※第6章 4 ソフィーとの謁見 ※大人向表現強め

 翌朝—。

私は公爵の腕の中で目が覚めた。

するとすでに公爵は起きていたのか、私の顔をじっとベッドの中で見つめている。

昨夜も私と公爵は聖女と聖剣士として一緒に過ごせる最後の夜になるだろうと言う事で絆を強める為・・・公爵に抱かれたのだ。


「ド、ドミニク様・・・お、起きていたのですか?」


「ああ・・・。少し前に目が覚めた。それで・・・すぐ側でジェシカが眠っていたから、その寝顔があまりに愛しくて・・見つめていたんだ。俺は・・今すごく幸せを感じているよ。」


そして笑みを浮かべる。

そ、そんな美しい顔で、そういう台詞を言うなんて・・・は、反則だ。私は思わず枕に顔を埋めた。


「どうした?ジェシカ・・・。何故顔を隠すんだ?」


公爵は尋ねて来た。


「は・・恥ずかしいから・・・です・・・。」


思わず消え入りそうな声になってしまった。


「ジェシカ・・・。」


公爵が私の耳元で名前を呼んだ。


名前を呼ばれて顔を上げると、公爵は口付けをしてきた。やがて、その口付けはますます深いものになり・・・。公爵から漂って来た魔族の香りに魅了され、気付けば私は公爵の首に腕を回し、自分から求めていた・・・。



 ・・・公爵の側にいると自分がおかしくなってしまうのが良く分かった。

何故なのか分からないが、私がこの世界に戻ってから・・・公爵が時々魔族特有の香りを見に纏うようになってきたのが原因だ。

魔族特有の香り・・・それは甘く、まるで媚薬のように・・嗅いでいると頭がぼんやりしてきて訳が分からなくなってくる。

どうして公爵・・・貴方から魔族の香りを感じるの・・・?どうして私はこの香りに魅せれてしまうの・・・?


そして公爵の香りに酔わされ・・・

最後に一度だけ私達は情を交わした—。

合間に公爵は途切れ途切れに囁いた。私の事を愛していると、そして必ず私を守るからと・・・。



その後・・・公爵は私を連れて、ソフィーのいる神殿へと向かった―。



 今、私は両手を前に縛られた状態でソフィーの前に立たされている。

ソフィーはまるで玉座のような立派な椅子に座り、真っ白なドレスに身を包んで足を組みながら私を見下ろしている。


私の隣に立つ公爵は冷たい瞳を湛えたまま、ソフィーに言った。


「ソフィー。ようやく・・・ジェシカを見つけて捕らえる事が出来た。・・・待たせて本当にすまなかった。」


そして恭しく頭を下げる。


「ふん・・・。本当に・・・今まで何をしていたのかしら・・・?でも、まあいいわ。ようやくこの女の魔力を奪う事が出来るのだから。」


そしてソフィーは公爵をじろりと睨みつけると言った。


「ドミニクッ!!貴方は外に出ていなさいっ!!この女と二人きりで話したい事があるから。」

ソフィーは吐き捨てるように言うと、私の方を見た。


「ああ、分かった。」


そして公爵はチラリと一瞬だけ私を見ると、部屋を後にし、私とソフィーだけがこの広間に残された。

きっと・・・大丈夫。だって私と公爵の間は聖女と聖剣士の強い絆があるのだから・・・。無意識のうちに私は左腕をギュッと握りしめていた。


 

公爵が出て行くと、ソフィーがすぐに話しかけて来た。

「ジェシカ、貴女の愛しいナイト達は一体今何処にいるのかしら?可哀そうにねえ・・・。こうして私に捕らえられてしまったと言うのに・・誰一人として貴女を助けに来ないのだから」

妖艶な笑みを浮かべながら、ソフィーはあろう事かサイドテーブルに手を伸ばし、大きなグラスにワインを注ぐとゆっくりと回して香りを堪能しながら・・・ゴクリと白い喉を鳴らして飲み干した。

う、嘘でしょう・・・・?

