第5章 12 森の古城を目指して
あの後、話し合いの末・・・マイケルさんとグレイ・ルークは屋台の仕事、そして残った私達全員でアラン王子の情報を元に新たなソフィーの拠点・・・森の中にある古城を目指す事にした。
ホテルのリビングにて—。
「うん、ジェシカ。その・・・やはりお前は何を着ても・・・か、可愛いな。」
アラン王子が私の男装姿を頬を染めて見つめている。
「はあ・・ありがとうございます。」
う~ん。やはり男装姿を見て頬を染められるのは・・・非常に違和感を感じる。
「それで、アラン王子。ソフィーの城の大体の場所は分かるのか?」
デヴィットが尋ねて来た。
「う~ん・・・。俺は話しか聞いていないからなあ・・。取りあえず学院まで飛んで。・・・そこから東へ20K程と言ってたから・・・。でも俺はその城に行った事が無いから転移魔法は使えない。」
アラン王子は腕組みをしながら答えた。
「よし、ならここで車でも借りるか?それとも・・・森の中だと言ってたからな・・・よし、馬を3頭借りるか。」
デヴィットは思案しながら言った。
「じゃあ、ジェシカは僕の馬に乗ろうね。」
ダニエル先輩は笑顔で私の肩を抱き寄せると言った。
「あ、あの・・・私、馬に乗った事無いのですが・・・大丈夫でしょうか?」
「うん。大丈夫だよ。僕はね・・・あの2人のように荒っぽい性格じゃ無いから、馬だって安全に乗せてあげられるよ?」
ダニエル先輩は何故か異様に色気を出しながら私に囁いてくる。
「おいっ!誰が性格が荒っぽいって?!勝手にジェシカを自分の馬に乗せる事を決めるなっ!」
デヴィットが喚く。
「ああ、そうだ。仮にも俺は王子だ。いいか?王子と言えば馬なんだ。だからジェシカは俺の馬に乗るんだ。どうだ?お前の為に俺は白馬に乗るぞ?」
アラン王子が訳の分からない事を言う。
「ふ~ん・・・それじゃ仕方が無い・・・。公平性を保つためにじゃんけんで決めようか?」
ダニエル先輩が腰に手を当てながら言う。
「よーし!いいだろう!」
デヴィットが何故か腕まくりをする。
「望むところだ!」
妙に力んでいるアラン王子。
「それじゃあ、いくよ・・・。」
ダニエル先輩の掛け声の元・・・。
「「「じゃ~んけ~ん・・・・っ!!!」」」
セント・レイズシティで馬を借りた私達は学院まで飛んだ後、東の森を目指して馬に乗っていた。
「どうだい、ジェシカ。馬に乗るって気持ちがいいでしょう?」
ダニエル先輩が笑顔で私に言う。
「は、はい・・そうですね。」
ダニエル先輩の胸に顔を押し付ける位、しっかり抱き付いたまま私は答えた。
幾らダニエル先輩が身体を支えてくれているとはいえ、やはり初めての馬は少々怖かったからだ。
「大丈夫、ジェシカ?怖いならもっと僕にしがみ付いてもいいんだよ?」
「いえ・・・これ以上はしがみ付けないという位しがみついていますので・・・。」
「それにしても・・・相変わらず嫌な天気だね。本当なら青い空の下で、こうして君と2人で馬に乗って草原を駆けたかったのになあ・・・。」
ダニエル先輩がどす黒い雲を見上げながら溜息をつく。
「だけど・・・天気が悪くても馬に乗るのは気持ちがいいですよ。」
ダニエル先輩を元気づける為に私は笑顔で言った。
「くっそ・・・ダニエルの奴め・・・。」
アラン王子は白馬に乗り、悔しそうに歯ぎしりしてこちらを睨み付けて独り言を言っているのが風に乗って聞こえてくる。
「駄目だ、身体ばかり鍛えていては・・・これからはじゃんけんの腕も鍛えなければ・・・。」
最早本気で言ってるのか、冗談で言ってるのかデヴィットはじゃんけんについてブツブツと呟いている。
・・・じゃんけんの修行・・・一体どうやって修行するのだろう?でも・・・どうか頑張って下さい。
「それにしても・・・ダニエル先輩は本当にじゃんけんが強いんですねえ。何かコツでもあるんですか?」
私はダニエル先輩を見上げると言った。
「コツ・・・別にコツと言ったものは無いけど・・でも相手の顔を見れば、大体何を出そうとしているのかおおよその見当はつくかな?」
「す、すごい!そんな事が出来るんですか?!」
そんな私達の様子を見てアラン王子がまたまた睨み付けている。
「くそ・・・!理不尽だ。本来なら聖剣士であり、白馬にまたがった王子の馬に乗るのが当然じゃないのか?」
「お前・・・何言ってるんだ?さては王宮ロマンス小説愛読者か?男のくせに女々しい本を読むんだな。」
