※ドミニク・テレステオ ③  ※大人向表現強め

「ジェシカ・・・一体何処へ行くつもりだ?」


背後から彼女を抱きしめ、柔らかくて甘い香りのするジェシカの髪に顔を埋めるようにして俺は囁いた。

ジェシカは息をひそめ、身体を強張らせている。何故だ・・・?ベッドの中では完全に俺に身体を委ねてくれたのに・・・?


「頼む・・・から・・・何処にも行かないでくれ・・・。」

気が付けば・・・ジェシカに縋りついている自分がいた。


「ド・・ドミニク様・・・・。い、今は・・・正気・・なのですか・・・・?」


「ああ・・・。ずっと・・ずっと正気を保っている。森の中でお前から俺に抱き付いて来たあの時からずっと・・・。」

俺は答えながら思った。

何故だ?ジェシカ・・・。どうして今はそんなに・・・震えているのだ?どちらが本当のお前の姿なのだ?


「あ、あの時の事は忘れてくださいっ!ど、どうかしていたんですっ!」


ジェシカは背中を向けたまま答えるが・・・彼女の耳が真っ赤に染まっているのを見逃さなかった。ジェシカ・・・・もしかして・・恥ずかしがっているのか?それなら・・・。

「あんなに積極的だったのに・・?俺は・・・正直に言うとすごく・・・嬉しかった。お前の方から俺に身体を委ねてきてくれたのだから・・・。」

ジェシカが赤面しそうな話をわざと彼女の耳元で囁くように言う。さあ・・ジェシカ。どうする・・・?だが、ジェシカの口から出てきた言葉は俺の期待を裏切る内容だった。


「ほ・・・本当に・・・ずっとドミニク様はあれからソフィーに・・支配されていないのですか・・・?」


「ああ、そうだ。何故かジェシカ・・・。お前といるとソフィーの呪縛を受け付けない様なんだ。だからお前との事は全て覚えている。お前と何度も愛を交わした事も・・。お前の寝顔も全て・・・。」


愛を交わした事・・・そこをわざと強調するようにジェシカに話す。

そしてジェシカは俺の右腕が光り輝いている事に気が付くと、なんとノアを返し、自分を見逃してくれと俺に頼んで来るでは無いか。


ジェシカ・・。あんなに何度も俺達は抱き合ったのに・・・この俺から逃げたいと言うのか?お前は俺を・・・どう思っているのだ?!


「駄目だ・・・。」


「え?」


「もう、俺は・・・お前を手放すなんて出来ないっ!」

そうだ。ジェシカ。俺は・・・もうお前がいないと生きていけない位に・・お前の事を愛しているんだっ!

俺はジェシカの顎を掴み、強引に自分の方を向かせると乱暴に唇を奪った。

それと同時に自分の中から得体の知れない力が一瞬ゾワリと蠢く気配を感じた。

一体・・今のは何だったのだ?


「行くな・・。頼む、行かないでくれ・・・。お前に去られたら・・俺はもうおしまいだ・・・。あっという間にソフィーの手に堕ちてしまう・・・。」


ジェシカを強く抱きしめ、唇に吸い付きながらその合間合間に俺は暗示をかけるように彼女に囁いていく。すると徐々にジェシカの身体から力が抜けていき・・・。


ドオオオオオオッンッ!!


巨大な爆発音が鳴り響き、城がビリビリと震えた。


その衝撃に俺もジェシカも同時に我に返る。


「何処だっ!ジェシカッ!!」


男の声がその刹那、城の外で響き渡った。ついに・・ジェシカを取りもどす為にこの城へやってきたか—!


しかし・・・。

「チッ!城にかけていた・・・封印が解けたか・・・。」

思わず口走っていた。こんな事ならもっと時間をかけてでも強力な封印をしておけば良かった。

だが・・今腕の中にいるジェシカだけは・・・絶対に誰にも渡すものか・・・っ!

なのに、ジェシカは信じられない事を言って来た。


「ドミニク様。今はソフィーの呪縛下に無いのなら、どうかノア先輩と私を解放して下さい、お願いします。」


何だって?ジェシカ。まだ・・俺の元から離れようとするのか?


「ノアなら返してやってもいい・・・。だが・・・ジェシカ、お前は別だ。お前の事は返す訳にはいかない。」


俺はジェシカを一瞥すると言った。


「な、何故ですかっ?!」


ジェシカは泣きそうな声を上げ・・・俺の中で訳の分からない

苛立ちが募って来る。

「何故だと?そんな事は決まっている。もう何度も何度も言っているだろう?俺はお前を愛しているんだっ!だから・・・俺の側にいてくれっ!お前が側にいてくれる間だけなんだ・・・・。自分自身でいられるのが・・・。」

言いながら俺は縋りつくようにジェシカを強く抱きしめた。


外では兵士が侵入者がやって来たと叫んだ後に悲鳴が聞こえ・・それと同時に何者かがドアを蹴破って部屋の中へ飛び込んできた。


「デヴィットさんっ!」


腕の中のジェシカが助けを求めるかのように男の名を叫んだ。そうか・・・あいつはデヴィットと言う名前なのか。


「貴様・・・・ジェシカを放せっ!!彼女は・・・俺の聖女だっ!」


男は俺がジェシカを抱きしめているのを見ると、顔色を変えて叫ぶ。

フッ・・・。そうか・・お前もやはりジェシカを愛しているのだな?