その光景を目の当たりにした私は我が目を疑った。

・・・信じられなかった。あまりのソフィーの変貌ぶりに私は言葉を失ってしまった。

出会ったばかりの頃はまだ愛らしい美少女のイメージだったのに、今はまるで物語に登場する悪い魔女のようだった。でも・・・・ここまで来たなら、私には聞かなくてはならない事かある・・・っ!けれど今は・・・様子をうかがう為に代わりの質問をしてみよう。

「ナイト達というのは誰の事をさしているの?」

私は思い切って尋ねてみた。するとソフィーが激項した。


「惚けないで頂戴!お前はね・・・私が本来手に入れるべき者をすべて脇から泥棒の如く奪って行ったのよっ!!アラン王子、ノア、ダニエル、そして私に関わる全ての男達を・・・っ!!この・・・悪女のくせにっ!!」

言うと、空になったグラスを私に投げつけて来た。

「!!」

咄嗟に避けると、グラスは私の足元の床に当たり、派手な音を立てて割れる。

な・・何て乱暴な・・・・。

ソフィーのあまりの迫力に思わず後ずさりする私。一体彼女は何を言いたいのだろうか?

本来手に入れるべき男性?今ソフィーが名前をあげた彼等は私の書いた小説のメインヒーロー達。彼等は皆ソフィーに恋する。そしてソフィーは私を悪女と呼んだ。それはまさしく、本物のジェシカ・リッジウェイの事を指しているのだ。


「でも、何でこんな事になってしまったのかはちゃんと私には分かってる。だってねえ・・・本来ソフィーが持つべき『魅了』の魔力を、何故か悪女の貴女が持ってしまったんだものねえ・・・?」


ソフィーは自分の事なのに・・・何処か他人事のような口ぶりで話す。その目は私を見つめているようで、本当はずっと遠くを見ている視線だった。


「ソフィー・・・。アメリアさんは・・・アメリアさんは・・・何処にいるの・・?」


私はソフィーから視線を逸らさずに尋ねた。


「アメリア・・・?誰、そんな女知らないわよ。」


ソフィーは玉座に寄りかかるとフイと視線を逸らせた。


「な・・・・何を言ってるの?アメリアさんは・・・・かつては貴女のお友達だった女性じゃ無いの?でも途中から・・・何故か貴女とアメリアさんは主従関係のようになってしまったみたいだけど・・・?」


「だからあ・・・・誰よ、アメリアって・・・。」


ソフィーは酔いが回っているのか、目が座っている。


「と・・・とぼけないで。眼鏡をかけて、髪を御下げに結わえていた女性よ。知らないはずないでしょう?」


おかしい。魔界に行ったジェシカの記憶は残っていたのに、アメリアについての記憶を無くすとは・・とても考えられない話だ。


「あ・・・ああ・・・。思い出したわっ!そっか・・取り合えず名前を付けなくちゃいけないと思ったから、適当に開いた本のページの中から抜粋して、名前を作ったんだっけ・・・。すっかり忘れていたわ。」


え・・・?アメリアに名前を付けなくてはいけなかったから・・・適当に開いた本のページから選んだ・・?ソフィーが何を言っているのか、良く分からないが・・取りあえず確実に分かった事・・・それはアメリアと言う名前はでたらめだったと言う事。

そ、それじゃ・・・彼女の本当の名前は・・?

そう言えば、最初にアメリアが夢に出てきた時・・・彼女は『私の名前を呼んで』と訴えて来ていた。


「ソフィー。それじゃ・・・アメリアの本当の名前は何?彼女の正体は何?貴女なら・・・全て知っているんでしょう?」


「フンッ!例え知っているとして・・・私があの子の名前をお前に教えるとでも思っていたの?いい事?絶対に・・・ジェシカ。お前にだけは『真名』を教えないわ・・。そんなに知りたければ・・自分で調べる事ね。」


そしてソフィーは立ち上がると声を張り上げた。



「今から・・ここにいる稀代の悪女『ジェシカ・リッジウェイ』を裁きにかける事にするっ!直ちに裁判の準備を始めなさいっ!!」



「!!」


すると、突然広間の奥から数名のソフィー付きの兵士が現れ、無言で私を取り囲むと、1人の兵士がいきなり腕ごとロ―プで縛り上げて来た。

身体の自由をすっかり奪われた私を見てソフィーは高らかに笑うと言った。


「さあ!魔界の門の封印を解き・・・私達の世界から太陽と星々を奪った大罪人・・ジェシカ・リッジウェイをついに裁く日がやってきたわっ!!」


そして呆然としている私をソフィーは見つめると、不敵に笑みを浮かべた—・



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