デヴィットが不敵な笑みを浮かべながら言う。
「何だと!貴様っ!」
「ほーう。俺とやる気か?」
とうとう馬に乗りながら2人は口喧嘩を始めてしまった・・・。
思わずため息がついて出てしまう。
・・・前途多難だ・・・。本当にこんなチームワーク?でノア先輩を見つけ出して助ける事が出来るのだろうか・・・。
それに・・・。恐らく、その城にはソフィーだけではなく・・・公爵もいるはずだ。そして私の夢に出てきた鎧兜を身に着けたソフィー付きの3人の兵士達・・・。
その兵士達の正体は・・・私には確信があった。
恐らくは、ライアン・ケビン・そして・・レオでは無いだろうか・・・?でもそうすると1人足りない。私にマシューを紹介して来た人物であり、生徒会の裏メンバーであるテオ・・・。彼は一体何処へいるのか・・・・・。
そこまで考えていた時、アラン王子が叫んだ。
「見ろっ!森だ!森が見えてきたぞっ!」
陰鬱な雲の下・・・禍々しい雰囲気を纏った・・・森がやがて見えて来た。
ダニエル先輩がその森を見て言う。
「うわあ・・。何だか恐ろしい雰囲気の森だね・・・。何か得体の知れない魔物でも現れそうな雰囲気だよ。」
魔物・・・。確かにダニエル先輩の言う通り、眼前に見えている森はとても不気味な森に見えた。そう・・まるで私が魔界の第一階層で出会った魔物達が潜んでいるような・・・。
するとデヴィットが言った。
「いや・・魔物がいるかどうかは定かじゃ無いが・・・一番怖いのは森に棲む獣達だ。特に学院周辺の森には血に飢えたオオカミが数多く生息していると言われているからな。」
思わずゾッとする内容の話を聞き、私は背筋が寒くなるのを感じ、ますます強くダニエル先輩にしがみ付いた。
「大丈夫だって。ジェシカ。例えオオカミが襲って来たって・・・僕の攻撃魔法で一撃で撃退してあげるから。」
得意げに満面の笑みで言う。
「それは・・・心強いですね。」
そう言えば・・・ヴォルフ・・・。今どうしているのだろう?まだ・・・呪いに苦しめられているのだろうか?それとも・・・少しは回復した?
「どうしたの?ジェシカ。何か・・・考え事?」
ダニエル先輩が尋ねて来た。
「いえ。大丈夫です。何でもありませんから。」
その直後、デヴィットが言った。
「よし!森の中へ入るぞっ!2人とも・・・警戒を怠るなよ。」
「うるさい、お前が仕切るなっ!」
アラン王子が喚く。
「全く・・・俺は王子だぞ?それなのに皆平気で俺に命令してきて・・・。」
ブツブツ文句を言っている。
・・・・どうやら相当機嫌が悪そうだ。だけど、ここは危険な獣達が生息している森の中。こうなったら・・・。
「アラン王子、帰りはアラン王子の馬に乗せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「な、何?本当か?ジェシカッ!」
声を掛けると途端に笑顔を浮かべるアラン王子。
「ええ?!どうして?僕の馬の扱い・・そんなに嫌だったの?」
ダニエル先輩が悲し気に言うので、すかさず頭の中で考えていた言い訳を言う。
「いえ。そうではありません。馬に慣れない私を乗せるのはさぞ気疲れしたのでは無いかと思ったからです。だから帰りは思い切り自由にダニエル先輩には馬に乗って駆けて頂きたいだけですから。」
「なら、ジェシカッ!俺は?俺は何で駄目なんだ?!」
デヴィットがイラついた様子でこちらを見る。
「デヴィットさんには・・・皆さんと合流するまでずっとお世話になって
色々ご迷惑をお掛けしてしまったからです。」
「そうだ、2人とも。往生際が悪いぞ、ジェシカは帰りは俺の馬に乗ると言ってるんだ。だから諦めろ。」
と、その時・・・・・。
森の奥から低い声が聞こえて来た。
「お前達・・・・帰りがあるとでも・・・思っていたのか?」
「!気を付けろ!皆っ!」
デヴィットが腰に下げていた剣を引き抜くと叫んだ。
「誰だっ!姿を見せろっ!」
アラン王子も剣を構えている。
「ジェシカ・・・僕にしっかり掴まっているんだよ。」
ダニエル先輩が自分の羽織っているマントで私を抱きかかえると正面を見据えた。
やがて・・・闇に包まれた森の中から無数のオオカミの群れを引き連れて・・1人の兵士が私達の前に姿を現した—。
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