待っていてくれ、ジェシカ。」
私の両手を握りしめるとデヴィットは言った。
「フン、何だよ。カッコつけちゃってさ・・・。」
ダニエル先輩は珍しく剣の手入れをしながら冷たい視線でデヴィットに言った。
「うるさい、ダニエル。お前はそこで門番をしていろ。・・・せいぜい魔物にやられないようにな。」
不敵な笑みを浮かべるとデヴィットはアラン王子の後を追って神殿へと向かった。
『ワールズ・エンド』に残された私とダニエル先輩、ヴォルフは破壊されつくした門を見上げた。
「・・・それにしても信じられないよ。・・・まさか封印の門が・・・破壊されてしまうなんて・・・。」
ダニエル先輩がポツリと言う。
「そう言えば・・・ヴォルフ。フレアさんは・・・どうしたの?」
するとヴォルフが何か歯切れが悪そうに言う。
「い、いや・・・。実は・・フ、フレアは・・・。」
「・・・?」
何だろう?ヴォルフの様子がおかしい。
「どうしたのさ?言いたい事があるならはっきり言ったら?」
ダニエル先輩がヴォルフに言う。
「わ・・・分かった。正直に言うよ・・・。実はフレアのお腹の中に・・こ、子供がいて・・・。」
ヴォルフの言葉に私は目を見開いた。
「え・・ええええっ?!フ、フレアさん・・・あ、赤ちゃんが出来たの?!」
「あ、ああ・・・。そうなんだ。」
ヴォルフは尚も言い淀む。
「ふ~ん・・。それで父親は・・・君なの?」
ダニエル先輩は言う。
「えっ?!」
「ほ、本当なの?ヴォルフッ!」
嘘ッ!そんないつの間に・・・っ!
「違うっ!父親は俺じゃないっ!」
ヴォルフは喚く。
「え・・・?そ、それじゃ・・・まかさ・・・?」
私は声を震わせながら尋ねた。
「ああ・・・。父親は・・・ノアだ。」
ヴォルフの発言に一番驚いたのはダニエル先輩だ。
「う・・・・嘘だろうっ?!ノ・・ノアが・・魔族の女と?!そ、そんな・・・信じられないよ・・・。」
何故か腰を抜かしてしまうダニエル先輩。・・・どうしてそこまでショックを受けるのだろうか?もともとノア先輩は魔界にいた時にフレアにプロポーズをしている訳だし・・・・。
「お腹の中に赤ちゃんがいるなら、人間界へ来るのは無理だったかもね。でも・・ここにヴォルフが来れたって言う事は・・・呪いが解けたって事よね?・・良かった・・・。」
私が涙を浮かべながら言うと、ヴォルフは何故か曖昧な笑みを浮かべて笑うのだった・・・。
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