「お前の聖女だと・・・?誰がそんな事を勝手に決めた?見ろっ!俺の腕を・・・。」


俺はこれ見よがしに眩しく光り輝く右腕を男に見せるように掲げた。

あの男もジェシカの聖剣士・・・だが、恐らく俺程深くはジェシカと情を交わしてはいないだろう。その証拠に男の表情はみるみる色を失っていく。

なのにジェシカはまだ俺に強く訴えて来る。


「ドミニク様・・・。本当にお願いです、どうか私とノア先輩を・・彼等の元へ・・返してください。」


「駄目だっ!出来ないっ!それだけは絶対に・・・!」

何故だ?俺の気持ちがお前には分からないのかっ?!


ジェシカは男の名を呼び、手を差し伸べたが・・・デヴィットと呼ばれた男はジェシカから苦しそうに顔を背ける。

ジェシカ・・・お前にはあの男の苦しみが分かっていないのだろうな・・・。だが、俺はあの男の苦しみが理解出来る。何故なら同じ女性を愛しているのだから。


「そうだよな・・・。俺だけがジェシカの聖剣士だと・・・すっかり勘違いしていた。だけど、考えてみればアラン王子もお前の聖剣士だったし・・・。お前と公爵は・・・余程深い絆で結ばれているんだな・・・。それだけ絆が出来たなら・・・もうお前はドミニクに裁かれる事も・・・牢屋に入れられる事もなくなるんじゃないか・・・?」


ジェシカは信じられないと言わんばかりに目を見開き、身体を震わせて話を聞いていた。


「・・・中々思慮深い所があるんだな。ああ・・・確かにそうだ。ジェシカが側にいてくれさえすれば、俺は自分を見失う事等決して無い。それだけは断言する。」

よし、お前は中々話が分かる男だな。


「よし、分かった。・・・さっきノアは返してやってもいいと・・・言ってたな?」


男の問いに俺は答えた。

「ああ。確かに言ったな。いいだろう。ノアはこのすぐ隣にある部屋に閉じ込められている。この部屋を出て右側に隠し通路がある。一か所だけ壁の色が違う場所があるからそこに触れろ。隠し部屋へ続く道が開かれる。・・薬で眠らされてるが、死んではいない・・・。早く連れて帰ってやれ。そのかわり、ジェシカは俺が貰う。」


そんな俺達の会話をジェシカは呆然とした顔で聞いていた。・・・一体今お前は何を考えているんだ・・・?


「・・・分かった。それで構わない。」


デヴィットと呼ばれた男は頷いた。


「え・・?な、何を言ってるんですか?デヴィットさん・・・・?」


まるでその大きな瞳からこぼれるのでは無いかと思われるほどに目を見開くジェシカ。


男は暫く無言でジェシカの顔を眺めていたが・・・フイと視線を逸らすと部屋を無言で出て行く。彼女は俺の腕の中で行かないでと必死で叫ぶが・・・男の耳には届かなかった。


「そ・・・そんな・・。」

ジェシカは大粒の涙を流している。


「どうした?ジェシカ?何をそんなに・・・泣いているんだ?」

俺は泣いている彼女の頬にそっと触れながら尋ねた。


「大丈夫だ。お前が側にいる限り俺は正気でいられる。ソフィーからだって守ってやれる。そうだ、ジェシカ・・・。お前をノアが閉じ込められていた部屋と同じ場所に隠して置けば、ソフィーにだって気付かれる事はない。俺は何とかしてソフィーの呪縛をとく方法を考えるから・・・。だから・・泣くな、ジェシカ・・・ッ!」


そこでまた俺は自分の体の中から・・・何かの力が湧き出て来るのを感じた。そしてそれに反応するかのように、ジェシカの身体がまるで熱を持ったかのように火照り始め・・・身体からは得も言われぬ甘い香りが漂い始めた。

まただ・・・一体これは何なのだっ?!


 やがて・・・ゆっくりと顔を上げたジェシカは妖艶な女性へと変貌していた。

ジェシカ・・・お前の本当の姿はどちらなのだ・・・・?

戸惑う俺にジェシカは微笑し、瞳を閉じると徐々に顔を近付け・・再び自分から俺に口付けをしてきた。


いいだろう、ジェシカ。お前が俺を望むのなら、俺は何度だってお前を愛そう。

そして俺は彼女を再度抱いた—。

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